チカチカと、今にも消えそうな街灯が点滅している夜の町
窓からその様子をぼうっと眺める。
家の中には俺1人
チクタクとうるさく刻む時計の針は既に22時を指していた。
「…もとき」
返事なんて返ってくるはずがないのに、思わず恋人の名前を呼んでしまう。
最近はいつも帰りが遅い。
酷い時なんて夜中の0時を回っても帰ってこない。
ギターを弾いたり、テレビを見たりして気を紛らわせようとしても、頭に浮かんでくるのは元貴のことばかり。
待ちきれなくなり、玄関に座り込んで元貴の帰りをただひたすらに待つ。
そんなことを始めてからもう1時間は経っただろうか。
時計を確認しようとしたその時。
「ただいま〜」
玄関がガチャリと開き、俺の恋人・大森元貴が帰ってきた。
「ここにいちゃ寒いでしょ?ほら、中いこ」
俺を気遣いながら、優しく声をかけてくれる。
でも俺が今欲しいのはその言葉じゃない。
黙り込んで俯いていると、元貴はしゃがんで俺と目線を合わせてくれた。
少し顔を上げると元貴とぱっちり目が合う。
元貴の顔を見ただけなのに、俺は泣きそうになってしまう。
今すぐ元貴に飛び付いて泣きつきたい気持ちをグッと抑え、震える声で問いかける。
「こんな時間までどこ行ってたの…?」
少し間が空き、言葉を濁しながら元貴は呟く。
「ちょっと、ね」
…いつもこうだ。
俺が言って欲しい言葉は言ってくれず、不安になるようなことばかり。
それでも、元貴の体温がどうしようもなく恋しくなり、少し近付き元貴の首筋に顔を埋めた。
…元貴の匂いだ。
この匂いが好き、大好き。
でもそれだけじゃない。
元貴の匂いと混ざって、微かに花の香りが鼻の奥をツンとさす。
甘ったるくて、吐き気がしてくる。
元貴じゃなかったら、誰の匂いかって?
…そんなの決まってる。
「…他の女の匂いする」
その微かな香りに、違和感に気づかないほど馬鹿じゃない。
知ってるよ、元貴が他の女とヤってること。
最近帰りがずっと遅いのだって、他の女と遊んでるからだって。
全部わかってても、否定して欲しかった。
嘘でもいいから、安心させて欲しかった。
「はは、そう?」
「っ、…」
あぁ、まただ。
肯定はしないが、はっきりと否定もしてくれない。
その一言で更に不安が募り、またじんわりと目に涙が浮かぶ。
元貴の顔を見ると溜まった涙が全部溢れてしまいそうで。
唇を小さく噛みながら元貴の顔から視線を外し俯く。
すると元貴は、俺の頬を撫でながら、優しい声色で言葉を発する。
「ベッド行こっか、」
そう言いながら、俺のことを抱き元貴は寝室へと向かって行った。
寝室に着くと、元貴は俺を優しくベッドの上に下ろしてくれる。
ふかふかしたベッドの感触が心地良い。
「俺風呂入ってくるけど、1人で大丈夫?」
「…うん、まってる」
「ん、良い子」
元貴が俺の頭を優しく撫でてくれる。
いつも、俺に優しく触れてくれるこの手が大好きで。
すりすりと擦り寄ると優しい手つきでいっぱい撫でてくれる。
…好きだなぁ
元貴が出ていき、部屋には俺1人だけが残された。
先ほどまで満たされていた気持ちが嘘みたいに空っぽになる。
1人になるといつもこうだ。
元貴が俺じゃない人を選んでしまうのではないか、捨てられちゃうんじゃないかって不安で仕方がない。
ベッドの隅で膝を抱えてしばらくうずくまっていると、部屋の扉がゆっくりと開き、元貴が部屋の中に入ってきた。
元貴はベッドに腰掛け、ベッドの端に座り込んでいる俺においで、と優しく手招きをしている。
何とか重い身体を動かし、ぽすっと元貴の腕の中に収まる。
風呂上がりだからか、元貴の身体はあたたかく、冷えていた俺の身体を優しく抱きしめてくれた。
下がっていた体温がじんわりと暖かくなるような気がした。
もっと元貴を感じたくてぎゅっと強く抱きしめ返し、元貴の胸に顔を埋める。
ずっとこんな時間が続けば良いのに。
そんな、ささやかな願いを胸に抱く。
…でも
『続くわけないのにね』
頭の中で誰かの声が響く。
元貴の声?他の女の声?…俺の声?
