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「秀太くぅ~ん! おはよぉ~!」
家を出た途端、朝一番とは思えないデカい声で、幼馴染の優人が駆け寄ってきた。
ほんま、毎日毎日どこにそんな元気があるんや。
「おはよ、優人」
「秀太くんママに聞いたで? 昨日、王子様に車で送ってもらったんやろ?」
「え、なんで知ってんの? 情報早ない?」
「LINEグループ作ってる」
ほれ、と差し出された画面を見て絶句した。……え、個人じゃなくてグループなん?
「……優人のおかんも入っとるやないか」
なんで、うちのおかんと優人のおかん、それと優人でグループを組んでんねん。おばちゃんの井戸端会議か。
「うちのお母さんも秀太くんファンやからな。生産元から聞いた方が手っ取り早いやろ?」
「うちのおかんを生産元って言うな」
笑ってツッコミを入れながらも、俺は内心どう誤魔化そうか迷っていた。
王子様か。いや、確かにあの人は王子様以外の何者でもなかった。あの月夜の屋上で見た、あの姿は。
「で、どの先生に送ってもらったん? ……ていうか、先生……やんな?」
優人が疑いの目で俺を覗き込んでくる。
当たり前やろ。俺が身も知らずの男の車にホイホイついて行って、自宅まで特定させるわけない。怖すぎるわ。
「そう……中島先生。……昨日、月が綺麗やったから。それに照らされて、ちょっとだけカッコよく見えたんちゃう?」
「……え、今秀太くん、僕に告白したんかと思った」
「……自惚れ酷すぎん?」
ガハハと大きな口を開けて、優人が笑う。
中島先生の名前を聞いた途端、さっきの話の興味を失ったみたいや。よし、これでこの話は誤魔化せたはず。
♢♢♢
「おはよー!! 秀太ぁ!!」
教室に入った途端、今度はこれや。
「うわ、上重! もうお前絡んでくんなって。小閻魔に地獄に落とされるわ」
違うクラスのくせに、わざわざ俺のクラスまで乗り込んできて、いきなりプロレス技をかけてきよる。
女子が少なすぎて、実質男子校状態のうちの高校。その騒がしさと暑苦しさは、今日も朝から全開や。
「あ、秀太くん! はんちゃんおる!」
「ヤバい、ほんま、上重やめとけって!」
俺の忠告も聞かず、まだ俺に絡んでくる上重を無理やり引きずって、教室の隅へと隠れる。
上重の幼馴染である半沢洸、通称はんちゃんは、こいつに対しての執着が尋常じゃない。
少しでも上重に好意を匂わせようものなら、周りくどい手を使ってでも、そいつに徹底的な地獄を味あわせにくるのだ。
一年の時に同じクラスだった優人は、その「処刑」の現場を何度も目撃しているらしい。
上重は、とにかくモテる。
この人懐っこい笑顔で男女問わず誰とでも仲良くなってしまう。
だが、その無垢な明るさが故に、裏で生まれる被害者もまた多い。
誰かが半沢の手によって地獄に突き落とされるたびに、優人が面白がって、今回はどんな風にハメたのかを俺のところへ報告に来るのがお決まりだった。
「……小閻魔、行った?」
「小閻魔ってなんなん?」
アハハと大きな口を開けて、上重が呑気に笑っている。
ほんまこいつ、自分に害がないからって、どこまでも気楽なもんやな。
俺からすれば、お前が鈍感すぎて何一つ気づいてやらんから、半沢の執着がどんどんエスカレートしていってるようにも見えるんやけど。
一度くらい、わかりやすくヤキモチでも焼いてやればええのに。
「……お前と関わった奴は全員地獄行きやからな。でも、閻魔様ほど怖い見た目してへんから『小閻魔』」
「あ、はんちゃんのこと? はんちゃんに言うたろ」
「アホか! 俺、明日から学校来れんようになるわ」
切羽詰まった俺の表情を見て、上重がまた笑う。おまえ、絶対半沢洸がやってる事気づいてるやろ。
「でも、秀太、男やから大丈夫やって」と呑気に言うてるけど、俺は気づいている。たまに優しく俺に話しかけてくる半沢洸の、あの目の奥が全く笑っていないことを。「地獄行」と静かに光っているのを。
「えー、でも僕、はんちゃんの気持ちわかるかも。秀太くんが誰かに取られるの、嫌やもん。やから、はんちゃんと話が合うんかな?」
さらりと言いながら、優人が優しく微笑む。
確かに優人は俺のことが好きや。けれどそれは幼馴染として、あるいは「ファン」として、一線を越えない距離感を保ってくれている。やから、こうやって、友達でいられるんやけど。
「ほら、バレんうちにさっさと自分のクラス帰れ。部活が再開したら、いくらでも相手したるから」
「え!?じゃあ次会うまでに新しい技覚えてくるわ!」
……言うんじゃなかった。
あいつのプロレス技、マジで痛いねん。遊びなんかじゃない。罰ゲームを受けてる気分なんねん。
俺、前世で人でも殺めたんかな。
なんやねん、あの幼馴染二人。フィジカルとメンタルで両面から挟み撃ちにしてきやがる。
嵐のように去っていった上重の背中を見送りながら、俺は深く、深すぎる溜息を吐き出した。
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#先生と生徒