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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「――そういう流れで、士官学校へ入学することが出来てだな。二学年の後期に実施される訓練でクラッセル領まで来たってわけ」

「……そう」


私はルイスが五年間どうしていたか、彼の話を黙って聞いていた。


「私、何も知らなかった……」

「知らない方がいいことだってある。現にクラッセル子爵もお前に事実を黙っていただろう」

「でも、ルイスは……」

「ああ。帰るのが少しでも早かったら、巻き込まれていたかもしれない」


記事の内容を読んだだけで青ざめていたのに、ルイスはその場にいた。

孤児院が燃えるところ、そして共に暮らしていた子供たちが――。

『殺されてた』の一言だったが、その話に入ったさい、表情が青ざめていた。

ライドエクス侯爵家の騎士に保護されるまでの記憶が欠けているのも、自己防衛なのだろう。

ルイスがこんなにも辛い思いをしていたのに、私は何も知らなかった。


「でも、ルイスがライドエクス侯爵家に世話になっていたなんて」

「ああ。年に一度、トキゴウ村にも行ってる」

「村の皆はルイスが無事なのを知っているのね!」

「孤児院の墓参りしたあと、村のおっちゃんたちの家に一泊するんだ」

「墓参り……」


孤児院での事件が発生したのは、今頃になる。


「もう、行ったの?」

「いや、これから行くところだ」


ルイスはライドエクス侯爵家に仕えていても、士官学校生になっても墓参りは毎年していたらしい。

トキゴウ村の人々も、私と同じくルイスだけでも生き残っていてよかったと思っているだろう。

村人にとって、ルイスは赤子の時から面識がある。

皆、優しい人たちだったが、ルイスはより愛されていた。

私にはお母さんがいたけれど、ルイスは村の人々が父親、母親なのだ。


「ねえ、その墓参り……、私も行きたいわ」


年に一度の墓参り。

事件の詳細を知った今、私はトキゴウ村の孤児院へ行きたくて仕方がなかった。

ルイスが行くのであれば、私もそこへ行きたい。

村人の皆と久しぶりに会いたい。

私はその思いをルイスに告げた。


「俺は構わねえが、クラッセル子爵に許可貰えよ」

「うん。お義父さまを説得してみるわ」

「無断でロザリーを連れて行ったら、俺、領地から追い出されるだろうからさ」

「私たちの異性関係に目を光らせているとはいえ、そこまで酷いことはしないわよ」

「……どうだかな」


墓参りへの同行を認めてくれたが、クラッセル子爵に外出許可をもらうことが条件らしい。

ルイスと二人きりでトキゴウ村へ向かうことをクラッセル子爵が認めてくれるかというと、正直難しい。

けれど、今回は二人で行きたい。

孤児院の生き残りとして、二人で子供たちの墓参りをしたい。


「明後日までに手紙を出すわ。日程はあなたが決めて」

「おう」


トキゴウ村についての話は、ここで途切れた。

ここでルイスは飲み物を一気に飲み干す。

長く話していたせいか、乾いた喉を潤したようだ。


「そういえば、ルイスはライドエクス侯爵家の子供の世話役をしていたのよね」

「ああ」

「だったら、ウィクタール・フユ・ライドエクスのことも知ってるわよね」

「……そうだな」


ライドエクス侯爵家の令嬢、ウィクタールはヴァイオリン奏者として有名だ。

タッカード公爵家のリリアンと負けず劣らずの演奏技術を持っている。

なぜ、それを私が知っているかというと、国内のヴァイオリンコンクールでウィクタールと競ったことがあるからだ。

あれは私が十二歳の頃で、ちょうどルイスがウィクタールの世話役をしていた頃になる。


「トゥーンで行われた、ヴァイオリンコンクールに私も参加してたの。その時は、あの子に負けちゃたけど……」

「実は、お前があのコンクールに参加してたのは知ってたんだ」

「ならっ」

「ウィクタールに『私の演奏だけ聞いていればいいの』って我儘言われてな。お前の演奏、聞けなかったんだ」

「そう……、なんだ」


あの場にいたのであれば、私のヴァイオリンの演奏を聞いてくれたかもしれない。

期待したのだが、ルイスはウィクタールの面倒をみるのに精いっぱいだったらしい。

士官学校へ入学したのも、ウィクタールがルイスに執着していたのが原因だったそうだし。

私と再会した時に『俺、女には困ってなかったから』と冗談めいたことを言っていたが、それはあながち嘘ではないようだ。


「え、なに? お前、嫉妬してんの?」

「なんで私が!? ルイスが誰と恋仲になろうと、私には関係ないわっ」

「ふーん」


ルイスがにやついた顔で私を見てくる。


「ウィクタールさまとは……、連絡を取っているの?」

「カズンさまが止めているから、表立ってはこねえけど。あの手この手で連絡はくるな。まだ、諦めてはくれないみたいだ」

「もし、ルイスが騎士になったら……、カズンさまもウィクタールさまとの交際を認めてくれるかもしれないわね」

「は? なんで俺がウィクタールさまと結婚する前提で話が進むんだよ」


侯爵令嬢に言い寄られるなんてそうそうない。

それに、従者との恋なんて物語のようで美しい。

もし、ルイスが士官学校を優秀な成績で卒業し、騎士になったら、貴族令嬢との結婚も認められる。それもごく稀な例だが、現実に何件かある。


「俺が騎士を目指すのは――」

「めざすのは?」

「お前には内緒だっ! ふんっ」


ルイスは日々勉強や剣技に励んでいる。

そこそこの成績であれば、ルイスであれば簡単に卒業できるというのに。

励む理由があるとすれば、士官学校の成績上位者にしか開かれない道、騎士になること。

ルイスはとある目的のために騎士を目指しているらしいが、それは私に教えてはくれなかった。

拾われ令嬢の恩返し

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