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引き戸を開けてすぐ目の前にカウンター席が並び、横に進むと何席かの座敷。
こっちいいっすか? と、店員の女性に座敷を指差しながら問いかける木下に「あら、木下くん。今日は瀬古ちゃんやないんやねぇ」なんて声を掛けられているのでアウェー感がとんでもない。
少しばかりかしこまってしまう。
「吉川さん、こっちこっち」
「う、うん」
手首を掴まれ、カウンターに座る先客たちにスペースをあけてもらいながら座敷へと急いだ。
「はー、待たんと入れてよかったっすね」
「ね。まだ六時だしこれから混むのかな」
当たり障りなく会話をしてメニューを見ていると、唐揚げ、だし巻き、枝豆、フライドポテト、たこわさ……飲みたくなってしまう。
「あ、飲みたいなぁとか思ってるでしょ」
ヨダレでも垂らしていたのだろうか。
目の前に座る木下がククっと小さく笑い声を上げてほのりを見た。
「僕は飲めへんのですけど、吉川さん飲んでもらって大丈夫っすよ」
「ん? 飲めないって?」
あまり突っ込んで会話をするつもりはなかったのだけれど、ついつい聞き返してしまった。
「いや、この後ちょっと身体動かすつもりなんで……って、そうや。吉川さん背高いけどなんかスポーツしてました?」
「うん、バレー」
答えると、「マジで!」と、ぱぁっと目を見開く。何がお気に召したのだろうか。
「バスケかバレー似合いそうやなとか思ってたんすよね! 俺、今からバレー行くんすけど吉川さんもどうです?」
「え!?」
突然の誘いに驚き、少し後ろに引いてしまう。
その様子を見てだろうか。
木下が少しだけ声を小さくした。
「あ、急にすいません。たまに体育館かりて何人かで集まるんやけど、横繋がりで知らん人も結構来るし。あ、ちゃんと女の子もいますよ」
「……うーん」
ほのりが悩んでいると、木下は残念そうに肩を落とした後、頬杖をつき姿勢を低くして。
「一緒にいきたかったけど、あかんっすか?」
「……ぐっ!」
上目遣いに、鷲掴みにされた心臓が苦しい。
(私が可愛い男を好きと知ったうえでの行動か……!?)
長年も関東支店で見続けていた同期の男たちは、可愛さのかけらもない人間だったものだから。きゅるんと可愛い目を向けられるととんでもなく頭がアホになってしまう。