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続き書いていくよん
夏休みを挟んだ九月一日。
いつものように、当たり前に鳴る学校のチャイム。
7月に少し壊れたからか、ノイズが混じったチャイム。
その中で目に付いたのは、
哀……標的の席の百合の花瓶。
仕掛けたのは私だった。
そう、哀が悪いんだよ。
私だけを見ててよ
そこから哀のいじめが始まった。
机の落書き、靴箱にゴミ、
陰口なんて頻繁だった。
哀のジャージを切り裂いたこともあった。
ガラッとドアを開け、教室に入る。
その瞬間、冷水をあびる。
もうこんなの慣れたものだと思いたいが、
全身に受けた冷たさと、周りの嘲笑で泣きたくなる。
思い切って教室を抜け、中庭に行く。
肩を小刻みに震わせながら泣いていると、誰かのスカートが目に留まる。
立ち上がってその顔を見る。
___渚だ。
私の元に来ると、
「大丈夫?」
そう言いながら、私の背中をさする。
それが嬉しくて、誰も救ってくれなかったこの背中が報われた気がして、嬉しかった。
「……ねぇ、哀__。」
渚が私に声をかける。
ふんわりとした穏やかな微笑みの中で、
渚は、
「助けて、欲しい?」
そう言った。蝉の声と、微かな秋の風の微睡みの中で。
今まで闇に包まれていた私の中に、一筋の光が現れたような気がして。
唇を開いた。
「助けて、欲しい?」
そう言った。私のせいで泣いている哀の前で。哀は驚いたような目で私を見つめる。
強い風が吹き、哀の黒髪が揺らめく。
そして、哀はそっと、唇を開いて
「ッ……っ助けて__」
雀のような声で、確かにそう言った。
そう、哀の苦しみ
助けが欲しいんだろう。
哀が私の手を握る。
深海に沈んだような哀の其の手に
そっと口吻(Kiss)をした。
放課後
破れた教科書を、キーホルダーがついた鞄にしまっていると
「ねぇ、哀」
そう言って渚が来る。
「どしたー?」
冗談交じりに返事をすると、
渚が自分の鞄からカッターを取りだした。
「なにしてんの?」
そう言っても返事はない。
途端に、渚が薄笑いを浮かべているのを目にし、英語の教科書を落とす。
瞬間、渚がカッターを振りかざす、
なびいた私と渚の、不揃いのスカート。
ザクりと言う鈍い音。
白い腕から血がにじみでる。
私と哀以外誰もいない教室で
夏の静寂を切り裂くような悲鳴が
こだました。
哀は私の唯一の友達。
だから、哀が私のものにならなきゃ、私の居場所なんて無いんだよ__。
透き通った世界で愛し合えたら__。
さんざめく波音の中で。
かつて私が着けたカッターの跡の腕を掴む。
「__ごめん。」
そう言って、哀は私の元から消え去った。
かつてのその踏切で。
哀が消えた時の思い出がフラッシュバックする。
あの時の蝉の声に
千切れていったような、哀とお揃いのキーホルダー。
夏にいなくなった白い肌の幽霊に
“哀”しいほど、取り憑かれてしまいたかった。
1度、強い風が吹いた。
もう一度踏切を見ると、
哀が立っていた。
膝から下は透明だった。
けど、
白い腕についたカッターの傷跡は、哀自身のもので。
哀が私を指さしていて。
私は、スカートをなびかせて、
踏切へと飛び出した。