ウッヒョー、これはこれは……。
合わせた唇の内で舌が口腔を這い回る音だ。
互いの背中に手を回して堅く抱き合ったまま、随分長いことキスしてやがる。
ヘンタイメガネがゴミ袋握り締めたままってのが笑えるところだが。
時折、顔を離したと思ったら互いに視線を交わして笑いあったり。
またキスしたり。
「いくせぇ……」
有夏チャンの目がトロンと潤んでいる。
無理ないか。
ヘンタイメガネの奴、感度が良いと評判の(?)有夏チャンの乳首を服の上からクネクネと触りまくっていたからだ。
「駄目だよ、有夏。掃除に戻らなくちゃ」
「でも。幾ヶ瀬、ちょっとだけ……」
切羽詰まった様子で自分の胸にしがみつく有夏チャンを、ヘンタイメガネはねちっこい目で見下ろしている。
何か企んでいるイヤらしい目つきだ。
「しょうがいなぁ。分かったよ。収まりそうにないなら、ちょっとだけ抜いてあげる」
そう言うと左手を有夏チャンの股間に押し当てる。
「うんん?」
服の上から撫でられ、余計にもどかしそうに有夏は身じろぎした。
「脱がせろよ」
だめ、と幾ヶ瀬がニヤリと笑う。
「掃除中で手が汚れてるもん。こんな手で有夏に直接触れないよ」
「いいって!」
「駄目だって」
「でもっ……んっ……」
ゆっくり動く手に合わせて、有夏も腰を揺らす。
頬を上気させ、幾ヶ瀬の胸にしがみついたまま腰を振る様ったら!
幾ヶ瀬は理性を保とうというつもりか、有夏チャンから顔を背けたまま手だけを動かしている。
「幾ヶ瀬、したい……」
「駄目。掃除しなきゃ。有夏の部屋でしょ」
「……幾ヶ瀬だってしたいくせに」
股間に伸びて来た有夏の手を、幾ヶ瀬はつかんで引き離した。
「駄目だって。明日まで我慢、ね。今日はこれだけしてあげるから」
「ふぁ……っん、いく、せっ、こんなの、ヤだっ」
幾ヶ瀬の手の動きが激しくなる。
服の上からとはいえ有夏もこれはたまらないらしく、すぐに達してしまった様子。
力を失った身体を幾ヶ瀬の腕に預けて有夏は乱れた呼吸の下、幾ヶ瀬をなじった。
「こんなのヤだ。昨日からなんで挿れてくんないんだよ」
「挿れてもらわなきゃ満足できないんだ、有夏」
「う……」
「だって、掃除の途中だよ?」
「すぐ済むって!」
「すぐ済むって、そんな……」
その言い草に幾ヶ瀬は苦笑する。
「明日、ちゃんとしよ。ね?」
「ホントにぃ?」
「有夏がヨくなるように、俺ちゃんと考えてるんだ」
「……何?」
一瞬、表情を曇らせた有夏だったが、すぐに気を取り直したようで隙をみては幾ヶ瀬の耳を舐めたり噛んだりして攻めている。
馬鹿だなぁ、有夏チャン──アタシはそう思うわけだな。
ヘンタイメガネのこの言い草。この笑い方。
アタシは浮き浮き……いやいや、嫌な予感しかしないものだ。
いやはや、明日が楽しみで……おっと、メガネが立ち上がったぞ?
「パンツ履き替えてからおいで。何だったらシャワー浴びて、少し休んでからでも構わないから」
なんて優し気なことを言いながら。
アタシは物音を立てないよう慌てて有夏邸へ戻る。
さもゴミ袋の口をくくり終わったところですという体を装っていると、メガネが何食わぬ顔して入ってきた。
ジロリと部屋を見渡し、それからアタシを睨んだ。
さっきまで有夏チャンをイカせてた顔とは随分違うな。
何だろうか、これは。
アタシ、蔑まれてるなって何故だかヒシヒシ感じるよ。
「何も片付いてないじゃない。使えない女」
「す、すいませんね」
何だろ、コレ。なんかすごく理不尽だ。
あと、有夏チャンのヤツ、ちっとも帰ってこないし。
メガネの監視の隙をついてこっそり見に行ったら、ヤツはベッドに寝っ転がって「磯野磯兵衛物語」の7巻読んで笑ってやがった。
すっごい理不尽だ。
世の中ってヤツは案外こんなもんなんだなぁ。
「有夏邸 脱・GM屋敷!」完
13「焦らしたあげく禁断のラブロマンス、なんてプレイを」につづく
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