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kurara
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かめちょん
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kua
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畑の緑が少しずつ増え始める頃。
春の朝は、まだ少しだけ肌寒い。
鳥のさえずりが聞こえ、畑には朝露がきらきらと光っていた。
「……元貴」
「んー?」
縁側でごろりと寝転がっていた元貴が、のんびり顔を上げる。
涼架は、その前に正座していた。
珍しく真剣な顔だった。
「ボク、力の制御を練習したい」
元貴はぱちりと目を瞬かせる。
「制御?」
「うん」
隣で団子を食べていた滉斗も顔を上げた。
「急にどうした」
涼架は少しだけ視線を泳がせる。
「……この前、鍬壊したし」
「うん」
「井戸の桶も壊した」
「うん」
「障子も三枚」
「うん。枠ごとね」
「畑も」
「……うん……いや畑!?」
元貴が勢いよく起き上がる。
滉斗は呆れたように肩をすくめた。
「しかも真っ二つ」
「あれは事故だったもん!」
「あんな事故ある?」
涼架は頬を膨らませる。
「ボク、ちゃんと加減できるようになりたい」
その声だけは、冗談じゃなかった。
「もう、壊したくない」
ぽつりと落ちた言葉に、元貴は少しだけ表情を和らげる。
「……そっか」
そして笑った。
「じゃあ、特訓だ」
◇
最初の課題。
村の畑。
「最近、土が固くてねぇ」
「鍬が入らなくて困ってるんですよ」
村人たちが苦笑する。
涼架は畑を見つめ、腕を組んだ。
「なるほど」
その顔を見た瞬間。
元貴は嫌な予感しかしなかった。
「涼ちゃん」
「任せて」
「ちょっと離れててね」
ぶわり。
赤い力がゆっくり揺れる。
涼架が拳をそっと地面へ向ける。
「これくらい――」
ごっ。
一拍遅れて。
ズドォォォォォン!!!!
土煙が空高く舞い上がる。
「…………」
「…………」
風が吹き、土煙が晴れる。
そこにあったのは。
畑ではなく。
巨大なクレーターだった。
滉斗が遠い目をする。
「加減、どこ行った」
「ち、違うんだって!」
涼架が慌てて立ち上がる。
「ちょっと力入れただけなの!」
「ちょっとじゃねぇだろっ」
ところが村人たちは。
「おぉ……広くなった」
「今年はいっぱい植えられるな」
「排水も良くなりそうだ」
「いや良くないよ!?」
元貴だけが必死に突っ込んでいた。
◇
二回目。
「もっと弱く!」
「う、うん……」
今度は恐る恐る。
指先だけで土へ触れる。
ふわっ。
固かった土が、ゆっくり空気を含むようにほぐれていく。
村人たちの顔が明るくなった。
「おぉ!」
「柔らかい!」
「これは助かる!」
涼架は目をぱちぱちさせる。
「……できた」
元貴も自然と笑う。
「できたね」
その笑顔につられて、涼架も少し笑った。
その笑顔を見た元貴がぼそっと呟く。
「……好き」
「なんで!?」
滉斗がため息をつく。
「始まった」
◇
次は卵運び。
「なんで卵?」
「繊細さの練習」
涼架は真剣そのものだった。
両手に卵を乗せる。
元貴も滉斗も息を止める。
一歩。
二歩。
三歩。
「……いける」
「いけるぞ」
「今回は一発成功だ」
ぴき。
「…………」
ぼたっ。
ぼたっ。
ぼたっ。
全部割れた。
「なんでぇぇぇ!!」
滉斗が腹を抱えて笑う。
「力抜いたら逆に握っちゃった……」
「器用なんだか不器用なんだか」
◇
最後の課題。
子どもを抱いて歩く。
「やるー!」
「涼架さま抱っこ!」
小さな男の子が両手を伸ばした。
涼架はそっと抱き上げる。
「……」
軽い。
驚くほど軽い。
だけど。
ちゃんと温かい。
小さな鼓動が腕に伝わってくる。
壊れそうで。
でも、生きている重さだった。
「そのまま歩いてみ」
元貴が優しく言う。
涼架はゆっくり歩き出す。
一歩。
また一歩。
腕には自然と力が入る。
怖い。
もし落としたら。
もし傷つけたら。
そんな考えが頭をよぎる。
「……」
男の子が笑った。
「たかーい!」
その笑顔を見た瞬間。
涼架の肩から、ふっと力が抜けた。
抱き方が柔らかくなる。
男の子も安心したように涼架へ寄りかかった。
元貴はその様子を静かに見つめる。
子どもは笑っている。
怖がっていない。
泣いてもいない。
しばらくして。
元貴が小さく笑った。
「……できてるじゃん」
「え?」
「今」
涼架は腕の中を見る。
男の子は気持ちよさそうに笑っていた。
怖がらせていない。
傷つけてもいない。
「……ほんとだ」
無意識だった。
力を抑えようとしたんじゃない。
この子を大事にしたい。
その気持ちが、自然と力を加減させていた。
◇
夕方。
一日の特訓が終わる。
涼架は縁側へ寝転び、大きく息を吐いた。
「疲れたぁ……」
「でも上達したじゃん」
「畑は消えたけど」
「あれは事故!」
「卵も全滅」
「……」
「否定しないんだ」
三人で笑う。
少し静かになって。
元貴が尋ねた。
「でも、なんで急に頑張ろうと思ったの?」
涼架は少しだけ空を見上げた。
春の空は青く、高かった。
「……怖かったから」
「ん?」
「また誰かを傷つけたらって」
「また壊したらって思うと……怖くて」
元貴は少しだけ目を細める。
そして、ゆっくり笑った。
「大丈夫」
「……」
「今の涼ちゃん、ちゃんと優しいから」
涼架が目を丸くする。
「優しいやつはね」
春風が吹く。
草の匂いが流れていく。
「ちゃんと相手を大事にしたいって思える」
「だから、加減も覚えられる」
涼架は何も言わなかった。
今日一日を思い返す。
畑。
卵。
子どもの笑顔。
あの温かさ。
腕に残る、小さな重み。
自然と口元が少しだけ緩む。
「……頑張る」
ぽつりと零れたその一言は。
誰に聞かせるでもない。
未来の自分への、小さな約束だった。
元貴は嬉しそうに笑う。
「うん」
その横で滉斗が腕を組みながら呟く。
「次は建物壊さない練習な」
「壊してない!」
「昨日、柱折ったやん」
「……あ」
春風に乗って。
三人の笑い声が、村いっぱいに広がっていった。
コメント
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第9話、めっちゃ良かった……!「壊したくない」っていう涼架の気持ちから始まる特訓、畑でクレーター作っちゃうとこは笑ったけど、最後の子ども抱っこで「大事にしたいって気持ちが自然と力を加減させる」って流れが沁みたわ。元貴の「好き」も滉斗のツッコミも絶妙で、三人の空気感が好き。成長物語としてかなり刺さった🔥