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第二話 足跡
高坂と若井はここから歩いて3分ほどの距離にある現場向かった。
現場に到着すると辺りは混沌としていた。
何台も並んだ救急車、消防車のサイレンがそこらかしこに響いている。
まだ日も上がりきっていない明け方。
赤く光るライトが住宅街を幾度も照らす。その光景は異様だ。
現場は火災の鎮火に当たる消防隊員や救助後の治療を行う救急隊のための場所だ。
まだ警察は入れない。
「まだ現場入れないよ」
若井が藤澤に念を押したが当の本人は気にしていないようだ。
曖昧な返事が帰ってきた。
藤澤は辺りの景色を見渡すとある方向を指した。
「あそこ行っていい?」
「え?」
若井ではなく高坂の方を見て話を振ってきた。
高坂は指さされた方向を見る。
しかし、まだ夜明けという事もあって何を示しているかよく分からない。
そもそも、理解する必要も無いと思う。
「いいんじゃない、行ってきたら」
高坂が投げやりに言うと若井がそれを拾った。
「涼くん、どうした?」
「あの高台」
藤澤がそう言うと、さっきまでぶっきらぼうだった高坂が藤澤に興味を示した。
「高台?」
高坂も藤澤と同じ顔の高さに合わせると視線の先を合わせていく。
そしてニヤリと笑った。
「景色が一望できていいかもね、火災もよく見えるし」
高坂の言葉に藤澤が頷くと言った。
「犯人も同じこと思ってるかも」
「怖いこと言うなよ」
若井はそれを想像して戦いたが二人は気にせずに高台に歩き出した。
「え、本当に行くの?」
若井が高坂を追いかける。
高坂はちらりと振り返ると若井に話しかけた。
「どうせまだ現場空かないでしょ
何、怖いの?」
「怖いってわけじゃ…」
高坂は結いてある髪の毛を解くと再度結び直した。
ロングの髪がゆらゆらと揺れる。
「本当に犯人いたら大手柄
それはそれでラッキーじゃん」
若井はポケットからハンカチを取り出すと滴る汗を拭いた。
「犯人は現場に戻ってくるってよく聞くけど…イマイチ実感ないんだよ」
「いや、」
藤澤が鋭く言った。
高坂と若井が同時に目をやると藤澤は前を見ながら話す。
「絶対に現場に戻ってきてる
これほどの爆発を起こすのは簡単じゃない
何度も頭の中でシュミレーションしたはず」
藤澤は捲し立てるように言うと若井に目線を投げる。
高坂が隣で頷くと口を開いた。
「犯人ならその答え合わせをしたがるって事ね
うん、私でもそうする」
この二人の意見が揃ってしまったら若井は何も言えない。
「なるほど…」
若井は足元を見つめながら返事を返した。
爆発現場から8分ほどは歩いただろうか。
藤澤が興味を示した高台に登ると確かに火災の様子が良く見えた。
まだ静かな街の中で煌々と光る炎が爆発の規模を示している。
藤澤は高台に設置されたベンチに腰を下ろすと、山から降りてきた涼しい夜風が頬を撫でた。
#大森元貴
ぴり
940
Riri
863
#Mrs. GREEN APPLE
RanJam
661
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爆発発生から8時間後。
本庁が捜査本部を立ち上げた。
若井と高坂は現場の視察を終えてから本部に向かった。
藤澤にも声をかけたが会議には参加しないそうだ。
若井が会議室に入ると案の定、別の班もいつくか集められていた。
その中に久世の姿もある。
「ほら、言った通り」
高坂が後ろから囁いてくる。
二人は捜査一課として前列の方へと足を運んだ。
同じく捜査一課の久世班がこちらの姿に気がつく。
久世の相棒、倉井が関心したように口を開いた。
「おぉ、相変わらず華がすごいね」
「お疲れ様です」
若井がぺこりと挨拶をした。
習って高坂も頭だけ下げる。
「いやー、忙しいのに大変だね
若井くんなんて警察24時の撮影中だろ?」
「え?いいえ…」
若井は困惑した。
そんな撮影の予定はない。
「あー、若井くんじゃなかったのか
今、撮影中って聞いたんだよ」
「…あはは、そうなんすね」
若井は笑ったが、内心では苛立ちを感じた。
広報の仕事を全部引き受けてると思われたらたまったもんじゃない。
高坂は何も気にしてない様子で倉井の隣に座ると若井に言い放った。
「若井、ファブリーズない?
