露天風呂の後は、何種類かある温泉をはしごし、トータルで1時間ぐらいの大浴場を満喫した。浴衣を着て、部屋に戻ると……。
「アリス、おかえり」
既に部屋に戻っていた悠真くんが、飲み物を用意して待っていてくれた。
部屋に用意されていた、ありふれた柄の浴衣を悠真くんは着ているだけなのに。
とんでもなくかっこよく見える!
何より前髪を後ろに流すようにしているので、いつもと雰囲気が違う。
もうその姿を見ているだけで、ドキドキが止まらない。
窓際に置かれたソファセットに座ると、悠真くんが「アリス、こっちに来てくれませんか?」と艶やかに微笑む。
そばに行くと……。
「座ってください」と言われた。
ソファはテーブルを挟み、一人掛けのものが一つずつ置かれている。そして悠真くんはそのソファに座っているわけで……。
もしかして。
膝の上に座ってください……ということ?
確認の意味でその目を見ると……。
ニッコリ笑顔を返される。
もう心臓が爆発しそうになりながら、ゆっくり悠真くんの膝に座った。
その瞬間。
悠真くんは、ぎゅっと私を抱きしめる。
「アリスの香り。今日は僕と一緒」
「そ、そうですね。大浴場に設置されていたボディソープとクリームを使ったから……」
「いい香りですよね。華やかな花の香」
さらにぎゅっと抱きしめられ、心臓がとんでもないぐらい反応している。
「夕ご飯は19時からだから。まだまだ時間があります」
「う、うん。そうですね」
「なんならもう一度大浴場にも行けるし、部屋にも素敵なシャワーがついています」
「うん。そうね……」
「夕ご飯の前に、アリスを食べたい……」
悠真くんは約一ヵ月。
私と結ばれることを我慢してくれた。
同じベッドでほぼ毎日寝ていたのに。
我慢して、我慢して、今日。
一泊八万円もする部屋を、悠真くんは予約してくれた。
私との特別のために。
そして「食べたい……」とリクエストされ、お預けなんてするわけがない。
恥ずかしいけど私も「悠真に食べてほしい……」と答えていた。
とても嬉しそうな笑顔になった悠真くんは、私のことをそのまま抱き上げ、ベッドへ向かう。
優しくベッドに私を下すと、「アリス」と名前を呼び、いつものじれじれキスが始まる。
そのキスは額、頬、首筋と繰り返され、その間にお互いの浴衣は床へと落ちていく。
唇へのじれじれのキスの時には、もう完全に体はトロトロでとろけそうになっていた。
頬を高揚させた悠真くんの顔を見ると、さらに興奮してしまう。
それにどうしたって彼という存在を、意識してしまうのは避けられない。
だって。
悠真くんは……青山悠真だから。
彼の姿をネットや動画で見ない日はない。
意識的に彼の姿を追っているせいもあるが、映画にも連ドラにも出ているし、動画の配信もしているから……。
その青山悠真が、こんなに欲情を露わにした顔を見せてくれるなんて。
「アリス、もっと気持ちよくしてあげるから……」
もう十分、気持ちいいのに!
悠真くんはとても丁寧に、優しく、私の気持ちと体を高めてくれる。
おかげで悠真くんと結ばれた時は……もう楽園にいる気分。
全身で悠真くんを感じ、幸せで満たされ、そのあまりの気持ちよさに意識が飛びそうだった。
「……もう……アリスなしでは生きていけないです……」
まだ息が上がっているのに、そう言って悠真くんは私をぎゅっと抱きしめる。そしてゆっくり体を離し、唇に軽くキスをして、ベッドから起き上がると……。
隣のベッドに置いていたバスローブを羽織り、水を飲みに行った……と思ったら、すぐに戻ってきた。手に水の入ったボトルを持っていて、私に差し出してくれる。
上半身を起こし毛布にくるまり、ボトルを受け取ると、悠真くんは私の隣に腰をおろした。ボトルの水を飲んだ私のことを後ろから抱きしめると……。
「アリス、これ」
彼の手には白いリボンのかけられた水色の箱がある。
「! これは……?」
「アリスと僕の初めての記念です」
誰もが知る海外の宝飾品店の名前が、箱の蓋に刻まれている。こんな素敵なホテルを予約してくれたのに。わざわざ記念日のプレゼントまで、用意してくれるなんて……!
「ありがとう、悠真。私は……何も用意していないのに」
「アリスは僕に素敵な思い出をくれたから。それで十分です。さらにこれをアリスが身に着けてくれれば、いつでも今日を思い出せて、僕は幸せになれますから」
悠真くん、なんて男前なの!
涙が出そうになりながら「開けてもいいですか?」と尋ねると「ぜひ」と輝くような笑顔になる。
白いリボンをほどき、その中から出てきたのは――。
ローズゴールドの、ハートのカギのペンダント。
「すごい! 可愛い! ありがとう、悠真」
抱きつく私の頭を撫でると「つけみてください、アリス」と悠真くんは笑顔でリクエストする。喜んでつけると……。
「ゴールドより、肌の色に近いから、馴染むと店員さんが言っていたけれど……。うん。アリスによく合っています」
「本当に嬉しいわ。大切にする」
「僕もアリスのこと、大切にします……」
そう耳元で囁いた悠真くんは……。
その若さを遺憾なく発揮し、夕食まで私をたっぷり愛してくれた。
【完結】
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