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 マッドハッター~魔のサーカス テント内にて~

 私が私で無くなってから、何日経っただろう。 気づけば、強力な力を手に入れて、初めてその使い方をある人に教わってからと言うもの。いつしか、<マッドハッター>と世間から呼ばれ、恐れられ、命を狙われるようになった。


 そして、自分の身を守るのに召喚したのが、アルマロスだ。 アルマロス、と言うのはかつて天界にいた天使の名前だが、堕天使となり人間に魔術を無効にする知識を人間に教えたのだとか。 容姿を亀にし、城を創造したのは主を護るための最強の城として盾として、唯一の逃げ場として創造した。そして、さらに驚いたのは、外部からの攻撃を無効にする力を持っていた。


 私はこの力を利用しない手はなかった。 この子に、魔力を注げば歩く要塞の如く巨大化し、移動も楽になる。おまけに城の中にも入れるので宿には困らない。 しかし、魔力の消費も激しいため、いくつかの魔法の開発や特効薬の調合などもやってみているが、これらを私一人でこなすには骨が折れる。


 各地の事件を引き起こしながら、見つけたのがスパイキーとスパイクだった。彼らは特殊で二つの魂が一つの体に入った珍しい存在だった。


 二つの魂が一緒の体になるケースは主に二つ。 一つは、同じ場所、同じ時刻、同じ死因でこの世を去ったか。 二つ目は、二人に何らかの絆があり、死んでもなお離れられずにいた。 あるいは、その両方だ。


 彼らがいたサーカスは、放っておいても朽ち果てるが豚に真珠と言葉があるように。 あの団長は、彼らの才能とその価値をわかっていない。 予定とは違ったが、まあ、結果オーライだ。


 「あの、<マッドハッター>?」


 私が、紅茶を飲んでいると、スパイキーとスパイクがおずおずと私に問いかけてきた。


 「どうした? 二人とも。」


 「あの、貴方に名前はあるんですか?」


 「名前・・・。」


 人間だった頃の名前を忘れてしまった私。 世間で勝手に<マッドハッター>と呼ばれていたし、それを名前として定着しつつあったのだが。 よく考えれば、これは芸名というやつで、名前ではないのかもしれない。 名前。 名前は。


 あの時の自分がいたら自分は何者かと聞かれたら、正義とはほど遠い存在と答えるかもしれない。  では、正義でなければ何なのか?  答えは一つ。


 「悪・・・。いや。」


 悪、イーヴィル・・・。


 「エーヴェル。それが、私の名前だ。」


 すっかり冷めきった紅茶を飲み干して、アルマロスである場所に向かう。 窓を開けると風に乗って塩の香りがしてきた。 海が近いのだろう。 アルマロスの頭上を飛ぶ海猫。  さぁ、昔の友人に会いにいくとしよう。 

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