Trick or Trick?
今日はハロウィン。探偵社もどこか浮き足立つものが多い。
「Trick or Treat!!」
出勤早々大声をあげるのは太宰治。浮き足立つものの筆頭である。
「あぁ!喧しい!いい歳して何をしている!仕事をしろ仕事を!」
「あれ〜?国木田くんお菓子は〜?」
毎年太宰からしょうもないイタズラをされる国木田も流石に覚えたのか今年は用意周到に準備している。
「ほら、やるから仕事しろ」
「お〜!美味しそうなクッキー!!ありがとう国木田くーん!」
「国木田〜!僕もTrick or Treat!」
「勿論乱歩さんの分もありますよ」
子供のように喜ぶ乱歩はその場でむしゃむしゃとクッキーを食べる。
ルンルンと喜ぶ太宰だが漸くくいくいと己の外套を引っ張る人物に気がついた。
「どうかしたのかい?鏡花ちゃん?」
「太宰さん、Trick or Treat」
「あぁ、お菓子ね。勿論用意してあるよー」
いつもイタズラする側の太宰はイタズラされるのは癪なのかこの行事の時の用意は人一倍万端である。
「だ、、太宰さん、Trick or Treat」
「うん、敦くんの分ももちろんあるよー」
「国木田くんにも〜」
「別に要らん」
「お返しだよ〜」
「あ、与謝野女医〜!Trick or Treat!」
「あ?あぁ今日はハロウィンか。ほらよ」
「ありがとうございます!」
今日は探偵社一同がお菓子を持ち合わせている。なぜなら探偵社1の問題児、自殺愛好者(じさつマニア)が上記の通り片っ端からお菓子をたかるからである。だがその光景も朝だけで、、というのもいつも心中心中言っているこの男が珍しく黙々と仕事をしているではないか。
「太宰さん、どっかで頭でも打ちましたか?」
そう聞くのは太宰の直属の部下中島敦。優しさが感じられるその声から発せられる言葉は時折なかなかに失礼である。
「今日は胃薬が、、要らないだと…?」
胃薬を常用しているこの男は太宰の相棒国木田独歩。序盤から2人して失礼だが、それだけ探偵社の自殺愛好者は普段、仕事をしないのである。
「今日は少し用事があってね、絶対後で電話されるのは御免だから。」
「俺だって電話したくてしているのではない!いつもそうやって仕事をしていれば電話などかけんのだ!」
「だから今してるじゃないか。」
用事。それは定時で家に帰ること。太宰治には同居している恋人がいる。探偵社の敵対組織
“ポートマフィア”五大幹部の1人。中原中也である。因みに太宰は元ポートマフィアで幹部を勤めていた。その頃からの恋人だから……と数えると中々の年月となる。ポートマフィアの仕事というのはそれは厄介で、というのも朝から仕事のとこもあれば夜から朝にかけてということもある不規則なバイトくん達もびっくりのとんでもスケジュールで働いている。そのため同じ家に住んでいるとはいえ毎日朝出勤し夕方帰ってくる超ホワイト企業の探偵社とは生活スタイルが合うはずがない。太宰は毎日毎日寂しい寂しいと言いながら1人侘しく中也が作ったご飯を食べることになる。ここまで語ってお察しだろうが、そう。今日はそんな2人のスケジュールがピッタリ合致したのである。この期を逃す太宰ではない。まぁいつも定時で帰っているのだが、今日だけは、国木田に電話でどやされるのは御免だ。ということで普通の人間なら丸一日かかるであろう書類業務を1時間足らずでやっつけている。
「毎日こうならいいのに……」
「全くだ。」
そして帰宅____
「中也〜!ただいまぁー!!」
『おう、おかえり。』
「」((ギュー♡
『おっと、、急に抱きつくなよ』
「だって、寂しかった……」
太宰が全力で甘えるこの男こそ、上で記した中原中也である。
『ハイハイ、俺も寂しかった……ほらご飯できてるぞ』
「やった!!今日何?」
『カニ炒飯』
「やったー!!中也大好き!」
『その好きは俺じゃなくて蟹だろ?笑』
「手洗ってくるね!」
『おう、洗ってこい』
いつも中也のことを私の狗だと言っている太宰だが、こういう時のテンションをみてどっちが狗だかわかんねぇなと思う中也である。
晩御飯も早々に食べ終え恋人特有の(まぁ筆者は恋人の空気感なんて知らないのだが、、)俗に言うイチャイチャとでも記そうかという時間に入る。
「ねぇ中也!Trick or Treat!」
今日何回発したかという台詞を恋人の前でもう一度口にする。
『勿論菓子あるぞ、ほら』
そう言って手渡されたのはハロウィンというかなんとも中也らしいお洒落なデザインのアイシングクッキー。シーリングスタンプ調のもの、レターセットのような柄のもの。英字新聞を模したもの。中也が料理をするのは知っていたが、ここまで嬉々としてやる男だったろうかと思い直す。太宰は見逃さなかった。文字がびっしり書かれた英字新聞のそこにILoveYouの文字が入っていることを。
「ねぇ、これ私用?」
『当ったりめぇだろ。そんな細けぇの何個も作ってられっか。』
「ポートマフィアでは誰にもあげなかったの?」
『やったけど市販のもんだ。』
「へぇ、、」
お前だけ。特別。そんな状況がとてつもなく嬉しかった。そんなことを言われたら、食べられないではないか。
『じゃあ俺からも、Trick or Trick?』
「へ、、お菓子、いらないの……?」
『菓子なんかじゃなくて手前が欲しい。』
そう言ってソファーに太宰を押し倒す中也。
「ちょ、、ちょっと待ちたまえ、、明日普通に仕事だから……ね……?」
『知らねぇ。俺は休みだ。』
「い、、嫌だよ!自分だけ休みだからって」
ポートマフィアの休みは気まぐれだ。1ヶ月なかったかと思えば怒涛の連休が来ることもある。
『じゃあ菓子くれんのか?』
「それは……持ってないです……」
探偵社で配った分が最後だ。
『なら大人しくイタズラされるしかねぇよなぁ?』
「ヒャッ……わ、わかったから!もう、何してもいいから、、顔、近い……」
『よし!ベッド行くか。ここじゃなんだしな』
こういう時の中原中也はテコでも動かないということは恋人がいちばん理解している。太宰。諦めも肝心だ……そして中也、ハロウィンの夜はまだまだ長い。と、言わなくても楽しむ気満々である。
皆さんも、年に一度の悪魔の祭典を、是非お楽しみください。
𓂃 𝕙𝕒𝕡𝕡𝕪 𝕙𝕒𝕝𝕝𝕠𝕨𝕖𝕖𝕟 𓂃
次の日____
翌日は太宰の拗ねたような、怒ったような、どこか泣きそうな声から始まった。
「もう!!中也には、、プレゼント、、あったのに……馬鹿中也……」
『は、はぁ!?それは早く言えよ!』
「だって押し倒すからぁ……」
『菓子くれんのかのくだりで言えただろ』
「まぁ、はい、これ」
それは太宰が好んで使うブランドの香水であった。
『これって、、』
「だって、一緒に居られないことの方が多いから……」
『はぁぁ、、』(可愛いかよ)
これはハロウィンという特別なような、人によってはそんなこともないような、そんな(筆者にとっては)無難な日を綴ったカップルの日常の記録である。
コメント
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チャットの方読んだ後で来たけどノベルもいいっ!(b・ω・)b