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「あ、坂井 (さかい) さん、ちょっといいですか? そんなに時間はとらせませんから」
会談を終え、帰り支度をしていた坂井隊長を俺は呼びとめた。
坂井隊長は上官である笹井 (ささい) 2尉と二言三言交わしたのち、
「では、もうしばらく」と快く応じてくれた。
「お忙しいところをすいません。少しお話ししたいことがあったんですよ」
「いえいえ大丈夫です。今日は急ぎの用もありませんので」
「お話ししようと思ったのはスキルのことなんです」
「スキルですか?」
坂井隊長自身がレベルアップしていることや、槍術スキル・鑑定スキルを獲得していることなどをお話した。
「あぁそうか、ダンジョンの中で体の動きが良くなったのはレベルが上がったからなんですね」
顎をつかんでうんうん頷いている坂井隊長。
「これから行なうことは内密にお願いしますね」
そう前置きしたあと、シロを交えて【鑑定】を何度か発動してもらった。
……よし。
これで魔力操作のレベルが2、鑑定のレベルも2へと上がったな。
「では坂井さん、ちょっとそこで立ってみてください」
「は、はい……?」
「足は肩幅に開いて、左手は腰へあて、右手はひらいて前へ突き出すんです」
「こ、こうですか?」
「そうですそうです。そして手の甲を見つめて ”ステータス・オープン” と唱えてみてください」
「…………」
「さあ……」
「ステータス・オープン!」
「どうです?」
「おおぉ、これが私のステータスなんですね!」
疑うことを忘れてしまっている坂井隊長は、教えた体制のまま自分のステータスに見入っている。
――目をキラキラさせて。
やっぱりジョジョ立ちにすべきだったかなぁ。
一緒に見ていた茂 (しげる) さんは口に手を当て今にも吹き出しそうだ。
誰もが通る道さ。共に黒歴史を刻もうじゃないか。
………………
これなら接触するぐらい近よれば、他の隊員さんのレベルやスキルも把握できるはずだ。
『二人くっついてなにやってるんだ?』
傍から見れば、あらぬ疑いをかけられそうだよな。
ククク、想像したら可笑しくなってきた。距離感は大事だよな場所によってはね。
しかし、現状だとそれほどMPが多いわけではないので、あまり無理しないようにといっておいた。
「これで隊員たちも励みになるかと思います。ありがとうございました!」
坂井隊長には殊の外喜んで頂けたようだ。
「それは良かったです。わからないことがあった、またらいつでもお越しください」
「はい、近いうちにお伺いします!」
玄関先で見送る俺たちに坂井隊長はサッと頭を下げて帰っていった。
あれって敬礼と一緒なんだよね。
無帽のときは頭を5度ほど下げて敬礼の代わりとするんだったかな。
社交辞令で言ったつもりだったけど、ホントに何回も来そうだよ。
まあ、ここが集会場のようになっても困るけど、一人で来る分にはぜんぜんOKかな。
時計を見ればまもなく4時。
中途半端な時間だし、用事もなかった俺はそのまま居間で茂さんとダベっていた。
雑談中に茂さんを鑑定してみるとレベルが10まで上がっていた。
「茂さん、レベルが結構上がってますね。じゃあ、ぼちぼちこっちを使ってみませんか?」
俺がインベントリーから取り出したのは、本格派の大型偃月刀。
その偃月刀を手に持った茂さん。感動しているのか身体がぷるぷると震えている。
「これは背中がゾクゾクするよ。うぉー 燃えてきた~!」
そして、ここからは例によって武器談義がはじまる。
「もちろん刀身はミスリルマジック合金製です。そして更に、この柄の部分にも同様にミスリルマジック合金が使われているので魔力を通しても壊れることがありません。よって魔纏を習得することができればドラゴンであろうと切り裂くことが可能になります」
「ドラゴンとはまた夢があるね~」
「ではコレを」
「これはなんだい?」
「魔法のバトンです。魔纏の練習に使ってください」
「…………」
わがままだったマリアベルのせいで魔法のバトンはたくさん作らされたからね。
今はメイスを使っているけど。(ミスリルマジック合金製)
男二人、ワイワイやりながら楽しい時間を過ごしていた。
そして話題は変わっていき、
週末あたりから合宿するのはどうかという案が飛びだしてきた。
なるほど、二つのダンジョンが覚醒するまで残すところ一ヵ月。
ここらでみんなの実力を把握しておくことも大事だよね。
そういうことなら、いろいろと予定を組んでみますかね。
合宿なら東京組にも声を掛けたほうがいいよな。
となると、場所も福岡よりは京都のほうが近くて便利じゃないか?
宿泊施設になる秘密基地も大きく作っておけば観光するときも余裕だし。
さっそく茂さんに持ちかけてみる。
すると茂さんは腕を組んでしばらく考えてから、
「うん、いいね! これからあっちこっち連絡とってみるから、ちょっと待っててくれる」
京都に行くとなると家を空けないといけないからね。代打をたのむのかな?
