テクテクと階段を下り切ったコユキの目の前には、重なり合った石、石、石達が並んだ河原の様な光景が広がっていたのである。
コユキは苦笑いを浮かべて言うのであった。
「ここが賽(さい)の河原ってか? お世辞にもいい趣味とは言えないわね」
次の瞬間コユキは音痴な歌を謡い始めるのであった。
「一重積んでは父の為ぇ~! 二重積んでは母の為ぇー! 三重に積んでは西を向きぃぃぃいい!」
歌唱力は並以下であったが節に合わせてテンポよく周囲に転がる石を積み上げていくコユキ。
自分の身長に後石一つと言った所で、歌と積み上げ作業を止めると呼吸を整えながら口にしたのである。
「スーハー、あと一つで背丈を越えるわね、予想が正しければ良いんだけど……」
そう言うと慎重な手つきで最後の石を持ち、積みあがった石の塔の上部から静かに落としながら、
「それ! 『加速(アクセル)』!」
ピュゥ――――っ!
姿を掻き消したコユキと入れ替わるように、河原全体を眩い(まばゆい)輝きで照らしながら現れた存在は見るからに尊(たっと)そうななりであった。
具体的には頭髪を剃り上げた裸体に、幅も丈も通常よりもたっぷりとした青いウターリャ(トップス)に身を包み、アンターリャ(ボトムス)は着けていないようだ。
右手に長い錫杖(しゃくじょう)を持ち、左手には宝珠を揺らめかせ、雲の様な魔力塊(まりょくかい)に腰を下ろして背負う後光は不気味な赤錆色(あかさびいろ)をしている。
ヴィラヤ(ブレスレット)やヌプラ(アンクレット)、カンタ(ネックレス)は共通して色鮮やかなクォーツを好んでいるようだ。
輝きが落ち着くのを待って彼は言うのであった。
「六道(りくどう)に迷える衆生(しゅじょう)よ、私を呼びましたね? 私は貴方を救いへと導く者、尊い(たっとい)尊いそれはもう立派な|地蔵菩薩さまですよ~、ん? あれれ、衆生は? おーい! 衆~生~っ! お地蔵さまだよぉ~! あれえ、おかしいな…… はっ! まさかっ!」
何かに気が付いた風に言うと、自称お地蔵さんは慌ててクラックの入り口目指して階段をダッシュで駆け上がって行くのであった。
一階に上がって入口に向かう時、チラッと台座の上を横目で確認し舌打ちを打つのであった。
クラックの入り口ではコユキが一所懸命に穴を塞いでいた。
ゴトっ! ゴロゴロ、ゴトっ! ゴロゴロ、ゴトっ!
「ふぅ~、これで蟻の這い出る隙間もないわね、完了かな?」
コユキが苦労して運び蓋(フタ)代わりに使った物は、空っぽになった地蔵の台座、蓮(ハス)の大輪が彫り込まれた巨大な大石七個であった。
がっしりと重ねられた石の僅かな隙間から声がした。
「これこれ、こんな事をしてはいかん! 私は地蔵菩薩だぞ、早く石をどかしなさい! な?」
コユキは答えた。
「ふん、そんな事言ちゃってぇ、どうせそこから出したら傘と手拭い取り上げるんでしょうが! その手は食わないわよ!」
地蔵はやや興奮した感じで叫ぶのである。
「んな事せんわい! そもそも謡いながら石を身長まで積む、その謎を解けた者にそれらの品は与える予定でいたのだ、分かったらどかせよ! 早く、出せぇ!」
コユキは動じない。
「ふん、分かったもんですか! アンタ等神様や仏様のふりしてるけどさ、只の悪魔だって、こちとら吹田(すいた)で聞いて来てんのよっ! 本当のお地蔵様だったら六道(りくどう)のどこにでも移動可能でしょぉ? 諦めてそこで反省すんのね、ばぁ~かぁ!」
地蔵も諦めない。
「ば、馬鹿はお前だろうがぁぁ! 早く出しなさいっ! ってか出せよっ! このブスっ! 洒落になんねぇぞっ! 出っせっー! こらあぁ、出せっよおぉぅー!」
コユキはいつまでも煩い(うるさい)、自称地蔵をどうするか、暫し悩んだ時、ピンッ! と来たのであった!
