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俺は、異能発現後すぐに、”神童” と呼ばれた。
「どこからでも自由に、それも大きさも自在に、鋼鉄を放出させることが出来るなんて凄いですよ! お宅のお孫さん、将来が楽しみですね!」
「はは、そんなことはない。此奴の姉がまたヤンチャでな。真似をして育ってしまったら困るところじゃ」
そして、姉は鋼鉄の家では笑い者にされていた。
しかし、姉さんは強かった。
なのに、家訓とは違う異能の使い方をしているからと言う理由だけで、親族からは忌み嫌われていた。
” 鋼鉄の真髄は防衛にあり “
それが、攻撃主体の姉さんの異能には合わなかった。
「なんだ? また修行サボって来たのか? 昴!」
「だって……姉さんとの実践訓練の方が絶対強くなる。大人たちは昔の人を敬いすぎなんだ……」
「仕方ねえさ。八百万家が国家直属の護衛騎士にまで力を付けられたのは、鋼鉄が誇る防御の賜物だからな。防御の異能力が落ちれば、そりゃ不安にもなるさ」
こうやって笑う、姉さんの方が、器も、何もかもが強いんだと、幼いながらに感じていた。
「おい、昴! 型が乱れておるぞ! また神子と勝手な鍛錬でもしただろ!!」
バシン!!
そうして、祖父から殴られる。
「すみません……」
「ふん、まあ良い。今日は実戦を模した試合をして貰う。剣の使いとして有名な四波家の子供だ。お前と同い年らしい。いいな、問答無用で蹴散らせ」
現れたのは、竹刀を携えた四波慎太郎という少年だった。
「初めまして……」
「ああ、よろしく頼む」
慎太郎は、小さいながらに毅然とした男だった。
「グハァ!!」
そして俺は、一突きも出来ぬまま、彼に敗北する。
それでも、何度でも立ち上がった。
しかし、彼は突如、竹刀を置いた。
「なんで……まだ俺は負けてない……」
「君では僕には勝てない。異能を使った勝負でもな」
「なんでそんなこと断言できるんだ!!」
歩みを止めると、俺の目を見つめて答える。
「相手を負かそうと言う気概を感じないからだ」
そして、初めて自分の愚かさに気付いた。
自分が戦っていたのは、四波慎太郎ではなく、一族の名に恥じない名誉、怒られたくないという子供じみたもの。
それからはずっと、放心状態となっていた。
「三日間、この中で頭を冷やしてろ!! グズが!!」
水を掛けられ、物置小屋に閉じ込められる。
頑丈な手枷も、全て鋼鉄で磔にされた。
しかし、そんなことよりも、ずっと頭の中には、自分の弱さがヒシヒシと巡り、体罰など何も感じなかった。
「ん? ここか?」
「バカ……! もう少し静かに喋れよ!」
そんな夜、物置小屋の外から二人の声が聞こえる。
屋敷の人間の声ではない。
若い男二人の声だ。
「やっぱ頑丈だな。壊すか?」
なんだ……?
この倉庫をこじ開けようとしている……?
泥棒か……?