ダメならダメで福岡でやればいいのだし、京都⇔福岡 は一瞬で移動できるからね。
そして茂さんはスマホをテーブルに置きながら、
「こちらの都合はついたよ。本条 (ほんじょう) さんのほうもOKだって。本当に京都集合で良いのかって心配していたよ」
(本条さんとは東京の剛志 (つよし) さんのことです)
「そうですか、わかりました。明日にでも俺が現地入りして地下施設などを整備しておきますね」
「ああ、ここの地下みたいにするのか。ダンジョンとは凄いんだね」
「はい、身一つで行けるように宿泊施設も温泉もバッチリ準備しておきます。それにあそこは山を下れば何だってありますしね」
「なにか合宿なんていうと年甲斐もなくワクワクするもんだね」
「そうですよね。学生にもどった気分で大いに楽しみましょう」
「ただいまー。さっきから何二人で盛り上がってるの?」
「おう、お帰り~。紗月 (さつき) も茉莉香 (まりか) も一緒だったか」
「おかありゲンさま~」
んっ、なんだよ茉莉香?
そのピースを逆さまにしたようなサインは?
「ゲンさまギャルピだよ。ウェーい!」
ふ~ん、また妙なものがはやってんだなぁ。
「それで何だったのでしょうか?」
「ああ、うん、いやな今度連休があるだろう。それを利用して強化合宿しようかって話になっているんだよ」
「ふ~ん、場所はどこなの?」
「京都でやろうということだけど、どうだ?」
「あ~、あーしたち連休明けに中間テストあんだよねぇ……」
「だったらやめとくか? 楓 (かえで) も東京から出てくるそうだけど」
「ああ~、楓ちゃんも出てくるんだ~」
「あーし最近なんていうかぁ、記憶力がえぐいんだよねぇ。全集中でのぞめば中間なんて楽勝! みんなでホカンスなんてあがるぅ~」
ホカンスって茉莉香……、宿泊場所はお山だぞ。
まあ、京都観光は合宿のあいまにできるだろうけど。
座標さえしっかり指定してやれば、どこだって転移で飛べるからな。
そのあと買い物に出ていた4人、メアリー、マリアベル、タマ、キロが加わり、
みんなでワーワーキャーキャーしばらく大変だった。
そっか、このまえ留守番だったものもいたよな。観光のこともしっかり考えておきましょうかね。
それからしばらくして帰ってきた健太郎 (けんたろう) も二つ返事でOKをもらった。
今は家にいない慶子 (けいこ) にも紗月がラインで確認をとってくれた。もちろん行くそうだ。
「フウガたちはしっかり留守を頼むぞ」
「タマさまは?」
「ああ、当然タマは連れていくぞ」
そう言い渡すと、フウガがこっそりサムズアップしてきた。
フウガよそういうとこだぞ。
壁に耳あり障子にメアリーっていうだろ?
まあ、【鬼の居ぬ間に洗濯】なんだろうが。
といってもまだ4日もあるぞ。(南無)
そして翌日。
俺は朝から伏見のお山にきていた。
シロとヤカンは今召喚したところだ。
ひさしぶりに帰ってきたヤカンはピョンピョン跳ねまわって喜んでいる。
「お前たちは用事ができたら呼ぶから、お山で遊んできていいぞ」
俺は二匹を送り出すと、ダンジョン・イナリの地下秘密基地へ下りた。
えっ? あぁ。
カンゾーとはリンクを組んでいるので情報の伝達も共有も思いのままというわけ。
それで昨日のうちにある程度の概略を説明、福岡にある秘密基地をベースにして建設するようイナリにお願いしておいたのだ。
まあ、こちらは福岡にある秘密基地の2倍程の広さをもち、温泉浴場も室内の大浴場とは別に露天風呂も完備している。
ただ、電気がきていないため電化製品が使えないのは困る。
今は間に合わせに小型発電機を用意しようと思っているが、ゆくゆくは発電の技術をダンジョンに伝え、電気を生み出してもらおうかと考えている。
また、このお山は全体的にスマホが使えて便利なのだが、それも秘密基地に下りれば電波が届かない。
ブースターを取り寄せるにしても連休明けになるだろうから、
今回の合宿ではスマホもテレビも諦めてもらうしかないだろう。
ベッドやマット、タオル関係も抜かりなく準備を終えた。
時計を見ればもうすぐ12時。
ヤカンも好きになったという牛丼でお腹を満たしたあとは、久しぶりにお山の散策へ出かけた。
茶屋で買い食いをしたり、お山の別ルートをヤカンに教わったりしながら午後は楽しく過ごした。
無口キャラのダンジョン・イナリであるが、散策の合間にいろいろと話をしてみた。
人間の生活に必要な暦や時間の概念はカンゾーを通して把握できているもよう。
京都の地理に関しても、俺が実際に転移して確認していったのでほぼ問題はないだろう。
地震に関してはこれから頻度が増すので、場所と時間の調整は綿密におこなっていきたいとおもう。
自衛隊からの要請があればメモを提出できるようにしておこう。
東京ダンジョン(仮)に関してはこちらでは何もわからないという。
まあ、リンクを組めるといっても覚醒後になるだろうし、状況の把握は難しいのかもね。
ただ、成長しきってない幼いダンジョンが如何なるものか?
なにも情報がないだけに不安である。ふつうに覚醒してくれればいいのだが。
そして3日が経った10月9日金曜日。
茂さんらは昼からしていた旅支度を終え、高校生組が帰ってくるのを待つばかりとなっていた。
こちら福岡からのメンバーは、茂さん・メアリー・マリアベル・チャト・タマ・キロ・慶子・紗月・茉莉香・健太郎の9人と1匹である。
昨日より東京入りしている俺は、東京ダンジョン(仮)の様子を見たあと剛志さん一家を連れて京都へ向かう予定だ。