この辺り加齢臭する」
倉井が眉間に皺を寄せて高坂を見た。
若井は盛大に吹き出すと、慌てて咳払いをする。
若井が高坂の隣に座ると前にあるホワイトボードに目をやった。
板書担当の刑事が事件の概要をまとめている。
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目白育心寮爆発事件
概要
午前5時頃 児童養護施設「目白育心寮」において爆発事件が発生
現在時点の被害状況
死者21名 重傷者2名 軽傷者なし
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若井は黒板から目を離せない。
「は、21…」
高坂も若井の声で顔を上げると黒板に目をやった。
高坂は微かに目を細めると机に目線を戻した。
久世が口を開くと静かに話し始める。
「ほとんどが児童だ
朝5時なんて子供は寝てる」
「…寝てる」
高坂が呟くと瞳が揺れた。
「似た事件なかったですか?」
久世が高坂に目線を走らせる。
「ほら…就寝中に爆発、確か同じくらいの時間」
高坂が記憶を辿ると久世の瞳が大きく開いた。
「こばとの家か」
久世がそう言うと高坂が立ち上がった。
「そうです!あれも児童施設です!!」
久世の呼吸が早くなる。
高坂は抑えられないように捲し立てた。
「しかも同じ大規模爆発、これって」
「まだ模倣と決まったわけじゃない」
久世が高坂の言葉にストップをかけた。
「いや模倣みたいなものですよ」
高坂が食い下がると久世は首を振った。
「まだ捜査は初動だ、捜査員の数も限られてる。
今回、力を入れるのは事件の解明よりも犯人の確保だ」
高坂は見せつけるように、ため息をつくとすぐに反抗した。
「だから犯人を確保するために接点の洗い出しを」
「その洗い出しは誰がやる
この班には捜査員が無限にいるのか?」
高坂が唇を噛むと恨めしそうに目を開いた。
そこで若井が口を挟む。
「心あたりありますよ、時間があるやつ」
高坂が見開いた瞳のまま若井に視線を走せた。
「誰!?」
「さっきあった涼くん」
高坂が手を叩いて音を鳴らす。
「あー!涼くんね!!」
「誰だ、そいつは」
久世が素早く言葉を挟んだ。
「臨床士の藤澤です」
「…あいつか」
「ですが藤澤は優秀です
こばとの家と今回の事件の接点を彼なら明日にはまとめて出せるはずです」
若井の言葉に久世は年季の入った眼鏡を親指で直した。
「明日には出せるんだな?」
「はい、必ず」
そういうと久世は頷いた。
「だが、その捜査に関わるのは藤澤のみだ
お前たちは本庁の指示に従え」
若井と高坂は頷く。
「了解です」
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藤澤は現場検証から帰宅後、犯人の目的を考えていた。
犯人からは児童に対する強烈な殺意を感じる。
火薬の量はあの施設の爆発を想定したにしては多すぎる量が使われていた。
藤澤が目をつけたのは何よりも爆弾が置かれた位置だ。
爆発は全てで3発。
設置しやすい場所には設置せずに児童が就寝する部屋を狙うように仕掛けていた。
ということは事前に就寝部屋のリサーチをしていたということだ。
爆発の種類も急速に熱線が発生するタイプで殺傷能力が非常に高い。
これも自作で作るのは簡単な事じゃない。
深い執念を想像させる事件。
藤澤の大好物だ。
若井から貰った羊羹を頬張りながら考えているとスマホの着信音が鳴った。
「あ、」
藤澤は机の上を見渡すがスマホが見つからない。
音を頼りに探すと資料の隙間に隠れていた。
液晶画面を見ると若井からの着信だ。
「はーい」
『あ、涼くん。頼みがあって』
「うん」
『今回の爆発事件と似た事件が前に起きてたんだけど、それの洗い出し頼んでいい?』