不安で不安で仕方ない。こんなに元貴はすぐそばにいるのに、どこか遠いように感じて。
顔を上げて元貴の顔を見つめる。
「どうしたの?」
俺の様子を伺いながら優しく問いかけてくる。
「他の女のとこ行かないでよっ…」
絞り出すように、元貴に訴えかける。
「ふふ、可愛い」
相変わらず、元貴は俺が言って欲しい言葉はかけてくれない。
濁して、流して、曖昧な答えばかり。
一言でも、俺だけって言って欲しかった。
お願い元貴。たった一言で良いから。
もう一度口を開こうとすると、俺の言葉を飲み込むように元貴に口付けをされる。
突然のことで上手く息が出来ず、口を離そうとすると、舌を絡め取られ口付けを深くされる。
ちゅ、ちゅく、くちゅ♡
「んぅ…//ふぅっ、♡は、」
必死に酸素を吸おうとなんとか口を開けようとするが、その度に元貴に口の中を掻き乱される。
流石に限界が近くなってきて意識が朦朧としてきた頃、やっと元貴は解放してくれた。
息が上がり、顔が火照っていくのを感じる。
「かーわい♡」
そう言いながら、元貴は俺の腰を抱き寄せ、服に手を這わせようとしている。
その時
ブーブー
「……」
突然、部屋にバイブ音が響いた。
音のした方へ首を動かすと、元貴のスマホから音が鳴っていた。
画面に表示されているのは、知らない女の名前。
慌てて元貴の方に視線を向けると、スマホの方をじっと見つめていた。
自分の心臓の音がうるさく鼓動して、嫌な汗が身体を伝う。
いやだ、いやだ、いやだ
お願い元貴いかないで、電話になんて出ないで
この時間だけは、俺のことだけっ…
必死に震える手を伸ばし、元貴の服の裾を掴む。
じわっと目に涙が溜まる感覚がする。
涙で視界が歪み、元貴の顔がよく見えない。
わかってる、自分でも重いなって自覚はある。
それでも、元貴には俺だけ見てて欲しくって。
泣きそうになるのを何とか堪えて元貴を見つめるも、彼は残酷なひと言を告げる。
「ごめん、電話出てくる」
「ぁっ、」
そう言うと、元貴は俺の腰から手を離し、スマホへと手を伸ばす。
まってもとき
いかないで
口に出したいのに、喉の奥に言葉がつっかえて声にならなかった。
そんな俺の気持ちに元貴は応えることはなく、スマホを手に取り寝室から出て行ってしまった。
こんな状況でも、俺のことは見てくれない。
俺ではなく、他の女を優先して俺のことは置いてけぼり。
その事実が苦しくて、悲しくて。
目に溜まっていた涙の雫がベッドにポタポタと零れ落ちる。
俺ばかり好きで。
まだ何もしていないのに、シーツは俺の涙でひどく濡れていて、強く握りしめたせいで皺だらけ。
今まで我慢していた気持ちが全部溢れてぐちゃぐちゃになって。
ねぇ、元貴…
…お前がその気なら、俺だって。
心の中で、何かが崩れる音がした。
話が進まないどころか、1話の若井視点です…すみません…次は進みます…
そして長い…
そしてこれ、💭さんのフォロバ企画に参加するために書かせていただきましたぁ…!
💭さんの作品は一つ一つ心情描写がとても丁寧で、先の展開が読めないので読むたびにドキドキしてます…!!どれも大好きすぎて毎日読み返すくらい好きです!!
私の拙い小説で、💭さんが、そしていつも読んでくださる皆様が少しでも楽しんでいただけていたら幸いです!!
コメント
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うおおおおおおおおおおおおおおおおおやっぱ天才だ…神だぁ………✨️✨️✨️✨️ めちゃ気になるっ…✨️
若井かわいすぎるෆ
初コメ失礼致します。 企画に参加して下さり誠にありがとう御座いました🙇🏻♀️ 今回の作品が好みすぎたので、ねねか彡をフォロバさせて頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?