「ほら!こっちこっち!」
穏やかな表情で、僕に手招きをする男子生徒。
顔が小さく手足もスラリと長い。 肌も白く透明感があり太陽の光に照らされている彼は、まるでモデルのように美しく思わず見惚れてしまいそうになる。
年齢は差程変わらないはずなのにここまで差が生まれてしまう現実。
「…なんか顔に付いてる?」
「あ、いや…何でもない、です…」
整っている顔をじっと見詰めていると、困った顔をした彼に話し掛けられてしまった。
あまりにも見詰めてしまうと不審がられてしまう。気を付けなければ。
彼に言われるがまま隣に座り、僕は手に持っていた母特製弁当の蓋に手を掛けた。
蓋を開けた途端、僕の食欲を唆るとても美味しそうな香りが辺りに充満する。
「うわ!美味そー」
隣に視線をずらすと、彼が僕の弁当箱の中身を覗き込んでいた。 その目は幼い子供のようにとても輝いていた。
「…どれか食べる?」
あまりにも興味を示していた為、思わず口馴染みのない言葉が口から発せられた。
「え?見過ぎてた!?」
そんなことを言い笑い出す彼。続けて話し出す。
「それより、俺は山舘ルイ《やまだて》! よろしく!」
「え、あ、成瀬旬《なるせしゅん》…です」
「旬!よろしく! 俺のことはルイって呼んで!」
彼はこの短時間ほんの少し話しただけでも感じ取れる程、純粋で優しい心を持っているのだと思う。
人当たりも良く、きっとルイの周りには沢山の人が居るのだろう。 今の僕とは正反対過ぎる。
この日を境に僕達は話していく内に仲が深まり、今ではお互い呼び捨てにし、くだらない話や日々の愚痴を言い合える関係にまで発展した。
そんなルイだが、屋上へ行かない限り彼の姿を見かけることは無かった。 普段どこで何をしているのかを訊いてみたことはあるが、どうにも上手くはぐらかされてしまい、聞き出すことが難しかった。 そうしているうちに、僕は徐々にプライベートの質問をあまりしないようになった。
「午後から数学とかめっちゃ寝そう…」
「確かに、旬が寝てるとこ想像出来るわ〜」
「勝手に想像しないでよ…」
笑いながら僕の背中をバシバシ叩き心に無い謝罪をするルイ。 どうしてここまで元気なのだろうか。
「…てか、ルイは食べないの?」
今思えば、普通休み時間に昼食を摂るはずが、今までほぼ毎日隣で休み時間を過ごしてきたのにも関わらず、一度もルイが食べる姿を見た試しがない。
心配と疑問が重なり、僕は一歩踏み込み本人に訊くことにした。
「お腹空かないの?」
「あー、なんか全然空かないんだよねぇ 」
「でも、なにか食べた方がいいよ」
「はーい」
寝そべりながらの返事に僕の心配は更に大きくなる。 今度購買でなにか軽食を買って持ってこよう。
二人で全く中身の無い会話を続ける。
ふと視線を落とすと、食後に残していた一つのチョコスナック菓子が目に入った。 これまで食事の話題になったことがあまり無く、ルイの食の好みが知りたくなった。
「ルイって普段どんなお菓子食べてるの?」
「お菓子?んー、きのこの里とか …? 」
「え、きのこ派なの?僕たけのこの山」
「うわ、分かってないわぁ…
チョコを先に食べてからのクラッカーが一番美味いのに」
「いやいや、ミルクチョコレートとビターチョコレートを一度に楽しめるたけのこの山でしょ!」
「はぁ~?」
よくある心底どうでもいい論争が幕を開けた。
キーンコーンカーンコーン…
僕達の論争は終わりを迎えることも無く、午後の授業が始まる予鈴が校舎全体に響いた。
「あ、やばっ!もうこんな時間!?」
予鈴の音にハッとする。 二人して話に夢中になり時間を忘れて話し込んでしまっていた。
「あーもう!これあげる!」
「え?」
「これ食べてこっち派になれ!」
「いや、ちょ…」
「早くしないとルイも授業遅れるぞ〜!」
僕は時間内に食べれず残ってしまったスナック菓子を彼に押し付け、駆け足で屋上を後にした。
「いや、力技過ぎでしょ…」
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