藤澤の胸を何かがザワつかせた。
「似た事件…何年前?」
『え…ちょっと分からない
資料送っていい?』
「うん、よろしく」
藤澤が承諾するとパソコンに資料が届いた。
すぐに全てプリントアウトする。
『ねぇ、それでさ…その…』
珍しく歯切れが悪そうな若井の声がする。
『明日までに類似性まとめる事ってできたりする…?』
「類似性?うん、いいよ」
藤澤はさっそくコピーが吐き出した資料に目を通した。
『あ、本当にありがとう…あのお礼とか』
「そういえば死者何人だった?」
『あ、うん…21人』
藤澤は2名が即死から逃れていることに驚いた。
あれほどの計画性を感じる犯行でも思い通りには行かないようだ。
この事を聞けば犯人は悔しがるだろうか。
「わかった、またね」
藤澤は若井に断ると通話を切った。
今回の事件と類似しているという「こばとの家爆発事件」の資料を眺める。
どちらも早朝に発生した児童養護施設への爆発事件。
多く死者を出した点も類似している。
しかし爆発の設置方法が違う。
こばとの家はお手本のような設置方法だ。
つまり、置いてすぐに現場から離れられる。
それでも多くの死者を出したのは結果的に児童たちの寝室が近かったからだろう。
爆弾の種類もその当時、流行っていた作り方そのものだ。
藤澤の興味はみるみると薄れていった。
何が模倣だ。
今回の事件の方が余程、思考が凝らされている。
苛立ちを感じながらページをめくっているとあるページで手が止まった。
ある人の聴取だ。
事件名:「こばとの家」爆発事件
供述人:大森元貴(現14歳)
聴取区分: 参考人聴取
聴取目的: 事件発生時の所在及び事件前後の行動確認
事件発生当夜、友人ともに肝試しに行く為に施設を離れた旨を述べた。
友人三名に事実を確認。
大森含め計四名で有名な心霊トンネルに自転車にて向かった事実を確認。
施設を出た時刻について、正確な時刻は覚えていないとし夜間であった旨を説明。
事件発生を知った経緯について
肝試しから帰宅途中、施設が爆発する様子を目撃し慌てて帰宅。
その際に施設の火災を確認。
その後、多数の死傷者が発生する爆発事件であることを認知した旨を述べた。
事件発生時に施設内にいなかった理由について、供述人は肝試みに出かけていたためであると説明した。
以上。
藤澤は顎に指を持っていった。
事件当夜、たまたま肝試しに行ってたとは運がいい。
建物内にいれば命はなかっただろう。
しかし、藤澤はさらに思考を回した。
この青年の逃避行は日常的なものだったのだろうか。
明け方5時をまわっても施設にいない事がこれまでに何回あったのか。
児童施設だ。
普通の家庭よりはストレスが溜まることも想定できる。
しかし夜中の外出がこの時初めてだとしたら、これは運がいいという言葉では片付けられない。
それは都合がいいと考えるのが自然だ。
こばとの家、唯一の生存者。
大森元貴は今どんな風に生きているんだろうか。
コメント
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2話同時に投稿していただけるなんてぴりさん凄すぎます! ついに大森さんが登場✨️ 今後の展開が楽しみです!!
ぴりさんの新作!!✨ もう大好きですこのお話! 日曜劇場でやってますか!? 続きがとても楽しみです!
ぴりさん、第2話「足跡」拝読しました…! 高坂さんと若井さんの絶妙な掛け合いがもう心地よくて。高坂さんの「加齢臭する」には思わず吹き出しました。でもその一方で、被害者21人という重い数字が胸に突き刺さります。藤澤くんの「こばとの家」資料を読み込むシーン、彼の頭の中でパズルが組み上がっていく感じがぞくぞくしました。大森元貴という生存者の存在も気になります…次が待ち遠しいです。