テラーノベル
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その朝 わたしは少し早く家を出た。
理由はない。
なんとなく、
学校の門をくぐる前に 深呼吸したかった。
校門の前には、 いつもの景色があった。
登校してくる人。
友だち同士で笑ってる声。
自転車を押す音。
わたしは
その流れの中に ちゃんと混ざっていた。
――ここまでは、いつもどおり。
校門をくぐったそのとき。
うしろで
ちりん、
と鳴った。
一瞬 なんの音か 分からなかった。
でも、
その音は 聞き覚えがありすぎた。
心臓が 少しだけ跳ねる。
足音がする。
ゆっくり。
でも止まらない。
ちりん、
振り返る前に 分かってしまった。
そこに、
あの子がいた。
制服を着ている。
少し大きめのかばん。
歩くたびに かばんについている 鈴が鳴っている
ちりん。
ちりん。
あんなに、
日記の中だけだったのに。
「……おはよう」
あの子は 少し小さな声で そう言った。
わたしは 一拍遅れて
「おはよう」
って返した。
それだけ。
たった、それだけなのに、
胸の奥が ぐちゃっとした。
うれしい。
ちゃんと。
でも、
それと同じくらい 言葉にできない感情があった。
校舎に向かって ならんで歩く。
あの子は 歩くのが少しおそい
わたしは 無意識に 歩幅を合わせた。
ちりん。
ちりん。
この音、
日記を閉じるたびに 聞いていた音
それが今、
すぐ後ろで鳴っている。
「……あのね、これたよ。 」
あの子が言う。
「うん」
それ以上 言葉が出なかった。
教室が近づくにつれて、 心臓が重くなる。
この子は ちゃんとここまで来た。
校門をくぐって、 歩いて
今、ここにいる。
わたしは?
わたしは
昨日も、
一昨日も、
ここを通った。
でも何も変わってない。
入口の前で あの子は 立ち止まった。
「……ちょっと、
こわいね」
そう言って 笑った。
わたしは うなずいた。
「うん」
またそれしか 言えなかった。
ちりん、と、
鈴が鳴る。
その音が、
あの子にとっての “祝福”みたいで
でも、
置いていかれる合図 みたいにも聞こえた。
あの子は、
一歩 前に出る。
わたしよりも、前に。
わたしは 見慣れない その少しちじこまった背中をみていた。
コメント
1件
おそくなってしまいました! すみません( _ _):