「あなたには転生してもらいます」
「……いや、意味わかんないでしょ」
それしか言葉が出てこなかった。転生…俺はいつ映画の撮影に来たんだ?
とゆうか、ここは?
ふと気がつくと、俺は市役所の窓口っぽいところに座らされていた。
そしてカウンターを挟んで向かい合わせに座っている1人の女の子……
14歳くらいだろうか、小さい子供特有の無邪気さがある可愛らしい女の子だ。
「よくわかってないみたいですね…まぁ安心してください。質問に答えて貰うだけでいいので。自分の名前と年齢、職業は分かりますか?」
分からないことに時間を使うのが好きではないので、とりあえずここは相手のゆうことを聞くことにした。
「小浦糸 渚です。歳は16で、高校生やってました……」
「なんで過去形なんですか?」
「その…諸事情で自主退学して…」
「引きこもりですか〜…高校中退なんて親のスネかじりもいいとこですね」
「スネかじりって訳じゃないです! 最低限のことは自分でしてましたし、引きこもりって訳でも……」
「じゃあなんなんですか?自宅警備員とかは聞き飽きてますよ」
「普通にコンビニアルバイトだよ!」
「そんなに必死にならなくても冗談ですよ。ほら、ここに全部書いてありますので」
そう言って1枚の書類を差し出す。そこには俺の顔写真とともに、文字がびっしり書き連ねられていた。
「生年月日や職業、死因なんかも書いてありますよ」
「じゃあ聞く必要なかったん__」
……………ん?なんて?
「ここには、コンビニの商品を取り替えてる最中に脚立の上で体制を崩して転落…それでぽっくりイッちゃったと書いてありますね。ご愁傷さまです」
そう言って俺の死因を淡々と述べる様はとても冷静で、この手のことに手慣れている様子だ。
「俺……死んだのか?」
受け入れ難い現状に、思わず言葉が漏れた。そして死因を告られて少しずつ思い出してくる。確かあの時、脚立に誰かの肩が当たって揺れたんだったか…それで体制を崩して世界がひっくり返って、そんで……
うん。死んだ。
あれは死んだわ。当たり所が悪かったんだろう、まだ頭に痛みが残っている。
「信じられないならVTRもありますけど?」
人の死に際を記録に残すのはどうかと思うけどな。
「……とりあえず、いくつか質問してもいいですか?」
「結構落ち着いていらっしゃいますね。いいですよ。なんでも聞いてください」
少女は座る姿勢を正して話を聞く姿勢に入って、俺の発言をじっと待っている。
「じゃあ…まずここは?」
「ここは死役所、死人転生支援課の窓口です」
そう言って手元のプレートを指さす。そこには転生支援課研修生と書かれてあった。どうやらここにも研修というものがあるらしい。
「研修せ…ここは何をするところなんですか?」
「ここでは、不幸にも亡くなられた方に2度目の人生を送って貰うため、色々なサポートをさせてもらうところです。心残りがあって幽霊になられたら困るので」
つまり、転生とゆうことだ。
誰も彼もが転生する訳ではなく、第三者による予定外の死を遂げた人達に、悔いのない人生を送り直して貰うための救済措置…ということらしい。具体的には、不慮の事故で生涯を終えた人達が幽霊となって現世に影響を与えられたら困るから、悔いのない人生を送って貰って成仏してもらうということだ。
「人生をやり直すって…具体的にはどうゆうことなんですか?」
「そのままの意味です。あなたの世界で新生児からやり直し、新しい人生を送って貰うんです。その場合は記憶を消去して、言葉通り2度目の人生を送って貰います」
「その場合ってことは、別の選択肢もあるんですか?」
「はい。別の選択肢としては、別の場所で人生の続き送って貰うことになります。新生児からではなく、あなたの場合は16歳相当の肉体を用意して、その体で人生の続きを満喫してもらう事になります。その場合は記憶は受け継いで余生をすごして貰います」
「別の場所?」
