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ほんのり自殺を匂わせる表現があります。苦手な方はお戻りを。
心臓の音、人の体温、息だけが聴こえる屋上前のスペースで抱きしめあっていた。相手を呼んだ張本人とも言える存在なのに、言葉にできないこの何とも言えない寂しさが自分を支配していた様な気がする。相手の体温が、鼓動が、息が、このなんとも言えない自分の感情を落ち着かせて、自分がここに居るんだと一種の証明の様な気もしていた。前にいる相手のその薄い茶髪がオレンジの光に照らされてキラキラと輝いているようにも見えた。あの夕日の影響か、ただ時間が無限に過ぎていく。
あの後、落ち着いた。ただの混乱だった気がする。学校を出た後は無言だった。普段ならくだらない話や世間話でもしていた筈だったが、何しろあのさっきの抱きしめ合っていた行為の後だ。気まずくならない方が可笑しいと言える。…歯がゆい恋心だったのか、それともただの気の迷いか。今は、ただそれで良い。後でこの感情に名前をつけよう。それぐらいなら許されるだろうと思って無言を貫く。「今の思い出のままで」と思いながら深い、深い…あの青色へ溺れていく。何故か忘れられない、一時の記憶 に思い耽りながら、青色へ沈んでいく。角砂糖が珈琲に沈んで行くように、落ちていく。
…未練があるなら、あの感情に名前をつける事ぐらいだ。