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ホテルとレストランのオープン当日。
屋敷へと続く街道には、王都方面からの馬車が列をなし、まるでお祭りの行列のように続いていた。
蹄の音、車輪の軋み、使用人たちの呼び声。
すべてが混ざり合い、この場所が“動き出した”ことを証明している。
「こちらへどうぞ、お荷物はお預かりいたします!」
フレッドを中心に、使用人たちは慌ただしく動いていた。
レストランは、開店から満席。料理の提供はやや遅れ気味――それでも、不満の声はひとつも上がらなかった。
「キュキュ~!」
「こら、テーブルに乗っちゃダメよ!」
脚にリボンを巻いたルピは、客席の間を愛らしく駆け回り、お客様の笑い声を引き出している。
(……あら?)
一瞬だけ、ルピの耳がぴくりと震えた。まるで、何かに反応したように。だが、すぐに何事もなかったかのように駆け出していく。
(……気のせい、かしら)
「きゃあ!本物のレオン殿下だわ!」
「こちらにも来てくださいませ!」
レオンは笑顔を絶やさず、テーブルを回りながら、場の空気を自然と盛り上げていく。
(……前世で言えば、トップアイドルだわ)
彼はただそこにいるだけで、なにより華がある。軽く手を振っただけで、令嬢たちは「きゃ~」と歓声を上げ、頬を染めた。
(アレクは警備、フローラは厨房……)
私はホール全体を見渡しながら、ふっと息を吐いた。
(今のところ、順調ね)
***
アフタヌーンティーの時間。
フローラの考案したチューリップティーが、テーブルに運ばれていく。
湯を注いだ瞬間――ふわり、と閉じていたチューリップの花がほどけ、カップの中で咲いた。
「……きれい……」
「まるで魔法みたい……!」
客たちが息を呑む。
透明なジュレの中に花びらを閉じ込めた三層のケーキが、光を受けて宝石のようにきらめいている。
パシャッ、パシャッ――映像魔石の光が、あちこちで弾けた。
そのとき。
「――ガシャン!!」
鋭い音が、空気を切り裂いた。
「きゃああっ!」
「誰か来て!」
ざわめきが、悲鳴へと変わった。
駆け寄ると、そこにいたのは――社交界の中心人物、エルベルト公爵家令嬢リリアンヌだった。 足元には、割れたティーカップの破片が散らばっている。
すでにレオンが彼女を抱き上げていたが、その顔は血の気を失っていた。
「……唇が黒ずんでる。これ……毒じゃないかな」
(毒……!?)
空気が崩壊した。
「この料理とお茶、大丈夫なの!?」
「私も口にしたわ!」
「助けて――!」
恐怖は連鎖し、出口へと人が殺到しようとする。そんな中、私は声を張り上げた。
「全員、その場を動かないで!!」
鋭い声に、客たちの足が一斉に止まった。
「原因が判明するまで、レストランは一時封鎖よ!これは皆様の安全を確認し、原因を特定するための措置ですわ!」
「異論がある者はいるか?」
レストランの入り口にアレクが立ちはだかった。騎士団を従え、鋭い眼光で客席を射抜く。その圧倒的な威圧感の前に、ざわめいていた群衆は沈黙した。
厨房へ向かう。
そこには、今にも泣き出しそうなフローラと、青ざめて震える料理人が立ち尽くしていた。
「……私の、せいですか……?」
「違うわ。これは事故じゃない――仕組まれたものよ」
私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、はっきりと言い切った。