テラーノベル
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舜太と食事を終えた俺は皿洗いをしていた。舜太は後でいいと言うが俺はこういうのが気になる質なのだ。当の本人はリビングの机に座って俺を眺めている。
「なんか、こうしてるとほんまに奥さんみたいやなぁ…」
「バカなこと言ってんな、手伝え」
「はーい」
気の抜けた返事をする舜太にイラッとする。
こいつが料理を得意でないから仕方ないが、一緒に買物して、俺が料理を作って、片付けて……本当にまるで……。
そんな事を考えないように丁寧に皿を洗い舜太に渡して拭かせる。
当の本人は何も考えてないようにくだらない雑談を投げかけてくる。動揺を悟られないようにテキトーに返事をしてもくもくと家事をこなす。
舜太の真っ直ぐさにいつも振り回されている自分に辟易する。それでも幸せを感じている俺は、やっぱりこいつが好きなんだと少し悔しくなる。
皿の位置を戻し満族する。やはり家事をするのが1番落ち着く。って、本当に主婦みたいだな…。
そんな事を考えながらリビングに戻ろうとすると後ろから舜太に抱きしめられる。
「…仁人」
「っ…………」
ぞくり、と身体が震える。
最近舜太が行為中どさくさに紛れて俺の名前を呼び捨てするようになった。
普段なら怒るところなのだが最中にそんな事を言える訳もなく、当たり前のように受け入れるようになっている。
そして、この呼び方をされると俺の中のスイッチが入るようになってしまった。これがいわゆるパブロフの犬、というものなんだろうか。
舜太に俺の耳を甘噛されて思わず吐息が漏れる。
「…仁人、しよ?」
こいつも分かっているのだ、わざと俺のスイッチを入れている。付き合う前はガキのように思っていた舜太に俺はいい様に操作されている。
「……ん、いい、けど……」
心の中で色んなことを思うのに俺の口は勝手な動いて身体も反応している。自分の理性ではどうにもならない。
俺を振り向かせた舜太はその言葉を聞いて満足そうに笑っていた。なんでこいつはこういう時もいつもと変わらない顔ができるんだ。
自分ばかり振り回される事に少し腹が立った。舜太の頬に触れる。
「………しゅん…」
恥ずかしくてつい声が小さくなったがそう呼びかける。
そうすると舜太の表情が変わる。目が細まって少しうっとりしたような、それなのに苦しそうで何かを抑え込むような顔。
俺はこの顔が、好きだ。
瞬間、舜太が俺にまるで噛み付くようにキスをする。俺の頭と背中に手を回して逃がさないようにホールドして、俺の口内を激しく貪られる。
これは行為の最中に俺がたまたま言ったのを舜太が気に入って、そう呼ぶようにお願いされたものだ。最初は馬鹿らしいと思っていたが、行為中に求められるうちに応えるようになっていった。
空気を求めて舜太の服をぎゅうと握ると、名残惜しそうに俺から唇を離す。唾液が糸のように繋がっていた。
息の洗い舜太が俺を見つめる。俺だって、お前のスイッチを知っている。
「はあ〜ズルいなぁ、仁人は…」
「お前もだろ」
寄り添うように抱きつくと、お互いものが反応しているのが分かる。
舜太の鼓動がドクドクと聞こえて、少しいい気分になった。……多分、俺も同じぐらい鳴っているのだろうが。
「たっぷり責任取ってな?」
「しゅん、こそ、な」
わざと笑って強調するように言うと舜太に体を持ち上げられる。
「23歳の体力舐めたらあかんで?仁人」
笑みの一切ない舜太に囁かれる。
……少し、挑発しすぎたかもしれない。
頭では後悔しているのと対照的に俺の身体は期待でいっぱいになっていた。
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「では曽野さんへの印象はいかがですか?」
「舜太かぁ。いつも明るくて素直なのが良いところよな」
「そうだね。しゅんのあのポジティブさに救われることはよくある」
「たまに変な事もしだすけどな!」
「まあね、でもそういうしゅんのチャレンジ精神はすごいと思う」
よくあるインタビューの質問。今日は俺と太智、勇斗と柔太朗と舜太で別れていた。
何回も取材に来てくれるネットメディアの人なので終始和やかな空気で話すことができた。
終わって一息ついてると、ふと太智が不思議そうな顔をして呟く。
「…吉田さんってさあ、舜太のことしゅんって呼んでたっけ?」
サッと顔が青くなる感覚がした。誤魔化すようにポケットに手を突っ込んで上を向き何でもないように振る舞う。
「いや、たまには呼んでたけど…」
「でも今日ずっとしゅんって言ってたで」
思わずガタッと椅子を立ち上がる。
「ヤバい、ちょっと言い忘れた事あったから話しにいくわ。今思い出した」
「ん?ああ、いってらっしゃい」
太智のいる部屋を出るまでは普通に歩いて、ドアを閉めた瞬間ダッシュして記者の人を追いかけた。
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「だいちゃんたちのインタビュー何か時間かかってるね」
「ん〜仁人ってこういう時結構真面目やからなぁ。長いこと喋ってるんちゃう?」
2人のインタビューの待ち時間に柔とはやちゃんと話していた。
「あーあるある」
「……まあ、よっしーはリーダーだしね。そういえば舜さ、今日なんかよっしーに怒られてなかった?」
「怒る…?あー!あれは何でもあらへんよ。仁人とは仲良しやから、心配せんで」
昨日はちょっと、やりすぎた。でもあっちからも誘ってきたんやもん。仕方ないやんな?
まあでも、今日がラジオやダンス撮影の日じゃなくて良かったなと思った。腰が痛いとかなり怒られたので少しは反省している。
「確かになんか怒ってたな……ん?ていうか、お前めちゃくちゃ普通に呼び捨てするじゃん」
「へっ!?」
はやちゃんの言葉に変な声が出る。
「お前それインタビューで言ってあいつに読まれたらまーた怒られんぞ」
「あ〜せやな!なんか仁ちゃんのこと呼び捨てしたくなってもうた〜」
笑って誤魔化したつもりだけど焦った。昨日あんまり呼びすぎたから、つい出てしまったんかな?本当に気をつけんと…。
「へーよっしーってそういうの許してくれるタイプなんだ」
スマホを見てるはやちゃんに聞こえないぐらいの声量で柔が言う。
「な、何が?」
「マジで気をつけないとダメだよ。インタビューって録音もするし外に出るんだから」
クスッと笑われながら言われて柔の観察力にびっくりする。それと同時に気が引き締まる。
「うん…ほんま気をつけるわ……仁人…じゃなくて仁ちゃんには内緒にしてな?」
「分かってるって」
ほっとする俺を見て柔太朗は楽しそうに笑っていた。それを見たはやちゃんが「何?」と聞いてきたが全力で誤魔化した。
無事インタビューを終わらせた後、はやちゃんに「こいつインタビューの前にお前のこと呼び捨てにしてたぞ」とチクられて焦ったのに、仁ちゃんが意外と怒らずにバツの悪そうな顔をしていたのは何でなのか分からなかった。
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