テラーノベル
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息が苦しい
遠い空から差し込む光が、俺の泡を呑み込む
……もし、あの光に手が届いたなら
俺は、俺自身の手で、誰かの心を掴めただろうか
息苦しさとは違う、胸の痛みが頭を支配する
刹那__大きな泡が俺の視界を奪った
肺が焼けるように痛み、必死に伸ばした手が徐々に握られる
泡が消え、霞む視界に映ったのは一等星
最後に見たそれが、今までの人生の中で、何よりも明るく見えた
ある夏の終わり
-hotoke-に「星になった」と連絡が届いた
最初は冗談だと思った
-hotoke-はいつも、冗談を言う奴だったから
チャットで「星になってみたい!」と送ってきたことだって、何度かあった
でも返事が来ないまま、数日が過ぎ、共通の友達であるりうらから静かなメッセージが届いた
「いむ、亡くなったよ。自殺だって。」
その文を見た瞬間、指が止まった
画面を見つめたまま、息が詰まる
理由は知らない
ただ、「自殺」と言う言葉だけが、胸の奥に重たく沈んだ
りうら、初兎、ないこ、あにきの四人は、原因を知っていた
でも誰も詳しくは話してくれなかった
「まろには言わないでくれって…いむが言ってたから……」と り うらが後でぽつりと言った
それ以上聞けなかった
聞くのが怖かったのかもしれない
葬儀には、行けなかった
-hotoke-はまだ大学生で上京してなくて、離れた場所に住んでいたし、何より顔を合わせるのが耐えられなかった
代わりに、夜中に一人、コンビニの花を買って、近くの川辺に供えた
線香の煙が、夏の湿った空気に溶けていくのを見ながら、ただぼんやりと空を眺めた
-hotoke-が好きだった
それは、出会って半年程で気が付いた気持ちだった
一緒にゲームをしたり、深夜までくだらない話で盛り上がったりしているうちに、自然と-hotoke-の声が、文が、存在が、特別になっていった
でも、それを口には出せなかった
-hotoke-はいつも「僕は陰キャだし、好きになる人なんていないし〜?」と笑う奴だったから
重荷になりたくなくて、「友達」として傍にいることを選んだ
それが、間違いだったのかもしれない
数週間後、俺は-hotoke-の部屋の片付けを手伝うために、りうら達と集まった
遺品の整理が大半終わり、後片付けに差し掛かった頃、初兎が小さな封筒を見つけた
表には丸い、幼い文字で書かれた「Ifくんへ」の文字
封筒を開けた瞬間、俺の世界は音を立てて崩れた
「ごめんね、好きだったよ」
短い遺書だった
日付は-hotoke-が亡くなる二日前
震える文字で、こう続いていた
ー
Ifくんが優しいから、僕の気持ちを知ったら困ると思って黙ってた。
気づいて欲しかった。
でも、気づかれたくなかったの。
結局ずっと、苦しかった。
Ifくん。好きだったよ。本当にありがとう。
そして、ごめんなさい。
ー
俺は、その場で膝をついた
手紙を握りしめる指が白くなる程、力を込めた
胸が裂けそうだった
好きだったのに、気づけなかった
ずっと傍にいたのに、救えなかった
出会ってから今まで一緒に笑ってたのに、最後の言葉を「ごめんなさい」で終わらせてしまった彼の孤独を、想像するだけで吐き気がした
りうらが、肩を抱いてくれた
初兎は黙って背中をさすり、ないこは涙を堪えながら、「いむ、まろのこと…本当に大事にしてたよ」と言った
あにきはただ、窓の外を見て「俺らも、もっと早く気づいたれば良かった」と呟いた
それから、俺の毎日は灰色になった
朝起きても-hotoke-のアイコンが灰色になっている幻日が、胸を抉る
ゲームを起動しても、かれの名前がないロビーが虚しくて、すぐに閉じる
夜になると、手紙の文字が頭の中で繰り返される
「ごめんね、好きだったよ」
「ごめんね、好きだったよ」
「ごめんね、好きだったょ」
後悔は、波のように押し寄せては引いていった
「もっと好きだって言えばよかった」
「もっと話を聞けばよかった」
「もっと隣にいてあげればよかった」
雨が降り注ぐ夜
無意識のうちに、俺は一人で海辺に来ていた
潮風が冷たく、波の音が暗く響く
スマホの画面にはまだ、-hotoke-との最後のチャットが残っていた
「今日も疲れたわー、Ifくん生きてるー?」
「生きとるわw -hotoke-こそ死にそな声しとるけど大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!Ifくんがいるからね」
そのメッセージに、俺は「いつでも話聞くからな」とだけ返していた
そこに「好きだよ」という一言が打てなかった自分が、憎い
…気づけば、波が足元まで来ていた
冷たい水がスニーカーを濡らす
-hotoke-は、星になった
自分も、あいつのところに行けたら、ちゃんと「好きだったよ」と言えるだろうか
謝れるだろうか
今までの想いを、全部伝えられるだろうか
ゆっくりと海に足を踏み入れた
水が膝まで、腰まで、胸まで来る
冷たさが、痛みを一瞬だけ麻痺させてくれた
「……-hotoke-…ごめん」
最後に小さく呟いて、俺は波に身を任せた
暗い海の中で、波に揺れる一等星に、-hotoke-の笑顔が見えた気がした
優しくて、寂しそうな笑顔
「Ifくん、もう来ちゃったのか笑」
そんな声が、遠くから聞こえた気がした
俺の目の前に暗幕がかかったとき、強く光る一等星の隣に、もう一つの星が輝いた
翌朝に、りうらたちはIfの遺書を見つけた
「-hotoke-のところに行きます」
そんな短い言葉だった
悲しいはずの現実
その現実の中で、四人の間に笑みがこぼれる
「…これで2人とも、寂しくないといいな」
ないこの微かな声に四人の涙が溶ける
海は静かに、全てを受け止めていた
夏の終わり、二つの星が空に消えた
誰も知らない、静かな夜空で
「ぐら@・ࡇ・」様の素敵なサムネイルをお借りしました。
勝手な解釈の作品ですが、読者の皆様の心を掴む一作となれたら幸いです。
作品名「ごめんね、好きだった」
コメント
2件
どぅえー!!!!😭😭 待って好きです😭😭😭 天才って言われたことありますよね絶対に!!! 後追い好きなんですよ😮💨😮💨💕 サムネ使ってくれてありがとうございます🙈💞