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ルイスにトキゴウ村の孤児院の真相と、五年間彼が何をしていたのか聞いた後、私は屋敷に帰った。
屋敷へ戻ると、マリアンヌが出迎えてくれた。
「ロザリー、おかえりなさいっ」
私はマリアンヌにぎゅうっと抱きしめられる。
ルイスに事件の真相を聞きにゆくと伝えたから、私が悲しい気持ちになって帰ってくると分っていたのだ。
マリアンヌは私が悲しんだりしたとき、いつもこうやってぎゅっと抱きしめてくれた。
「ただいま戻りました」
マリアンヌの胸の中は、柔らかく甘い香りがする。
そして、安らぐ。
「お姉さま、私を孤児院から拾ってくださり、ありがとうございます」
「なあに、今になって」
「私、お姉さまに拾われていなかったら……、今を生きていなかったかもしれません」
「……」
ルイスは村の農作業が長引き、帰りが遅くなったから生き延びた。
それと同じく、私はマリアンヌに拾われたから、今がある。
新聞の記事だけでは実感が湧かなかったが、ルイスに事件の真相を聞いてからそれに気づいた。
孤児院の子供たちは、孤児院の火事に巻き込まれて亡くなったのではない。
殺意を持った何者かに皆殺しにされたのだ。
もし、マリアンヌに拾われていなかったら――。
そう考えると、恐ろしくて体の震えが止まらない。
「私は、ロザリーを笑顔にすることができたのね」
マリアンヌが私の身体を更にぎゅっと抱きしめる。
私の身体の震えを止めようとしているかのようだ。
「それで、真実を知ったロザリーは何をするの?」
長い抱擁が解かれ、マリアンヌが私に問う。
私は五年越しに真相を知った。
悲惨な事件の生き残りとして、ルイスと共に犠牲者となった子供たちの墓参りへ、トキゴウ村に行きたい。
「ルイスと共に墓参りへ行くために、お義父さまに外出の許可を貰ってきます」
私は次の目的をマリアンヌに告げた。
「ルイスと二人で行きたいのよね」
「はい」
「その許可を貰うのは難しいと思うわ」
「分かっています。お父様は異性と二人で外出するなど、普通の方法では認めてくれないでしょう」
「あら、ロザリーには何か考えがあるのね!?」
ルイスと二人、トキゴウ村へ向かう。
このクラッセル邸からトキゴウ村まで、馬車で半日かかる距離。
墓参りの他に、トキゴウ村の人たちから歓迎されるだろうから、一泊するだろう。
異性と出掛け、一泊する。
クラッセル子爵は私たちの異性交流に目を光らせている。
私たちに悪い男がつかないように、それらを払い、潰してきた。
信頼されているであろうグレンでも、クラッセル子爵の鋭い監視の元、生活している。
「……ありません。何通りか脳内で試してみましたが、全て却下されています」
「あらら……」
「なので、私の想いを直接、お義父さまにぶつけるしかないかと」
「ロザリーがそういうくらいなのだから、下手な作戦は逆効果ということね」
屋敷に帰るあいだ、話の内容を何通りか考えてみたが、すべてクラッセル子爵に却下される結果が出ている。
それならば、私の思ったことをクラッセル子爵にぶつけ、許可が出るまで食らいつくしかない。
マリアンヌのように外出禁止を言い渡されるかもしれないが、それでも無断で屋敷から抜け出そうと心に決めている。
「ロザリーはやると決めたら、とことんやる子だものね。もしかしたら、粘り勝ちするかもしれないわ」
「それに賭けてみようと思います」
「お父様が待ってるわ。いってらっしゃい」
「はい」
クラッセル子爵は演奏室で私を待っているはずだ。
グレンもそこにいる。
私はマリアンヌに背を押され、演奏室へ向かった。
☆
「おかえりロザリー」
演奏室に入ると、自身の楽器の手入れをしているクラッセル子爵と白いピアノで指慣らしをしているグレンがいた。
「急な外出とは感心しないね。まあ、約束の時間に帰ってきたから許すけど」
「ごめんなさい。読みたかった本が刊行される日が今日でしたので……、続きが待ちきれなくて」
「わかったよ」
用事も告げずに外出したことについて、クラッセル子爵は私に注意をした。
私は適当な言い訳をして謝った。
物語の本を読み、続きものが刊行されたらすぐに本屋で購入すること知っているから、クラッセル子爵はそれ以上、追及してこなかった。
でも、課題曲の練習が終われば、今の言い訳が嘘であることをクラッセル子爵に告げなければいけない。きっと、嘘をついたこと、真実を知ったことに対して何かしらの反応があるだろうし、異性と共に外泊するお伺いを立てることについては、大反対を受けることは間違いない。
(それと、課題曲の練習は別)
以降のことは、私の都合であり、課題曲の練習とは別のことである。
私のためにクラッセル子爵とグレンが時間を割いてくれている。
「ご指導、よろしくお願いします」
私は自身のヴァイオリンを手に取り、クラッセル子爵とグレンに一礼した。
(今は、目の前の練習に集中、集中……)
私は胸の中で念じ、課題曲の練習に励んだ。