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あてんしょん!
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文才のぶの字もない初心者です。お手柔らかに
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「コン!」
突然聞こえてきた聞き慣れない甲高い鳴き声に思わず目の前の文字から目を離し、音の発生源を探した。
家の近くにある、人が寄りつかないボロボロの小さな公園。遊具は滑り台のみ。その唯一の遊具は錆ができ、お世辞にも滑りたいと思えるような状態ではなくなっていた。
そんな公園でも、電気は通っており、ベンチの横にある街灯は元気にピカピカと光っている。
私はここでいつも本を1時間ほど読んでから帰路に着くのが習慣だった。初めてここを発見した時は思わず感嘆の声を上げてしまうほどに私の読書するための理想の環境だった。
人や人工物の音はほとんどせず、公園の後ろにある森の音、鳥の囀り、風が通り過ぎる音。自然に囲まれた小さな小さな公園は私の理想を写したのかと思うほどだった。
いつも通り家に帰る前にベンチに座り、本に没頭していた。少し風が多い日で、よく頰に風が通り抜けるなと思いつつ、心地よくページを捲っている時、一つ聞き慣れない音が響く。
動物の鳴き声だろうか。でもコンなんて鳴く動物?
そう考えながら本を閉じ、周りに目を向けた。
しかし目の見える範囲にそれらしい音の発生源は見えなかった。
ついに幻聴か?と感じつつもう一度本を読もうとした時、足に何か違和感を覚えた。
少し身を乗り出し、足付近を見やると先ほどまでは見えなかった焦茶の色をした狐が足に擦り寄っていた。
「さっきのコンはあなたの声?」
「コーン!」
私の知識の中では確か狐はコンではなく、キューンと鳴く。でもこの目の前の狐はコンと鳴いている。
撫でて欲しそうに頭を擦り付けてくるため撫でながらそう考えた。
狐はコンとは鳴かない。目の前にいるのは狐ではなく別の生き物か?
そんなことを考えていると私の手から狐が逃げ、ベンチの上に飛び乗った。
「どうしたの?」
「コン」
狐は私の読んでいた本の上に手を置いた。
まるでコレは何?と聞いているようだった。
「コレは小説だよ。内容は…なんて言えばいいかな。君には難しいと思うよ」
「コンコン!コン!」
納得しないような顔で内容を言え!と促しているような反応。狐とはこんなに頭がいいんだろうか?少なくとも私の言葉を理解しているように見える。
「そうだな…私たち人間の汚さを描いた小説だよ。この人の使う遠回しな言葉が好きなんだ。例えば…このページの『この人は合理的だ。』って文。意味、わかる?」
「コン…」
わからない、と返すように鳴いたか細い声に思わず笑いが溢れる。そりゃそうかと思いつつ、私の言っていることを本当に理解しているように見える。
「この文単体だとなんともない文なんだけどね、前後を読むと印象が変わるの。この作者はケチな人のことを合理的って表現してるの」
ツゥーとその文を人差しでなぞる。いい値段の本らしく手触りがいい紙が使われている。
横を見るとハテナマークを浮かべている狐の姿があった。
やっぱりまだ早かったでしょ?と問いかけながら頭を撫でる。公園に設置された時計を見るともう午後6時を示していた。
この時期、そろそろ暗くなる時間だ。完全に暗くなる前に帰ろうとベンチから立ち上がり、バックに本を詰めて肩にかける。
「じゃあね、また明日」
「コーン!」
コレが私とあの子の出会い。