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第5話「知らなかった過去」
翌朝。
「玲ー! おはよー!」
朝の教室に、聞き慣れた声が響いた。
「……朝から元気だな、お前」
玲は頬杖をついたまま、教室に入ってきた四季を見た。
「そりゃ元気だろ! 昨日の任務、めっちゃ楽しかったし!」
「楽しかったって……俺、結構危なかったんだけど」
「でも勝ったじゃん!」
「そういう問題じゃない」
玲が呆れたようにため息をつく。
すると四季は、玲の隣の席に勝手に座った。
「なぁ、今日の放課後、訓練付き合って!」
「嫌だ」
「即答!?」
「昨日の疲れが残ってる」
「えー! じゃあ、終わったら飯!」
「……なんでそうなるんだよ」
「玲と飯食いたいから!」
あまりにも迷いのない言葉に、玲は一瞬だけ黙った。
「……勝手にしろ」
「よっしゃ!」
四季は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、玲もほんの少しだけ口元を緩める。
自分でも不思議だった。
以前なら、誰かと一緒にいることなんて面倒だと思っていたはずなのに。
今は、四季が隣にいることを嫌だとは思わなくなっていた。
むしろ――。
その姿が見えないと、少しだけ気になってしまう。
そんな自分の変化に、玲はまだ気づいていなかった。
*
昼休み。
玲は一人で校舎裏にいた。
昨日の任務で、自分の力が少しずつ制御できるようになってきたことは分かった。
それでも、まだ不安が残っている。
「……もっと強くならないと」
自分が弱ければ、誰かを守ることなんてできない。
昨日、四季が自分を庇ったときの光景が頭をよぎる。
あのとき、もし四季が大きな怪我をしていたら。
そう考えるだけで、胸の奥が妙に苦しくなった。
「……何やってんだ、俺」
玲は小さく呟き、立ち上がった。
そのときだった。
「お前、四季と仲いいんだな」
突然声をかけられ、玲は振り返った。
そこにいたのは、同じ学園の生徒だった。
「……まあ、普通」
「普通ねぇ」
相手は少し考えるようにしてから、口を開いた。
「四季って、昔からあんな感じなんだよ」
「……あんな感じ?」
「うるさくて、考えるより先に身体が動いて、危なっかしいやつ」
玲は思わず頷いた。
「それは分かる」
「だろ?」
相手は笑った。
けれど、すぐにその表情が少しだけ変わる。
「でも、あいつ……昔はいろいろあったからな」
玲の視線が止まった。
「……いろいろ?」
「詳しくは本人に聞けよ。俺が話すことじゃないし」
そう言い残し、相手は校舎へ戻っていった。
玲はしばらく、その場から動けなかった。
四季の過去。
いつも笑っていて、嫌なことがあっても気にしていないような顔をする。
だから、何も悩んでいないのだと思っていた。
けれど、本当にそうなのだろうか。
「……聞いてみるか」
そう呟いたものの、玲はすぐに首を横に振った。
無理に聞き出すことじゃない。
四季が話したいと思ったときに、話してくれればいい。
そう考え、玲は教室へ戻った。
*
放課後。
「玲! 早く行こうぜ!」
四季がいつもの調子で手を振っていた。
「どこに?」
「飯!」
「……本当に行くのかよ」
「当たり前だろ!」
二人は学園を出て、近くの店へ向かった。
他愛もない話をしながら歩く。
四季が今日の訓練でどれだけ活躍するかを熱弁し、玲が適当に聞き流す。
いつもと変わらない時間。
しかし、店からの帰り道。
ふとした瞬間、四季が足を止めた。
「……四季?」
玲が振り返る。
四季は少し離れた場所を見つめていた。
その表情から、いつもの明るさが消えている。
「どうした?」
「……いや」
四季はすぐに笑顔を作った。
「なんでもねぇ!」
けれど、玲には分かった。
今の笑顔は、いつものものとは違う。
「……四季」
「ん?」
「無理して笑わなくてもいいんじゃない?」
四季の動きが止まった。
「……は?」
「いや、別に。なんとなく」
玲は視線を逸らす。
