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#先生と生徒
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心臓がうるさい。いや、おかしいやろ。普通は逆や。髪のゴムを外して、メガネとマスクを取って、素顔の美形が登場した瞬間にバクバク言うもんや。
なのに、なんで綺麗な顔を隠されてから、こんなに鼓動が速くなってんねん。
「……あ、あの。ストーカーに追われてるって中島先生に相談したら、忙しいから新先生に送ってもらえって言われて」
屋上のスペアキーを揺らしながら、遠慮がちに告げる。
待って、待って、もうマスクもメガネも外してるやん。今から俺、この綺麗な人と車の中で二人きりになるの?すでに緊張で頭がどうにかなりそうなんやけど。
「ストーカー? それは怖いな」
ふふっ、と優しく笑いながら、「じゃあ行こか」と先生が前を歩き出す。
この人もきっと、俺と同じような目に遭い続けてきたんやろうな。そうでもなきゃ、わざわざあんな小汚い格好をして自分を隠したりしないはずや。
「……先生、白衣なんて着てましたっけ?」
階段を降りる途中、野中先生だと見破れなかった理由の一つを尋ねた。
「ん? これ、保健の澤本先生の。職員室の席が隣やねん。これでタバコの匂い、ガードしてやろうと思って」
悪戯っぽく笑って俺を見上げる。その無邪気な笑顔が、今の俺には猛毒や。
暗くてボソボソ喋る、ちょっと不気味な人で苦手やったのに。この素顔、絶対に隠し通さんとマズい。全校生徒がこの人に惚れてしまう。
「……澤本先生、潔癖症っぽいのに。かわいそ」
一応生徒らしく、皮肉混じりに返してみる。この人にどんな距離感で接すればいいのか、まだ探っている状態や。
「大丈夫。あいつ俺のこと好きやから、喜ぶわ」
ぴょん、と最後の一段を両足で着地して、先生が「ん」と手を伸ばしてきた。
うわ、かわいい。全然イメージと違う。ほんまに俺、とんでもない財宝を見つけてしまった。
差し出された手に、誘われるまま自分の手を重ねる。
すると新先生は、びっくりしたような顔で動きを止めた。え、俺、何か変なことした?
「……屋上のスペアキー、もらおうと思ったんやけど」
「っ、あ! すみません!!」
何を俺、お姫様になった気分で手ぇ繋ごうとしてんねん!そりゃそうや、階段くらい一人で降りられるやろ!
「……ううん。まぁ、中目くんもまだ子供やもんな」
「どうぞ」と笑いながら手を引かれ、エスコートされるように階段を降りる。
「……幼稚園児かなんかやと思ってます?」
少し拗ねたふりをして言うと、「まぁ、似たようなもんかな」と笑い飛ばされた。
ああ。こうやって、自分に恋をしそうな奴らを上手く牽制してるんやろな、この人は。
俺も今、そういう目で先生を見てしまってたんやろか。