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びゃ
#ホラー系でも、恋愛系でも、いじめ系でも、青春系でも。
前回の続きからになってます。
注意書きなどは第1話と同じです。
幻想的な世界へいってらっしゃいませ
第2話:魂の品書きと代償
「……レストラン、『ソウル・グランデ』?」聞き慣れない名を口にすると、ヴァレンシアさんは満足げに目を細めた。
館の内部は、外観以上に浮世離れしていた。高い天井からは水晶のシャンデリアが吊り下げられ、深い紫の絨毯が足音を完璧に吸い込んでいる。しかし、漂ってくるのは芳醇な料理の香りだけではない。そこには、古びた書物のような、あるいは雨上がりのアスファルトのような、奇妙に冷たい気配が混じっていた。
「あなたが聞きたいのは、この空間についてですか? それとも、この建物について?」
「……どっちもです」
私は導かれるまま、重厚な革張りの椅子に腰を下ろした。
ヴァレンシアさんは淀みのない所作で私の前に立ち、静かに語り始めた。
「このレストランは、現実世界の『隙間』に存在しています。そして、お客様としてお迎えするのは――あなたが先ほどニュースで見ていた『魂喰い』の方々です」
「えっ!? 魂喰いが、ここに……?」
心臓が跳ね上がる。あの、人を廃人にする怪物が客としてやってくるというのか。
「ええ。ですが、ここへ来られるのは非常に舌の肥えた美食家ばかり。彼らはただ魂を啜るだけでは満足しません。絶望によって極限まで熟成され、美しく結晶化した魂……それこそが彼らの求める至高のメインディッシュなのです」
ヴァレンシアさんの紫の瞳が、鑑定士のように私を見つめる。
「あなたの絶望した魂を感知して、レストランがあなたを呼び寄せました。ここは、自らの意思で絶望の淵まで歩いた者しか辿り着けない場所なのです」
「……私は、ただ、ふらふら歩いてただけで……」
「おや、覚えていないのですか?」
ヴァレンシアさんは少しだけ首を傾げ、冷徹な微笑を浮かべた。
「あなたは本来であれば、あのまま高層マンションの屋上から飛び降りて、自ら命を絶っていたのですよ。ここは、その『境界線』を超えた者が行き着く終着駅なのです」
脳裏に、強烈なフラッシュバックが起きた。
そうだ。私は、あの冷たい手すりを掴んで――。
目の前が暗くなる。結局、私は死ぬ勇気さえなかったのではなく、もう死んでいたのだ。
「……さて、こちらのメニューをどうぞ」
ヴァレンシアさんから渡されたのは、金装飾が施された重厚なメニュー表だった。
• 海の恵みをふんだんに使ったパエリア(復讐のスパイス付き)
• とろけるチーズが魅力的なアランチーニ(特典:静かなる終わり)
• ロシア料理の小さなパンケーキ・ブリヌイ(特典:最小限の恐怖)
「これって……」
「これは、あなたの魂を代償に叶えることができる『最期の願い』です。特典をよくご覧の上、お選びください。ここに招かれた時点で、拒否権はありません」
私は震える指で項目をなぞった。
復讐したい相手なんていない。母は私を置いて消えたけれど、恨む気力も残っていない。静かな死? 恐怖のない最期? ……どれも、今の私には空虚に思えた。
(せめて、一つくらい。生きた証を残したいなんて、贅沢かな)
ふと、ページの下の方に書かれた項目が目に留まった。
• マカロン(特典:最期の一言)
「これ……」
「文字通り、最期の一言を、あなたを一番大切に想っている人へお届けする特典です。私怨のない方に、よく選ばれますね」
「私が魂を食べられたら……現実ではどうなるの?」
「他の被害者と同様です。肉体という『器』だけが、虚ろなまま残ります」
脳裏に浮かんだのは、最後に喧嘩をしたままの浩平の顔だった。
あんな酷い言葉を言いたかったわけじゃない。ただ、自分があまりに惨めで、優しくされるのが怖かっただけなのに。
「……決めました」
私は顔を上げた。「この、マカロンをください」
「かしこまりました。では、特典を届けるお相手は――」
「田中浩平……。私の、彼氏だった人にお願いします」
「お会いできて光栄です。田中浩平様」
「……は?」
俺が目を開けると、そこは完全な暗闇だった。
さっきまで、必死に百香の行方を探して街中を走り回っていたはずだ。一週間も連絡が取れず、不吉な予感に胸が潰れそうになりながら、彼女の名前を呼び続けていたはずなのに。
「早速で申し訳ありませんが、こちらへ」
目の前には、場違いなほど美しい白銀の髪の男が立っていた。
「待てよ! 百香は……崎原百香がどこにいるか知ってるのか!?」
俺は詰め寄り、男の胸ぐらを掴もうとした。だが、男は、柳のようにその手をかわす。
「そのことについてお話ししたいのです。ついてきていただけますか?」
「百香は生きてるんだな!? どこにいるんだよ!」
俺の叫びに、男は答えない。ただ、無機質な静寂を纏って歩いていく。
「答えろよ! 百香はどこだ!」
我慢できず、俺は再び男に掴みかかった。今度はその腕を逃さず、強く引き止める。
男はゆっくりと振り返った。その瞳には、一欠片の同情もなかった。
「崎原百香様なら、既にお亡くなりになりました」
「……は?」
思考が停止する。
「亡くなったって……。冗談だろ、おい。何言ってるんだよ」
「いえ、約二日程前にお亡くなりになりました。魂を、頂戴しましたので」
指先から力が抜け、膝が崩れる。
「っざけんな……。ふざけんなよ! 何が魂だ、何が死んだだ!」
怒りが絶望を塗りつぶし、浩平は再び立ち上がった。
「ふざけんなって言ってんだよ!」
渾身の力で拳を振り上げる。だが、その拳が男の顔面に到達するよりも早く、俺の視界は激しく火花を散らした。
首筋に走る、鋭い衝撃。
「……今は、お眠りなさい。彼女の願いを届けるのは、その後です」
ヴァレンシアの冷ややかな声を最後に、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
(第2話・完)
【第3話(最終話)の予告】
目を覚ました浩平に届けられた、百香の「最期の言葉」。それは、愛と後悔に満ちた真実だった。失われた命は二度と戻らない。それでも、彼女が残した小さな奇跡が、浩平の止まった時間を動かし始める。
コメント
2件
コメ失礼! めっちゃいい話!設定神なんだが!