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合唱部の練習を終えて、京介が教室で楽譜を片付けていると、クラスの女子が声をかけてきた。
「藤牧くん、歌すっごく上手だね! 文化祭のソロも藤牧くんでしょ?」
「……まぁ、そうだけど」
少し照れ隠しにそっけなく答える京介。女子は嬉しそうに笑った。
「ねぇ、今度一緒に練習しよ! ピアノ弾けるから!」
そのとき――ガラリ、と扉が開いた。
「京介、帰るぞ」
廊下に立っていたのは匠海だった。
女子が「生徒会長!」と目を輝かせる。
匠海はにこりと笑い、女子に軽く会釈してから京介に視線を戻した。
「……行くで」
短い言葉に、妙な圧がこもっていた。
「は? ちょっと待てよ、まだ――」
「ええから」
有無を言わせぬ調子で腕を引かれ、京介は廊下へ連れ出される。
「な、なんだよ! 強引すぎんだろ!」
「お前、女の子と二人きりで盛り上がって、楽しかったんやなぁ?」
匠海の口調は穏やかなのに、瞳は少し尖っていた。
京介は言葉を失う。
(……え、もしかしてコイツ、嫉妬してんのか?)
心臓がざわめいた。
翌朝。教室でまた噂が立っていた。
「なぁ、聞いた? 昨日も会長が藤牧のこと迎えに来たらしい」
「えー!あれ絶対過保護っていうか……溺愛でしょ」
「兄弟っていうよりカップルって感じじゃん」
京介は机に突っ伏しながらも耳はダンボ。
(カ、カップル……? そんなふうに見られてんのか俺ら……!)
ガタッと立ち上がり、クラスメイトを睨む。
「はぁ!? アホか! 誰がアイツなんかと!」
「うわ、必死に否定してるー」
クラス中がざわざわ。
そのとき後ろのドアが開く。
「京介、これ忘れもんや」
匠海が京介のプリントを手に持って立っていた。
……タイミング最悪。
「お兄ちゃんわざわざ届けに来たの?!」
「ほんとカップルやん!」
「ちっ……マジで勘弁してくれ」
京介は頭を抱えた。
文化祭準備のため、京介は図書室で資料を探していた。
そこに、偶然匠海も入ってくる。
「……なんでお前までいんだよ」
「会長やからな。確認しにきただけや」
静かな図書室。二人で同じ机に向かうと、距離が近すぎて京介は落ち着かない。
「ページめくんの遅いなぁ。貸してみ」
匠海が本を取り、京介の肩に軽く触れる。
ビクリと体を震わせた京介を見て、匠海が口角を上げる。
「……お前、なんでそんな反応すんねん」
「してねぇ!!」
声が大きすぎて司書に注意され、京介はさらに赤面した。
昼休み。匠海は女子生徒に囲まれていた。
「会長、これよかったらどうぞ!」
「ノートまとめたんです、よければ!」
匠海は「ありがとうなぁ」と柔らかく笑って受け取る。
その光景を廊下の端から見ていた京介は、心臓がざわざわした。
(……あいつ、誰にでも優しい顔すんのマジでムカつく)
(俺のときだけにしとけよ……って、なに考えてんだ俺!)
思わず舌打ち。
その音に気づいた匠海がこちらを振り返り、にやりと笑う。
「京介、こっち来いや」
「い、行かねぇし!」
そっぽを向いた京介の耳は真っ赤だった。
その夜、リビングで二人並んで課題。
匠海がペンを置き、じっと京介を見つめる。
「な、なんだよ……」
「京介って、他の奴に比べて、俺にだけめっちゃ刺々しいよな」
「そりゃお前がウザいからだろ」
そう答えた京介の声は、どこか震えていた。
匠海は笑わず、真剣に言った。
「俺は……その刺々しいのも含めて、京介が一番気になる」
「……っ」
京介は思わず目を逸らし、ノートに視線を落とす。
心臓がうるさい。言葉にできない熱が胸を占めていく。
その夜。京介は夢を見た。
夢の中で、匠海が「兄弟じゃなくて、恋人になりたかった」と笑っていた。
目が覚め、京介は布団の中で頭を抱える。
「……なんで、アイツのことばっか考えてんだよ、俺」
夜の静けさに、京介の荒い呼吸だけが響いていた。
京介は「嫉妬」をきっかけに自分の気持ちを少しずつ自覚。
匠海も「京介にだけ特別」な態度を見せ始める。
周囲の噂も相まって、二人の距離は兄弟の枠をはみ出しつつあった――。
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