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報復のアルペジオ〜殺しを拾う記憶〜
この物語はフィクションです。
実在する団体、人物名とは一切関係ありません。
第1章.気まぐれ部
N県桜夜塚おうやづか町の立地は難解なものだった。深い深い山に囲まれ、川に阻まれ、完全に孤立し、1つの集落のようになっていた。自然豊か稲作順調。他の市街地から移住してきたり観光に来る者も少ない為、一見上手く事が進んでるかのように見えたが、桜夜塚の経済は破綻し、桜夜塚の住民達は新たな土地や環境を求め連連と他の町へと移り住み、桜夜塚の住民はたった3年でみるみる減っていった。管理する者を失った桜夜塚町の家屋や病院、学校や警察署は次々と廃墟化し、桜夜塚町は1部を除いて廃村と成り果てていた。しかしながら、残された就学児達は今も尚学校へ通い、僅少ながらも小さなコミュニティを築いていた。が、勿論例外も存在する。学校に集い友人と猥談する者もいれば、自身の家を恋しく思い昼間学校へ行かず家族との生活を好む者もいる。しかし彼らは、桜夜塚町をこよなく愛しているが故、毎日こうして廃村での生活を余儀なくされてはいたが、各々この生活に満足している。桜夜塚町の高等学校は、2つを残して廃校と成り果てていた。その2つのうちの1つ。今日この頃、七千沢しちせざわ高等学校では4人の住民が暮らしていた。”部活”という名目で学校備え付けの和室を広く使い、各々だらだらと平和な時間を過ごしていた。興味関心が強く陽気で空気が読める橙髪の少女。1年生神木千則かみき ちのり。常に冷静で真面目な対抗心の強い白髪の少女。同じく1年小波縁さざなみ ゆかり。厨二病で常に眼帯を付けている小柄で桃髪の少女。2年秘暮明ひぐれ めい。明朗で友達想いな茶髪の少年。1年西ノ宮悠介さいのみや ゆうすけ。彼らは七千沢高等学校「気まぐれ部」の部員である。困ってる人を見つけたら助けるという名目で町探検をしたり、学校の警備をするという名目で毎日お泊まり会をしている。勿論、本当はいけない事なのではあるが、学校の教育方針である、”自由な教育”により、校内である程度自由に過ごしたり、公共の場であっても、夜間の部活名目の利用を許可されている。彼らの部室は校舎の本館2階の端にあった。
「ふーっはっはっは!!!!平伏せ愚民!!!」
明。秘暮明は、大きく手を広げ机を見下していた。そう。机を。
「はははは先輩ダウトぉぉ!!!」
「はぇ?」
西ノ宮悠介は自信満々に指摘した。トランプの代表的な遊びの1つ。ダウトである。上手く嘘をつきながら手札を出し、自分の手札をなくすゲーム。場に出たカードが偽であると思ったら「ダウト」と宣言する。至ってシンプルなゲームだ。
「えええなん…何故だ…!何故我のカードの真偽が見破られると言うのだ…まさか悠介貴様邪龍ファスファルトの化身だとでも……」
「明らかに”それ”だと思いますよ先輩!」
神木千則は軽く笑いあげ、すみませんと申し訳なさそうに机の中央に置かれていたカードを全て明に渡した。
「……K。」
小波縁は静かに”ラスト”の1枚を机の上に出した。先程まで笑いに包まれていた部室だったが、一瞬にして緊張感で埋め尽くされた。誰か1人でもあがってしまえば終わりのゲーム。順位付けされてしまう。明、千則、悠介の思考回路に選択肢が現れる。ダウトか。否か。各々打開すべく思考する。が。
「縁ちゃんは嘘をついている!!ダウトだ!!!ははは!吾輩を騙す事など未来永劫有り得な…」
「Kです。」
縁はカードを表にしながらそう言った。Kだった。縁のカードが明に譲渡される。縁の手持ちが無くなった。ゲーム終了だ。明は後ろを振り返り右手で左腕を押え呟いた。
「…なん…だと……!?我の…」
「「せ〜んぱ〜い!」」
明の背後から陽気な声が聞こえる。明るい元気な声が聞こえる。が、明はこう思った。
「…!!これは…殺気!!」
自身の背後を恐る恐る振り返った。
千則と悠介が笑顔でこちらを見つめていた。勿論、2人の目に光は無い。
「ははは…えっと…その……てへぺろ!」
その後。明はすっごい謝った。
次の日。彼らは登校しなかった。前日、学校に泊まったからだ。ダウトで盛り上がった後、明をいじり倒した千則と悠介は布団を敷かずに畳の上で眠ってしまった。結果明と縁は全員分の敷布団を敷き、悠介と千則をコロコロ転がし、布団に乗っけて掛け布団を掛け、自分達も寝床についた。明が目が覚めたら縁はもう部室に備え付けの寝具を畳み、シャワーを浴びていた。他2人は未だにぐっすり眠っている。明は2人の寝顔を横目に微笑み、自分の寝具を畳んだ。歯磨きをすべく脱衣所兼洗面所に向かい、歯を磨く。洗面台の鏡に自分の姿が映った。眼帯に触れ、ふっ…と微笑み、うがいをした。と同時に、シャワーを浴び終わった縁が扉を開いた。
