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――……い、海‼海‼
「っう……うう」
頭の中で、昔の友人の声が聞こえ、気が付いた。
「雨?」
友人の名をつぶやいた時、俺は夢から覚めた。
「……あ、あれここは?」
歩こうとし、一歩を踏み出したが、手に、輪っかのようなものが取り付けられていて、動けなかった。
後ろを見ると、手首には手錠がかけられていた。
首に違和感を感じ、首を見ると、首には首輪がつけられていた。
「な、なんだ、これ……誘拐……監禁か」
俺は少し焦ったが、冷静に状況を推測した。
しかし、心の底では焦っていて、推測なんてまともにできなかった。
フラスコ、試験管、顕微鏡……理科室だろうか。いや、研究室か。目の前には木のドアが閉じられており、壁は古くなって、黄みがかっている。何の汚れかは分からないが、茶色い、赤黒い色の汚れが壁に付着していた。
ジャケットの上からつけていた名札は取り外され、手錠も外せないように徹底しているようだ。
「クッソ……助けが来るまで、待つしかないのか……」
俺は諦め、その場に座り込んだ。
果たしてマスターは無事なのだろうか。バーで殴り倒され、そこから記憶がない。
「やっぱ、助けを待ってるだけじゃだめだな。何か進展が……」
ギィ……。
木の扉の開く音が聞こえ、俺は視線をドアに移す。
「あー。やっぱ起きてたか。だからいつも言ってるのに、気絶させるのへたくそだって……」
誰だ、この女は。
女の見た目は、前髪を真ん中で分けていて、肩まで前髪があるくらいだ。目は綺麗な二重。ハーフだろうか。美しいという言葉がよく似合う。
しかし、彼女の目からは、全く、思いやり、というようなものが感じられなかった。
水色の襟に、赤いスカーフ。セーラー服だ。
米秀学園の制服だ。
女の足には、拳銃らしきものが入ったケース。手首にはナイフが閉まってある腕輪。
俺は本能的に、この女がヤバいと確信した。
「おお。前に雪が言ってた人だね。聞いてたよりもずっとイケメンだな~」
「おい。あんまり情を抱くなよ。何も考えずに、いつも通りにするんだ。俺は向こうで警備してるから」
「分かってるよ」
ドアに寄りかかっているのは、男だ。
細身だが、胸板がしっかりしていて、筋肉はあるようだ。
灰色の生地に黒いチャック。海軍型学生服のようだ。
男はそのままドアから離れ、左に曲がって行った。
「じゃ、さっそく、始めるか。……ねえ、ナイフと拳銃、どっちがいい?」
女はそのまま、俺の近くから離れ、拳銃の安全装置を外した。そして腕輪にさしていたナイフを取り出した。
「はあ⁉誘拐された⁉海と、ベルが?」
「そうだよ、プラとベルが誘拐されたんだよ」
尚が店の準備をしているときに、雪と歩美、紗季が乱入した。
「俺、今から店開けるんだが、まあいいや、行ってやるよ。アイツらを誘拐したのが誰なのか気になるし」
「危険だぞー尚。来なくても良いがな」
「いや、行くよ。米秀学園だよな。連れてってくれ」
「……お前なあ、これがどんなに危険なことか……」
「良いでしょ。別に、行きたいんでしょ?」
「ああ。それに、俺、ただのたこ焼き屋じゃねえしな」
「……ったく、しょうがないな」
「ホワイトハッカーの名に懸けて、頑張ってね」
「ああ」
尚は、珍しく男前な顔を構えて言った。
「で?場所の目星はついてるんだろうな」
尚は店の片づけをしながら言った。雪はそれに呆れたようにため息をついた。
「ああ。米秀学園の、旧校舎。そして、その旧校舎の隣にある、無駄にでかいクラブ棟。あれが、あいつら、ラトレイアーの下にいるマフィアが根城にしてる場所だよ」
「よく知ってるね」
「言ったろ。ずっと前に潜入捜査してたと。でも、ほんとに行くつもりか?」
「当たり前じゃん。あの二人、助けに行かないと」
「待て、俺も行く」
驚いて四人が後ろを見ると、そこには松村が立っていた。
「師匠。来るのか」
「当たり前だろ、尚人。公安の要人が誘拐されたんだ。緊急事態だぞ」
松村は紗季の肩に手を置くと、冷静に言った。
「前、爆弾捜索の時。助かったよ。今回も頼りにしてるからな」
「あ、うん。分かってる」
紗季は垂れてきた横上を耳にかけた。
「じゃ、もう行く?」
「そうだな」
四人が部屋から出て行く中、雪だけが部屋に残って、四人の後ろ姿を見た。
「……分かってないな」
ラトレイアーがどれだけ危険な組織なのか、理解していない。雪はそう思いながら四人の跡をついて行った。
「おい、お前ら、あたし、私服にいったん着替えるから先に行っててくれ」
「はーい」
暗い廊下の向こうで歩美が大きく返事する。
「……!」
部屋に戻ろうとしたとき、歩美たちが向かった廊下の先とは逆方向に視線を感じた。
「……気のせいか」
雪は独り言をつぶやくと、平静に部屋へ戻った。
「……」
廊下の奥には一人の男が彼らの行動を見ていた。
男は携帯を取り出すと、メールを打った。
『探偵、その助手、元CIA、ホワイトハッカーが二人。そっちに向かってる。見つけて捕えろ』
と。
「俺のメール気づくかな」
皐月は廊下の奥から出ると、歩美の跡を追った。