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◻︎問い詰めたいけれど
でもやはり、気になる。僕はゆっくりと食事をして、真澄たちのグループのペースに合わせた。2時間くらいたっただろうか?バラバラと立ち上がって散会するようだ。真澄を見ると……
___えっ?
その中の一人の男性と、腕を組んでレストランから出ていくのが見えた。
___そうだ、ここはホテルのレストランだった
まさかとは思うけど……尾行せずにはいられなかった。
なんだか楽しげな様子の二人は、腕を組んだままエレベーターホールへと向かう。二人が乗り込んだあと、どこへいくのか確認する。
行き先表示が8階で止まった、ということは宿泊ルームがあるところだ。隣に着いたエレベーターに乗り、二人を追いかけた。廊下にはいなかったが、角を曲がった辺りで声がしてどこの部屋かは、わかった。
___どうする?
乗り込めばいいのか、証拠写真を撮って離婚と慰謝料を請求すればいいのか……。
廊下の角、観葉植物の影に身を潜めたまま、1時間が過ぎた頃。ガチャリと音がしてドアが開いた気配がした。僕は息を殺し、観葉植物の葉の隙間からスマホを向け、入り口を撮影することにした。
「じゃ、また……」
「楽しかったよ、またな」
真澄からその男の首に手を回し、顔を近づけてキスをした。その真澄の背中には男の手が回る。
___あれ?
男の左手にも指輪が見えた。
___ダブル不倫というやつか?
誰よりも愛する妻の、浮気のその現場をこの目で見てしまった。スマホのシャッターを切る手が震える。
ドアが閉まり、男の姿は部屋の中に消えた。真澄がこちらに歩いてくるのが見えて、僕は慌てて向きを変えて歩きだす。
「あっ!」
その時、うっかりスマホを落としてしまい、慌てて拾って駆け出した。エレベーターは使わず、階段へと走る。気づかれた気がするが、立ち止まらずに駆け降りた。
___なんで僕が逃げるんだ?
浮気現場の妻を問い詰めることもできない、こんなに情けない男だったとは。
ホテルを出て、タクシーを拾う。とりあえず、真澄よりも早く、その場を離れたかった。
マンションに帰り着くと、お風呂を沸かしビールを開け、冷蔵庫からチーズやハムを出しテレビをつけ、いかにもずっとここにいましたという体裁をととのえる。何故、そんなことをしたのかその時はわからなかった。まるで、こちらが悪いことをして引け目を感じているような気になる。
「ただいま!あれ?もう帰ってたの?」
僕より30分ほど遅れて、真澄が帰ってきた。僕はさっきの出来事をなかったことにしたくて、相当な量のビールを飲んでいた。
「あ?うん、思ったより早く終わったよ」
「そうか。で、一人でそんなに飲んでるの?」
真澄は、僕の前に転がっているビールの空き缶を見て笑った。
___誰のせいだと思ってるんだよ
何も気づいていないのか、真澄にはまったく悪びれる様子はなくて、さっきのことは夢だったんじゃないかと思えてきた。
「飲み過ぎると明日がツライよ。私、お風呂入るね」
せかせかとパジャマを持って浴室に行く真澄を見ていた。
___風呂に入って男の余韻を消すということか
スマホを取り出し、ホテルのドアの前で撮った真澄と男の写真を見た。誰がどう見ても、浮気の現場写真だ。僕はこの部屋に入る前から二人を見ていたんだし。
写真を見ながら、どうしようかと考える。この写真を突きつけて、問い詰めるのが一番普通の対応な気がするのだけど。
その場合を僕なりに予想してみる。
僕…“今日、誰と食事だったの?”
真澄…“友達よ、言わなかったっけ?”
僕…“男の?”
真澄…“違うわよ、恵子よ、ほら、会ったことあるでしょ?”
僕…“恵子さんとは違うと思うけど、コレ”
(ここでスマホの写真を見せる)
真澄…“えっ、どうして?”
僕…“グループで食事したあと、腕を組んで八階の部屋へ行った、その後出てきた時の写真だよ。これ、恵子さんなの?”
真澄…“まさか、つけてたの?”
僕…“たまたまだよ。それよりも答えて。コレは誰?”
真澄…“………”
僕…“この男も既婚者みたいだね?どこの誰?どんな関係なの?”
真澄…“あー、もう!そうよ、付き合ってるのよ、私たち。でもそれだけよ、お互いの家庭を壊すつもりなんてないから”
僕…“付き合ってるって!ダブル不倫だよね、コイツにも奥さんがいるってことは、バレたらその奥さんも悲しむよね?”
真澄…“だからなに?バレなきゃいいってことでしょ?もうっ!めんどくさいな。バレたんなら仕方ない。いいわよ、離婚しましょうよ。慰謝料はごめん、払えるほど持ってないや”
僕…“そうじゃなくて!”
(まずは、ごめんなさいじゃないのか?)
真澄…“じゃあ、なんなの?
僕…“僕に対して何か言うことないの?”
真澄…“ごめんなさいって?こうなったのにはあなたにも原因があるんだからね”
僕…“僕のどこが悪いの?言ってよ”
真澄…“もういいわ、別れましょう”
(そしてそのまま、この部屋を出て行く)
僕…“いやだ!行かないでくれ!”
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そこまで想像した時、真澄がお風呂から出てきた。