テラーノベル
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季節の変わり目だった。
日中は薄着で平気なくらい陽射しが優しいのに、夜になると急に空気が尖る。
「夏だったら死んでたな」
私は薄手の毛布にくるまりながら、先ほど起きた小さなトラブルを思い返していた。
「……エアコンの、故障」
部屋に戻ろうとしたところで、ボイドールに呼び止められた。
「カピ。冷房ハ作動スルノデスガ、暖房ガキカナイヨウデ。明日ニハ修理完了予定デス。ゴ迷惑ヲオカケシマスガ、御理解クダサイ」
なるほど。 少し肌寒い程度なら、布団をかぶればしのげる。
「了解。連絡ありがとう。今日だけなら部屋の毛布でなんとかなると思う」
そう答えたはずだった。
……なのに、今夜に限って冷え込みが尋常じゃない。
ぶるっと体が震える。毛布の中で膝を抱え、できるだけ自分の体温を閉じ込めるように丸くなった。人間は寒いと無意識に縮こまるらしい。中心が一番暖かいからだ。
そんな理屈を頭で理解しても、寒さは一向に引かない。
「大丈夫」と言ってしまった手前、今さら「追加の布団を」とボイドールに頼むのも気まずい。寝付けないまま天井をぼんやりと見つめていると、不意にドアがコンコンと鳴った。
……こんな夜中に。
……まさか、幽霊?
「相棒〜、起きてるかァ?」
声の主はサーティーンだった。
安心してドアを開けると、パジャマの上から毛布を抱え、枕まで抱えた完全な寝支度の姿がそこにあった。
「お、やっぱ起きてたか〜!
今日寒いだろ? 俺様が相棒のこと暖めにきてやっ——」
「あ、間に合ってます」
「おい! 最後まで聞けよ! ってか間に合ってねぇだろーが!」
ドアを閉めようとした瞬間、足がガッと挟まれた。とんだホラーだ。
「入れてくれよな?
相棒と俺の仲だろ? な〜?」
その困ったような、甘えたような顔。
……うぅ、この表情には弱いんだよな。
「……寒い中、帰すのは可哀想だし、今夜だけだからね」
私はため息をつき、ドアから力を抜いた。
言ったところで、帰りそうにない。
「サンキュ〜相棒!」
その瞬間、サーティーンはドアをガッと開け、遠慮なく入ってきた。
先ほどの捨て犬のような顔は消え、してやったりのニヤけ面だけが残っていた。
……この死神、ほんと……。
「というか、サーティーンと一緒に寝れる程ベッドそんな大きくないんだけど」
寝れなくもないけど……あの大きな体、絶対密着するよね、確実に。
そう言うと、サーティーンは口元に手を当てながら、さらにニヤニヤと笑った。
「へへ、相棒ったら〜! 期待しちゃってんのかよ〜! 暖めるとかはさすがの俺も冗談だったのになァ……ったく、ご希望に応えてやるとするか」
ニヤついた目が、急に優しい色を帯びた。
するりと脇に手を入れられ、軽々と抱き上げられる。
ふわっとベッドに降ろされた瞬間、サーティーンの体温と、ほのかに甘いような死神特有の匂いが近くて、心臓が跳ね上がった。
「……2人で暖を取りながら寝ようぜ」
ゆっくりと毛布が被せられ、電気を消される。
そのままぎゅっと抱きしめられた。厚い胸板に顔を埋めると、サーティーンの鼓動が速く、強く脈打っているのがわかった。
……もしかして、サーティーンも緊張してる?
そう思ってふと顔を見ようと見上げると、月明かりの中、蕩けるような瞳が私を捉えていた。
ーー大事なもの。愛しいものを見つめるような、そんな目だった。
「……へへ、俺は死神だけどよ、体は意外と暖かいだろ?」
その言葉に素直に頷いてしまったが、頷いた途端、恥ずかしさが出てしまって思わず反対側に寝返って顔を隠してしまう。
顔の火照りと共に体に熱が集まる。
……あんな優しい顔するとか、反則過ぎる。
「んだよ、相棒〜。離れんなって……ほら、もっとくっ付けよ、な?」
恥ずかしさに離れたのに、サーティーンは後ろから覆いかぶさるように抱きしめてきた。
腕はお腹にしっかりとまわされ、さらに長い足を私の足に絡める。
……う、動けないし、剥がれない。
これは、そう簡単に離れそうにない……
私は諦めるように体から力を抜き、サーティーンに身を任せた。
「そうそう、素直に抱きしめられとけって〜。ぜってーこうした方が暖かいからよォ」
大きな手が優しく私の頭を撫でる。
暖かく抱きしめられ、徐々に瞼が降りる。
人肌で暖かくなる心地よさに身を委ねた。
ーーーーーーー……
部屋に暖かい日差しが差し込む。
眩しさを避けようと反対側へ寝返ると、分厚い胸板が目の前にあった。
途端、昨晩の出来事を思い出す。
そうだ、昨日、サーティーンが部屋にきて……
寝起きで混乱していた頭が、覚めると同時に状況を確認しようと脳が動き出す。
恐る恐る胸板の上を見上げると、にんまりとこちらを見つめるサーティーンの顔がそこにあった。
「よォ。朝から百面相とか、相棒はほんと忙しい奴だなァ」
……朝から若干失礼だけど、これがサーティーンの通常運転だから仕方ない。
「……おはよう。そして朝から失礼なので、二度寝します。おやすみなさい」
「寝るな寝るな」
毛布をかぶろうとしたら止められてしまったので、仕方なくジト目になりつつ顔を出す。
……疲れて眠いのは本当なんだけどな。
「ったく、俺様を前にして寝るなんてよ。
寂しくて俺ちゃん泣いちゃうぞ」
オヨヨヨと泣き真似をしているが、涙は一切出ていない。時折チラッと指の隙間から覗いてくるのが微妙に腹立たしい。
「はいはい、泣かないのー」
腹立たしいが、少しハの字に下がる眉を見ると仕方ないなぁと言う気持ちが勝ってしまう。
彼のわざとらしい泣き真似に、こちらも「はぁ〜っ!」とわざとらしい盛大なため息をつき、よしよしと手を伸ばして、少し癖がついた頭を撫でてあげた。
まさか撫でられるとは思っていなかったのだろう、サーティーンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして私を見つめていた。
……あ、何気に撫でてあげたの初めてかもしれない。そりゃ、びっくりするか。
「……相棒が、撫でたりとか……初めてだろ」
徐々に語尾が小さくなり、目を逸らす。
ちょっと可愛くてふふっと笑みが溢れる。
適当で軽くて、お調子者。
でも、私の部屋のエアコンが故障中なのを知って、心配してつい部屋に来ちゃう優しいサーティーン。
「……暖めにきてくれたお礼だよ」
私はもう一度彼の癖っ毛を優しく撫でる。
「……今日は特別サービスだよ」
サーティーンの癖ついた毛が少し指に絡まって離れないのに、それさえもなんだか嬉しくて。
「……でも、撫でられるのも、悪くねェ、な。…………相棒だけな」
撫でられたのがよほど嬉しかったのか、嬉しそうに目を細めると、もっとと言うように私を抱きしめてすり寄ってきた。
私はくすっと笑うと、優しく撫で続ける。
……ほんと、サーティーンのこういう所に弱いんだよなぁって思う。
きっと、この後もっとびっくりした顔になるんだろうなぁと確信しながら、私はすり寄る彼の額に優しくキスを落とした。
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