「ああ、岩手だもんね…… おい! 偽地蔵っ! これでも喰らえ! むむぅ ブブウウウゥゥっ! プスッゥゥゥゥゥ! プゥゥっ!」
「くっはぁーぁ! 臭っ、臭っあぁ~、ムムゥッ~! グバッ! ウウウ~ン!」 バタリッ!
漸く(ようやく)静かになった事に感動至極であったコユキは、コソ泥っぽい頬被りのままで、その場を立ち去ろうとしたのであった。
その時、掛けられた声は馴染み深い物であった。
「あれれ、コユキちゃん? おお、首尾よく行ったようでござるなぁ? それがここのアーティファクトでござろ? お疲れ様でござったなぁ?」
善悪だ、幼馴染の優しい表情に向けてコユキは言うのであった。
「まあね、んでも最後粘ってきてヤバかったのよぉ! 偶然、地元岩手の偉人を思い出せたから事なきを得たんだけどさっ!」
善悪は頭の上にハテナを浮かべて聞くのであった。
「岩手の人ぉ? 誰でござろ、教えてクレメンス!」
コユキは言うのである、自信満々で、
「ああ、あれよあれ、『働けど働けど未だ我が暮らし楽にならざり、ブッ! と、屁をこく!』 ッてヤツよ!」
善悪が呆れた表情で言うのであった。
「啄木(たくぼく)なの? それ? まあ、良いけどさぁ、じっと手をみゆだったと思うのでござるよ~?」
コユキは驚いて返す。
「ええぇ! そうなのん? そうか…… 手を見んのね…… 判ったわ、覚えとくね! にぎりっぺだったんだね、覚えとくよ、アンガト善悪、博識ね!」
「いやあぁ、えっ? にぎりっぺ? ? んまあ、それ程でもぉ~、まあ、いっか! てへへ」
話しながらも、善悪が買い込んできたリンデンさんの美味しすぎるピッツァを頬張りながら、岩手奥州市を後にするコユキであった、のである。
ピッツァに満足して電車に揺られる二人は気が付いていなかった。
実の所、このレストラン『リンデン』…… 近隣の人々から圧倒的な支持を受けている老舗の洋食レストランだったのである。
テイクアウトだけでもこの満足感、いつものコユキならば言っていた筈だ。
「なにこれ! チョー美味しいじゃん! お店にも寄っていきましょおよおぅ!」
と……
気が付かなかったとはコユキには珍しい不覚といえるが、有名所のお地蔵さんとの心理戦の後である…… 仕方ない事だったかもしれない……
残念ながらコユキとは縁がなかったリンデンであるが、おじいちゃんおばあちゃん、パパママそれに僕と私、大人から子供達にまでみんな大好きな洋食屋さんとして、これからも地元の方々に愛され続ける事だろう……
因み(ちなみ)に現在で四十八年目である、二年後のフィフティアニバーサリーが楽しみなレストラン『リンデン』、おすすめのメニューは…… 全種類食べるほど通い込んでいただきたい!
そして言って欲しい、『お薦めだって? ふっ、自分で見つけるんだな、坊や?』と……
新幹線に乗り込んで、コユキの後ろをニコニコしながらついて歩く善悪もご機嫌で、二人にとって思い出深い良い遠征になったのでは無いのかな?
そう思える一日の出来事であったのである。
後書き
■□■ SpecialThanks!! ■□■
岩手県奥州市 レストラン リンデン 様
本編に書かせて頂く事を快く了承して下さいました。
またお店の現状も親切に教えて頂き、テイクアウトや配達も併せて
元気に営業中とのことでした!^^
お近くの方は是非美味しい料理をご堪能下さいませ。オススメです!
本当にありがとうございます!
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お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*‘v’*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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