テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……わ、分かった……今日だけ、だからな」
昴が渋々そう答えると羽衣子と希海は嬉しそうに顔を見合わせた。
乙哉と皐月は昴の返答に少し驚いていたものの、三人を微笑ましく思いながら見守っていた。
乙哉が人数分の帽子やカチューシャを購入して来ると、昴は恥ずかしそうな表情のままクマの耳が付いた帽子を被った。
その姿を見た希海は満足そうに笑い昴に抱き上げてもらうと、嬉しそうにその腕の中に収まり一行は園内を歩き始めた。
「希海くん、何から乗りたいんだっけ?」
昴の隣を歩いていた羽衣子が尋ねると希海は少し考えるように周囲を見回した後、
「えっとねぇ……あれ!」
少し離れた場所にある子供向けのコースターを指差した。
しかし、怪我が治っていない昴は苦笑する。
「俺は乗れないから、みんなで行ってくるといい」
子供向けとはいえ揺れるコースターに乗るのは今の昴には難しいのでそう告げると乙哉がすぐに口を開いた。
「あれは俺と皐月で乗ってくるんで、昴さんと羽衣子ちゃんは何か別のに乗るといいよ」
「そうですよ。折角ですから|若頭《カシラ》も楽しまないと。コースターを乗り終えたら連絡しますので後で合流しましょう」
どうやら乙哉と皐月は気を利かせて昴たちを二人きりにするつもりらしい。
「そうか。なら、そうさせてもらうか」
「え……?」
昴の即答に驚いた羽衣子。
「希海、後で会おうな」
そう言って昴は乙哉に希海を託しながら優しく声を掛ける。
「……うん、わかった」
希海は素直に頷いたもののその表情にはほんの少しだけ寂しさが滲んでいて、それに気づいた乙哉が、
「大丈夫だって。コースターが終わったら今度はみんなで乗れるやつ探せばいいんだから」
次はみんなで乗れるのを探そうと説得すると、
「……うん!」
希海はすぐに笑顔を取り戻した。
「それじゃあ、希海を頼む」
「はい! 任せてください」
こうして一行は二手に分かれて行動することに。
残された羽衣子は少しだけ緊張したように隣に立つ昴を見上げる。
「何か乗りたいアトラクションはあるか?」
「……いえ、その、特には……」
「そうか、ならゆっくり話が出来るよう、観覧車にでも乗るか」
「はい」
特に乗りたいアトラクションが無かったこともあり、落ち着いて会話が出来る観覧車に乗ることになった二人は手を繋いで歩いて行った。
観覧車にはそれほど客が並んでおらず、二人はほとんど待つことなく乗り込むことが出来た。
向かい合わせに腰を下ろすと、ゆっくりとゴンドラが上昇していく。
「並ばずに乗れて良かったな」
昴が外の景色を眺めながら言うと羽衣子も窓の向こうへ視線を向けた。
「観覧車って、きっと夕方とか夜の方が人気なのかもしれませんね」
「確かに、夜景とか見られるからな」
そんな会話を交わしながら二人は穏やかに景色を楽しんでいると、羽衣子がふと口を開いた。
「……さっきは、すみませんでした」
「どうした、急に?」
「その……帽子のことです」
「ああ、これのことか」
昴は頭に被ったままだった帽子を取って眺めた。
「どう見ても、俺がこんなのを付ける柄じゃないだろ」
「そんなことないですよ。似合ってます」
「おいおい。似合ってるはないだろ?」
思わず苦笑する昴に羽衣子は小さく笑った。
「ふふ……すみません」
「お前は似合ってるな。こういうの」
「そうですか? ありがとうございます。でも、一番似合ってたのは広瀬さんのネコ耳カチューシャだったかなって思いました」
「ああ……まあ、あれは着てるシャツの色合いが影響してるのかもしれねぇがな」
「言われてみれば、確かに」
顔を見合わせて二人は笑い合う。
そんな穏やかな時間が流れていく中、観覧車がさらに高いところまで上がった頃、羽衣子がふと遠くを見るように目を細めた。
「どうした?」
その変化に気付いた昴が尋ねるも、
「いえ……その……」
「何だ?」
羽衣子はすぐには答えなかった。
窓の外に広がる景色を眺めながら何かを思い出そうとするように目を伏せ、少し迷った末にぽつりと口にした。
「……観覧車に乗ってたら、思い出したことがあって……」
「思い出したこと?」
「…………その……小学生の頃、叔父さんに連れられて兄と遊園地に来たことがあって……」
昴は何も言わず羽衣子の言葉に耳を傾けた。
「その時も観覧車に乗ったんです」
「…………」
「私が乗りたいって言ったのに……いざ乗ってみたら徐々に高くなっていく景色が怖くなって……」
羽衣子は苦笑するように口元を緩めた。
「まだ上りきってもいないのに降りたいって泣いたんです」
「まあ、子供の頃ならそう思うのも無理はないかもな」
昴がそう返すと羽衣子は小さく頷いた。
「……そうですよね」
けれどそこまで話したところで羽衣子の声が途切れ、表情に陰りが浮かんでいる。
想汰の話をしてしまったことを気にしているのだろうーーそう考えた昴は、
「……それから、どうしたんだ?」
羽衣子が続きを話せるように問い掛けた。
「……え?」
「泣いて降りたいって言ったんだろ? そのあと、どうしたんだ?」
そう尋ねられた羽衣子は昴の顔を見つめた。
まるで、続きを話してもいいのかと確かめるように。
昴が無言で頷くと、ほんの少しだけ表情を和らげた羽衣子はゆっくりと口を開いて続きを話し出した。
#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

34,723
鷹槻れん

60,493
#強引
コメント
1件
読んできたよ〜!!✨ 遊園地デート、めっちゃ尊すぎた…😭💕 昴くんが渋々クマ耳帽子かぶる姿とか、羽衣子ちゃんがネコ耳似合ってたの思い出しちゃうところとか、エモさの塊すぎる!! 観覧車での思い出話、羽衣子ちゃんが小さい頃の話を勇気出してしてるのがじーんときたよ…昴くんが優しく促してくれるのも良いなって思った! 続きが気になりすぎる!!😳💕