「ああ、そうか! その手があったな!」
もう一人は、コソコソと小声で話しているが、聞いたことのない声は、馬鹿みたいに声が大きい。
その瞬間、真っ暗闇に染まった俺の目の前は、煌々と眩い光に包まれた。
「お前が八百万昴? なんか酷い有様だな」
なんだ……コイツは……。
ソイツは、会釈を終えると、入り口のドアを開ける。
中に入って来たのは
「四波慎太郎……!」
先程戦った、四波慎太郎だった。
二人は懸命に俺の手枷を外すと、服を貸してくれた。
「どうして……」
聞きたいことは山程ある。
助けに来た理由、なんで閉じ込められていると分かったのか、他にも沢山。
でも、声が出せなかった。
悔しかった。
「ひとまず自己紹介する。俺は三嶋光希。光の異能を使えるから、あーやって物質をすり抜けられるんだぜ!」
そして、自慢気にニヤッと笑う。
「改めて、僕は四波慎太郎。波動の異能と剣術を合わせて戦う。まだまだ拙い型しか出来ないがな」
「なんで助けに来たんだ……。君たちがここにいたら、家の者が黙っていないぞ……」
すると、慎太郎は俺の頭をデコピンした。
「いたっ」
「お前、まだそんなこと言ってるのか。家柄に縛られて、お前は強くなる気があんのか?」
「強くは……なりたいけど……でも……先祖様の偉業を踏み躙るような真似は出来ない……。俺は、これでも神童と呼ばれて期待されているんだ……」
慎太郎は溜息を吐くと、俺に向かい合った。
「お前の弱点はそこだ。責任感強すぎ、真面目すぎ。ホント、身も心も鋼鉄って感じだな」
「仕方ないだろ……君たちには関係ない……」
「じゃあ最後に一つ聞く」
「何……?」
「八百万昴、お前は、“強くなりたいか?” 」
月明かりに、二人の目は照らされている。
俺の心には、どんな言葉よりも、その言葉が刺さる。
馬鹿にされた姉さんのように、打ち負かされた慎太郎のように、自由で、どこまで強くなれるのか試したい。
そんな、シンプルな願い。
「俺は……強くなりたい……!!」
「昴!!」
そこに、怒りを露わにする祖父が現れる。
こんな声で話していたら当然だ。
「慎太郎くん、それからお友達かな? これは、立派な不法侵入だよ」
しかし、慎太郎も三嶋も何も答えない。
「聞いているのか!!」
怒る祖父、怖い。 ただ、怖い。
「昴」
俯いた俺の顔を、上に向かせたのは、姉さんだった。
「二人を招き入れたのは私だ。だから、不法侵入にはならないだろ? な? 爺さん」
「神子……! お前には関係ないだろ!! 昴は鋼鉄に相応しい異能を得たのだ!! 貴様と違ってな!!」
そして、祖父はワナワナと俺たちに近寄る。
「こちらに来なさい。昴」
怖い。
「早く、こっちへ!!」
怖い。
何かに引き寄せられるかのように、勝手に足は動く。
「そうだ、こっちに来い……」
その肩を、姉さんは掴む。
「強くなるんだろ?」
「姉さん……」
俺は歯を食い縛り、心に鋼鉄を宿した。
「お前の言う通りにはしない……クソジジイ……!!」
そして、鋼鉄の異能を両脇に召喚する。
「クソ……!? 言葉遣いまで神子に似おって!! すぐに罰して、愚かさに気付かせてやるわ!!」
すると、祖父もまた、鋼鉄を自身の身に宿す。
シャキ……
「はーい、そこまで」
祖父の首元を、姉さんの刃が捉えていた。
「なあ、爺さん。私、実はNo.3の称号を得たんだ。国内三位の実力者ってことだな」
「な、なんだと……!? 本当か……!?」
「もう分かるな? 昴は、誰に鍛えられた方が強くなるのか……。古ボケた頭でも冷やしてみるか?」
祖父は、その場にワナワナと座り込んだ。
「サンキューな、ガキ共!」
「ガキって言うんじゃねぇよ!!」
姉さんの発言に、三嶋は荒い口調を向けていた。
それから、俺は祖父に縛られることはなくなった。
もう一つ、変わったことは
「昴! もう一本だ!!」
「慎太郎!! 次は本気で行くぞ!!」
「神子さん! 次は負かすっスよ!!」
「掛かって来いよ! クソガキ!!」
俺たちは、喧嘩するように、四人で稽古に励む日々を送るようになっていた。
三嶋は元々、姉さんと喧嘩して、負かされてから勝つまで戦うと付き纏われたらしい。
慎太郎は、姉さんが以前、勝手に四波家へ道場破りに行っていたとか。
姉さんの自由奔放振りには、少しだけ呆れる部分もあるけれど、今の俺があるのは姉さんのお陰だ。
必ず、姉さんのような強い鋼鉄の戦士になりたい。
その為に、俺は強くなるんだ。