「お前、いつも笑ってるからさ。たまにはそうじゃないときがあってもいいだろ」
沈黙が落ちた。
四季はしばらく玲を見つめていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……お前って、意外とそういうとこ見てんのな」
「悪いかよ」
「いや」
四季は小さく笑った。
今度は、さっきより少し自然な笑顔だった。
「……昔さ」
四季が口を開く。
「俺、自分が何者なのか、よく分かんなくなったことがあんだよ」
玲は黙って聞いていた。
「周りがどう思ってるとか、何を期待してるとか。そういうの考えてたら、何が正しいのか分かんなくなって」
四季は空を見上げた。
「でも、ずっと悩んでても仕方ねぇじゃん。だから俺は、考えるより先に動くことにした」
「……そっか」
「ま、今でも考えるの苦手だけどな!」
四季はいつもの調子で笑った。
玲は、その横顔を見つめた。
全部を話してくれたわけじゃない。
それでも、四季が抱えてきたものの一端に触れられた気がした。
「……四季」
「ん?」
「話してくれて、ありがと」
四季は目を丸くした。
「なんだよ、急に」
「別に」
「変なやつ!」
「お前に言われたくない」
二人は再び歩き出した。
しばらくして、四季が何気なく口を開く。
「なぁ、玲」
「何?」
「お前はさ、自分が怖くなることってある?」
玲は足を止めかけた。
自分の中に流れる鬼の血。
制御できなくなる力。
誰かを傷つけてしまうかもしれないという恐怖。
答えは、決まっていた。
「……あるよ」
玲は正直に答えた。
「自分の力が怖い。いつか制御できなくなって、誰かを傷つけるんじゃないかって」
四季は黙って聞いていた。
「でもさ」
玲は続ける。
「怖いからって、逃げたくないんだ。自分の力くらい、自分で向き合いたい」
そして、四季を見る。
「……お前が隣にいるなら、少しは頑張れる気がする」
言ってから、玲は自分の言葉に驚いた。
こんなことを口にするつもりはなかった。
四季も、しばらく何も言わなかった。
「……っ、はは!」
突然、四季が笑い出した。
「な、なんだよ!」
「いや、だって! お前、そういうこと普通に言うんだな!」
「……もう忘れろ」
「無理! 絶対忘れねぇ!」
「……四季」
「はいはい、ごめんって!」
四季は笑いながら、玲の隣に並んだ。
そして、いつになく真剣な声で言った。
「俺も、お前が隣にいると心強いよ」
玲は四季を見た。
「だからさ、これからも一緒にいようぜ」
夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。
「……ああ」
玲は静かに頷いた。
その日、玲は初めて知った。
いつも笑っている四季にも、誰にも簡単には見せない過去があること。
そして四季もまた、玲の言葉に救われていたことを。
まだ、お互いのことをすべて知っているわけじゃない。
それでも。
少しずつでいい。
互いの知らない部分を知っていけたらいい。
玲は、隣を歩く四季を見つめた。
――もっと、こいつのことを知りたい。
その気持ちが何なのか。
玲には、まだ分からなかった。 :::
※書き方変えました
コメント
1件
おおおお第6話読み終えたよ〜〜〜🌸🌸🌸 四季が無理に笑ってるとこまでちゃんと見抜いて「無理して笑わなくていいんじゃない?」って言える玲、すごく優しい…😭💕 お互いの過去に触れ合う距離感が絶妙で、夕焼けのシーンで「一緒にいようぜ」って言える四季も最高だし、素直に「心強い」って言えた玲の成長にじーんときたよ…✨ 二人の関係が少しずつ深まってく感じ、めっちゃエモいです!!次話も楽しみにしてるねっ⋆♡
#ちょい死ネタ
綾音
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𝚈𝚄𝙼𝙴𝙽𝙾
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アウラウラ
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