「別の場所、異世界のことです。あなたの世界には戸籍という面倒くさいものがありますので、突然知らない人が現れるのは不自然でしょ?」
異世界ってホントに存在したんだな〜。小説とか漫画の設定かと思ってたけど。
「もういいですか?そろそろおやつの時間なので、なるはやで転生してもらいたいんですけど…」
変なところで子供っぽいな…調子が狂う。
「じゃあ最後に…転生後の体ってこのまま受け継げないんですか?」
「それは無理ですね〜。あなたの肉体は完全に死んじゃったので。転生後は別の肉体とゆうことになります」
「別の肉体……」
「転生後の肉体は、その人にあった種族、性別、容姿によって決められます。あなたの肉体はもう決まってますけど…お聞きになりますか?」
「じゃあついでに」
「では……」
少女は咳払いをして改まった様子だった。仕事で決められたセリフなんだろう。子供の癖して結構事務的だ。
「あなたの適性種族は【リリム】です」
「なんだって!?」
「そんなに興奮しないでくださいよ。気持ち悪いです」
「だってリリムって…その、男に淫らな夢を見せて精気を吸い取るってゆう……」
「はい。まぁ、夢を見せなくても精気を吸えればどっちでもいいんですけどね」
「つまりそれは、あれですか?男のエネルギーというか…それを……あの、いやらしいことをして吸い取るってことですよね?」
「まあそうですね。セックスなど、それに準ずる行為をして精気を吸い取る。それが主な食事方法です」
「もうちょっと言い方あるでしょ!せっかく気遣って言葉を濁してやったのに!」
「言い方を変えても結局ヤることは同じじゃないですか。男の人が死なない程度に搾り取ってゴックンしちゃってくださいな」
小さな女の子に心の底からドン引きする日が来るとは思わなかった……
「まぁ夢を見せてもいいんですけど、実の所性行為の方が効率がいいんですよ。夢を見せて精通させるより実際にやって卒業させた方がとれる精子の量が多いのは当たり前ですし」
「結局は飲まないとダメなんですか!?」
「そりゃそうでしょ。何もしないで精気が吸えたら苦労しませんし…正規法で吸い取ってください。精気だけに」
……そろそろ殴ってやろうかこいつ。
「何とかならないんですか?男バージョンのリリムになったりとか……」
「やっぱり女性の方としたいんですか?分かりますよその気持ち…ろくに友達もいなくてさぞ寂しかったんでしょう。1人で発散する日々に嫌気がさしたんですよね……泣けてきます」
「偏見ッ!!!男とするのは気が引けるからせめて女とって意味だ!」
「私は好きですけどね、そう言うシチュエーションも。まだできる年齢じゃないですけど」
ほんとにやめて欲しい…どうすればこの空間から抜け出せるんだよ……
「いっそこのまま成仏なんてことできないんですか?」
「あなた、これまで自分がどれだけ迷惑かけてきたかわかってます?バイト先ではミス続き、家でもろくに家事もしないでそのくせ__ 」
「もういいです!!」
傷口をドリルでえぐられてる気分だ…涙が出る…
「あ、ちょうど今カルテが届きましたね。ふむふむ…どうやら死亡前の発言と行動が原因でリリムになったそうですよ?せっかくですし一緒に見てみましょうか!どんな淫らな姿をしてたんでしょうか……バイト中にトイレでひとり遊びでもしたんですかね?」
サキュバスより淫れた小さな少女がリモコンを操作しながら話しかけてきた。
ありえん…ただのコンビニアルバイトでリリムになるような事してるわけない!!
何かの間違いのはずだ…絶対そうに決まってる!!
「それでは、VTRどうぞ!!」
そうして、窓口の脇にあるテレビに死ぬ寸前の映像が映し出された……
読んでくださりありがとうございます。
だいたい3000文字を目処に頑張ります。
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