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「柔太朗、飯行かね?」仕事終わりの夜、仁人はスマホを見つめながら、ぽつりと送信ボタンを押した。
最近の柔太朗は、雑誌にドラマにブランドプロデュースに……息つく間もないスケジュール。
仕事で顔を合わせるたびに、「疲れてるな」って思ってた。
5分ほどして、ポンッとLINEの通知が鳴る。
「え?よっしー珍しいね」
「いこー」
2つに分けて送られてきたメッセージ。一つにまとめればいいのに、なんで思いながら 仁人は少しだけ安心して笑った。
________
夜9時。
待ち合わせの店は、個室の小さな和食屋。
落ち着いた照明の下、先に着いていた柔太朗が、静かにメニューを眺めていた。
「お、来た」
「ごめん、待った?」
「待った」
席に着いた瞬間、柔太朗がふと笑って言った。
「なんで俺誘ったん?寂しくなっちゃった?
「んなわけあるかい!」
「冗談冗談」
仁人が突っ込みながらも笑うと、柔太朗の肩も少しだけ緩んだ。
料理をいくつか頼んで、出てきた小鉢をつまみながら、他愛もない話をしていた。
撮影現場の裏話とか、ファンの反応とか、メンバーの変な癖の話とか。
でも、仁人はずっとタイミングを見てた。
ふと柔太朗の箸が止まった瞬間を見て、口を開く。
「なぁ、柔太朗」
「ん?」
「お前最近疲れてるっしょ?」
「何ニヤニヤしてんの?気持ち悪いんだけどー!」
「気遣って言ってんだから気持ち悪いとかいうなよ!いやまじで、疲れてるでしょ?ドラマの撮影もあるし、ブランドのやつも動いてるだろ」
「よっすぃーよく見てんねえー」
柔太朗は少しだけ苦笑して、湯気の立つお味噌汁に視線を落とした。
「……まぁ、疲れてるっちゃ疲れてるって話だよね。でも、それが当たり前なんかなーって」
「当たり前ねぇ」
「うん。まあ、この業界で忙しいのって幸せなことじゃん?でも最近、まあちょっとだけどもうむりーってなるときあるかも」
「……」
仁人はそれを聞きながら、静かに頷いた。
「いやー、わかるよ。俺もさ、リーダーとか言われてプレッシャーすごいとき、 頑張れてる自分!みたいなのを演じてるみたいなときあったわ」
「……よっしーが?」
「まあね?なんか笑ってないと崩れそうで。でもそれがファンの前じゃ一番大事だから、ずっと笑ってた」
柔太朗は一瞬、目を伏せて、小さく息を吐いた。
「……えー、意外〜」
「失礼な」
仁人が箸を置いて、真っ直ぐ柔太朗を見た。
「でも頑張らなきゃいけない状況で休まないのは違うぞ?」
「え?」
「頑張るって、“自分をちゃんと守ること”でもあるんだよ」
柔太朗はその言葉に少しだけ笑った。
「よっしー、なんかカウンセラーみたい」
「資格持ってんの」
「え、マジで?」
「マジ。だから飯奢れ」
「なんでだよ」
2人とも笑って、少し空気が軽くなった。
料理が追加で運ばれてくる。
仁人がサラダを取り分けて、柔太朗の皿にポンと置く。
「野菜、ちゃんと食え」
「かーちゃんやん」
「黙れ」
柔太朗は小さく笑って、箸を動かす。
少しずつ食欲も戻ってきたみたいだった。