テラーノベル
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昼下がりの秘奏店は、珍しく静かだった。
ユズリハは店先の椅子に腰かけ、注文のない時間を持て余していた。
そんな彼のもとへ、ふらりとサグメが姿を見せる。
「ユズリハ、ちょっといい?」
「なになに先輩。甘味の差し入れ?だったら大歓迎ですけど」
「注文だよ。依頼のね」
さらりと言ってのけるサグメに、ユズリハは瞬きをした。
「ひさしぶりですね」
「そだねー依頼は“迷子を探してほしい”って。小さな子が朝から行方不明らしいよ」
ユズリハは表情を引き締め、立ち上がる。
「……そっか。じゃあ行きましょう。子どもは放っておけないし」
「えらいじゃん。新人探偵、頑張りなー」
軽口をたたき合いながら、二人は街へ出た。
失踪したのは六歳の男の子。
母親は泣き疲れたような顔で、サグメの手を握りしめていた。
「朝、家からいなくて……声をかけても返事がなくて……」
「大丈夫です。必ず見つけますから」
サグメは優しく言い、ユズリハも笑顔で頷く。
「僕らに任せてください!」
だが、足取りを追うと、途中でふっと途切れてしまった。
「……人の気配が消えてる」
サグメが眉を寄せる。
確かに、まるで小さな子が突然ふっと消えたような足跡の切れ方だった。
「誘拐……なのかな」
ユズリハが不安げに呟いたその時、彼の耳に微かな音が届いた。
――チリ…チリチリ…
「……鈴の音?」
その音は風に運ばれ、どこか懐かしいようで、それでいて不気味に響く。
音を辿ると、小さな路地裏の奥で“何か”が転がっていた。
「……首飾り? これ、子どもの持ち物じゃないよね」
銀色の鈴の首飾り。
触れると、まるで脈打つように光が揺れる。
サグメはすぐに目の色を変えた。
「……ユズリハ、離れて」
「え?」
「これ、生きてる。魔道具だね……それも、暴走寸前」
「魔道具って?」
「神が作った、または力を込めた特殊な道具のこと。リンクに似たことが一般人でも使えるんだ」
「暴走っていうのは?」
「リンクが自我を持って支配しようとする状態だよ」
「なるほど…」
首飾りは突然、蛇のように伸び上がった。
ユズリハが驚いて飛び退く間に、サグメが影を踏み針山を出現させる。
キィィィィン!!
魔道具は壁を滑るように逃げ、奥の廃工場へ入り込んだ。
「逃げた!?」
「追うよ。あれが迷子を攫った犯人」
工場の中は薄暗く、埃と鉄の匂いが漂っていた。
奥へ進むと――
「うそ……」
そこには、迷子の男の子だけでなく、数名の子どもが集められていた。
彼らは全員、ぼんやりとした目をして、立ち尽くしている。
その中央に、魔道具が浮かび、紐が“腕”のように広がっていた。
――チリ……チリチリ……
「……自我を得ちゃったんだね。持ち主を探すために、似た気配の子どもを攫って」
「持ち主がいないから暴走して……ってこと?」
「そう。放置できない」
その瞬間、魔道具はユズリハたちに気付き、刃のように鋭い光を伸ばして襲いかかってきた。
「ユズリハ、右!」
「わ、わっ!?うわあ!?」
サグメの指示に慌てて避けるユズリハ。
魔道具の光が床を切り裂き、火花が散る。
「ちょっと、速い……!」
「落ち着いてユズリハくん、あれを見て」
サグメが指差した先には――
魔道具の中心にある、黒い核。
「あれを壊せば、終わる!」
「なるほど!……え、どうやって!?」
「考えてね♪」
「うえぇぇぇぇぇ!?!?」
泣き言を言いつつも、ユズリハは必死に頭を回す。
(速くて避けにくい……でも、動くと光が収束する……なら!)
「サグメさん!」
「なに!?」
「合図したら、あれを引きつけてください!僕が核を狙います!」
ほんの一瞬、サグメの口端が上がった。
「……成長したね」
次の瞬間、彼は魔道具へ向かって駆け出し、影から矢を放った。
魔道具が一瞬だけ動きを止め――
「今ッ!!」
ユズリハが飛び出した。
全身の力を込め、核へ手を伸ばす。
ガッ!!
核を掴み、床へ叩きつけると、黒い亀裂が走り――
魔道具は、鈴の音を残して崩れ落ちた。
工場の中が、静かになった。
「ユズリハくんの成長先輩涙が止まらないよ…」
「泣いてなくないですか!?」
「じょーだん♡」
子どもたちの意識はすぐ戻り、全員が無事に救出された。
母親は泣きながら子どもを抱きしめ、ユズリハは胸を撫で下ろす。
「よかった……ほんとよかった……」
「ユズリハくん、この調子でできそ?」
「うーん……心臓に悪いけど、誰か救えるなら、悪くないかも」
サグメがくすりと笑う。
「じゃあ、また依頼が来たら一緒に行こうか」
「はい!」
――ユズリハの探偵業は大成功。
ただし本人は疲労困憊で、店に戻るなり椅子に沈み込んだという。
それでも彼は、また依頼が来れば立ち上がるだろう。
誰かを助ける、その小さな勇気を胸に。
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