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その夜。
仕事が終わってすぐに家に帰る。
正直今日は一日落ち着かなくて、ずっと昼の透子のことが浮かんで仕事に集中出来なかった。
オレらしくない。
こんなことでこんなんでどうするよ。
これからもっと大変なことあるかもなのに、こんな大したことない嫉妬でこんな風になるとかヤバいだろ。
そして部屋着に着替えて、夕飯が出来そうな時間を計算して、隣の透子の部屋を訪ねる。
「いらっしゃい」
「どうも」
そして迎え入れてくれる透子。
だけど、お互い微妙な空気。
「ご飯もう食べる? カレーだからすぐ食べられるけど」
そのままキッチンに向かった透子がそう言ってくれるけど。
「まだいい・・・。話聞かないと気になってメシ喉通んない」
まずはモヤモヤしてるこの気持ちなんとかしないと、落ち着いてメシも味わえない。
「こっち来て。ここちゃんと座って」
そしてオレはリビングのソファーに座って、隣へ座るよう透子へ促す。
「はい・・・」
オレの言われた通り、そのまま大人しく座るもののまったく目を合わせようとしない。
何も言ってこない。
「こっち向いて。ちゃんとオレ見て説明して」
そう言って透子の肩を掴んでこっちに身体ごと向けさせる。
「透子。ちゃんとオレの目見て」
それでもまだ気まずそうに下を向いて目を逸らしている透子に伝える。
「透子。昼の話、どういうこと?ちゃんと説明して?」
そして透子から何も言ってこない、言い訳もしてこないのがなんか寂しくて。
オレにどう思われててもいいの?
オレがこんなに不安な気持ち透子には伝わってないの?
透子には大したことないことかもしれないけど、オレはどんな時もどんな透子のことも知っておきたいし、透子の一番でいたいんだよ。
もう怒るとか苛立ちとかそんなの通り越して、今はただ透子の言葉と気持ちが欲しくて、切なく見つめる。
「ずっと付き合ってる人って何?ラブラブって何?誰のこと?」
オレは気になっていることを一気にまくし立てて透子に尋ねる。
「ごめん・・・」
すると、透子は静かになぜか謝って来る。
何・・ごめんて・・?
何に対してのごめん?
黙っててごめん? ホントは誰かいるのごめん?
それとも・・やっぱり前の男が忘れられないごめん?
「透子・・。ごめん、って何・・・?」
オレは理由もわからないそのごめんに、なぜだか一気に不安になる。
そんなことないって頭ではわかっていても、どこかで透子が自分の元から去っていく不安に襲われる。
好きな人からのごめんは、なんでこんなに不安になるのだろう。
「いや!違う!そういう意味のごめんじゃなくて!」
「何が違うの・・?」
「違う違う!」
「まだ・・・あいつのこと好きなの?」
やっぱりまだチラついてしまう昔の男。
オレにはない大人の男の魅力。
オレがいない時に過ごしたそいつとの時間。
すべてに悔しくなる。
今まで他の男に悔しくなるとかそんなことなかったのに。
そんな心配しなくても放っておいても女の方から寄って来て、他の男を羨ましがることも、ましてや嫉妬するなんてこともなかった。
なのに今は、こんなに余裕がなくなるほどになるなんて。
「ホントに違うから!前のあの人はホントにもうなんとも思ってない!」
「じゃあ。また違う誰かがいたの・・?」
「違うよ~!ホントに誰もいない!あれは三輪ちゃんの勘違い!」
「・・・勘違い?」
「いや・・勘違い、でもないのか・・・。うん・・。私が三輪ちゃんにちゃんと言ってなかったのが悪かったの」
「どういうこと?」
「ホントに前の彼のこととかってことじゃなくて、一時期彼氏いないってなってたら飲み会やらちょっとめんどくさいことが多くて・・・。それに前の彼とは別れてからは恋愛自体がホント面倒でそういうの考えたくなかったから、周りには彼氏いるってことにしてて。それ訂正するのも特にめんどくさかったから、とりあえず今までそのままにしてた・・みたいな・・」
それを聞いてようやく腑に落ちた。
誰が悪いわけでもないけど、でもそれでオレは不安になったわけで。
「なるほど。そういうことね」
とりあえずは納得したことを伝える。
「うん・・・だから三輪ちゃんがあーいう感じで話しても別に誰の事でもないから気にしないでほしい・・・」
「そっか。どういう流れでそういう話になったのかはわかった」
「よかった!じゃあ・・」
「でも」
今サラッとなんか聞き流せないこと言ったのが気にかかる。
「今オレがいるのに、嘘でもなんか透子にそういう前からの存在があるとか、なんか気に食わない」
「いや、でもさ?それはホラ実際誰でもない架空の人の話だから」
「架空の男でもオレ以外透子の彼氏とか嫌だ」
「えっ?それ架空の人に、嫉妬・・してるってこと?」
「だったら何?架空でもなんでもオレ以外の男の存在は全部嫉妬するに決まってるでしょ」
「何それ(笑)可愛い」
なのに、透子はそんな言葉でからかってくる。
「はっ?ふざけてんの?オレ真剣なんだけど?」
「ごめんごめん(笑)」
こういうとこはやけに大人な余裕というかなんというか。
オレにとっての重大さを全然わかってない。