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夏の終わり、冷たい箱の中で

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夏の終わり、冷たい箱の中で

2 - 二人の放課後

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2025年08月24日

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空が茜色に染まる頃、校舎裏にあるベンチにはふたりの影があった。

ナツギは手に文庫本を持ちながら、ハルトの笑い声にうなずいている。  ハルトは部活帰りのジャージ姿で、アイスを口に放り込んで喋り続けていた。

「でさ! そのとき俺、先生に思いっきり怒鳴られてさぁ!“廊下は走るな!”って!……ナツギ、聞いてる?」

「うん。ちゃんと聞いてるよ」

ナツギは本から目を離さずに言う。けれど、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。  このやりとりは、もう何百回も繰り返してきたもの。  ハルトがくだらない話をして、ナツギが静かに笑う――それが、ふたりの放課後だった。

「……なあ、ナツギって、俺の話つまんないって思ったことある?」

「ないよ。ハルトの話、好きだよ」

即答だった。

ハルトは少し驚いたようにナツギを見て、それからにやけた。

「……なんか、ありがとう。ナツギがそう言ってくれると、嬉しいな」

ナツギはその言葉を胸の奥で何度も繰り返す。  “嬉しい”と言ってくれること。自分を見てくれること。  それが、何よりも――何よりも、大切だった。

ふたりは並んで帰る。通学路を抜けて、川沿いの土手を歩く。  夕陽が水面を照らして、黄金色の世界が広がっていた。

「ナツギって、将来何になりたいとか、あるの?」

「……まだ、わからない。でも、何か……必要とされることがしたいかな」

「ふーん。……俺は、ナツギがそばにいてくれればそれでいいけどな」

ナツギの足が、ぴたりと止まる。  ハルトは気づかず、先を歩いている。  夕焼けに照らされたその背中が、やけに遠く感じた。

「――ナツギ? どうしたの?」

「……ううん、なんでもない。行こう」

ほんの小さな違和感。  けれどその日から、ナツギの中で、何かが音を立てて歪み始めていた。

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