「……あっ。明先輩。」
縁の素肌が明の前に露出する。
「あちゃー出くわしちゃったねぇ」
「…絶対知ってましたよね」
「まあまあいいじゃないか…うへへ」
縁は洗面台に設置されているタオルを素早く取り、勢いよく風呂場の扉を閉めた。
明が部屋に戻ると先程まで眠っていた2人は起きていた。布団はもう既に畳んでおり、各々の更衣室で着替えも済ませていたため、いつでも教室に上がれる状態であった。
「あ、先輩おはよー」
「おはようございます!」
元気よく挨拶する。明はうむ。元気があってよい。と年寄りのように呟いた。
「そういえばゆかりん朝風呂派なんですねー」
「そうみたいだねぇ私たちは夜行性だから。ほれほれ、君たちも我のように美を追求し歯磨きしてくるといいさ…」
「なんかどんどんキャラ変わってません?」
明はふっ…と微笑し自身の更衣室に向かう。
そして千則と悠介は洗面所へ。
「あ、悠介はまだだめだからね。入ったら喋れなくするから」
「入らねーよ…」
悠介は千則に言われた通り脱衣所の扉の前で待機する。数分してから明が着替えを済ませ、悠介に近寄ってきた。
「そっかそっか縁ちゃん今、は、だ、か、だもんね〜悠介くん妄想とかしちゃダメだよぉ?」
「し、しませんよ!!ってこら!確実に何かやましい気持ちがある笑顔をしないでください!」
「ふーん?へぇ〜?本当に〜?」
「な、無いですってば…ってか妄想して欲しくないなら言わないで下さ…」
「「きゃああああああ!!!」」
突如。脱衣所から悲鳴が上がった。悠介と明は驚き体をビクッとさせたが、それよりも。と、2人の安全の有無が気になり、悠介は慌てて脱衣所の扉を開けた。
「千則!縁!どうし……」
「「えっ」」
現状を理解した悠介。下着姿の縁が千則を押し倒し、2人共こちらを見上げていた。
「悠介くん見ちゃダメ!!」
「ぐぁ!?」
明に手で目を隠され、悠介は目の前が真っ暗になった。縁は下着姿を見られた恥ずかしさで赤面していた。千則は半笑い半ギレの状態で悠介を見ている。明は思った。南無阿弥陀仏、と。
「……悠介…。入ったらどうなるか、言ったよね?」
「い、いやいや悲鳴が聞こえたから心配になって入っただけであってこの状況は予想外つまり以下によってこれは不可抗りょ……」
明は悠介の目を隠したまま千則に悠介を差し出した。と同時に下からフルスイング千則アッパーを食らった。
身支度を整えた気まぐれ部は揃って部室を出た。
「うぅ…不可抗力だ……」
悠介は顔を真っ赤にしていた。縁の下着姿を見て赤面していたのではなく、物理的に赤くなっていた。縁はそんな悠介に一言呟いた。
「何故あなた方男はそんな卑猥な事を…」
「いや不可抗力だしいくら何でもあれはやり過ぎだろ!アッパー食らったと思ったら縁さんと千則にビンタ食らってたんですが!?」
「約束を守らなかった悠介が悪い!」
「こいつ…後で絶対酷い目に遭わせてやる…というか先輩もなんで助けてくれなかったんすか!」
「ふっふっふっ……我がアルティメットメカチョメチョメドラゴンパワーハラスメントはそんなくだらない後始末には使わないのだよ……」
「自分の技をパワハラ認定してる人初めて見たし後始末ってそれ俺のですよね確実に」
そんな雑談を重ねるうちに自分達の教室の前に着いていた。キーンコーンカーンコーンと授業開始の合図がなる。担任の先生が「早く席につけー」と生徒を急かす。縁や悠介は先程のいざこざがまるでなかったかのように慌てて自分の席へとついた。これが日常…ではあるのだが、流石に悠介も女子の下着を見るのは初めてだった為、悠介はビンタされた事や縁の下着姿を見てしまった事など多少なりモヤモヤが残っていたが、悠介はこうして何かをする度に部員全員の心は1つなのだといつも感じていた。楽しく毎日を過ごせるのも、何か辛い事があっても前向きになれるのも、部活の存在があるからだ。心の中で悠介は呟いた。
「(…あいつも誘ってみるか。)」と。
七千沢高等学校は、桜夜塚町に残された2つの学校の1高だ。生徒数約500名。廃墟化が進み廃校化された他の学校に通っていたものは、また別の学校への転校を余儀なくされた。故に生徒数は確保されていた。廃校化された学校からは教員も移動しており、今では1つのマンモス校となっていた。これは、七千沢高等学校とはまた別の、残されたもう1つの学校。矢賀江倉やがえぐら高等学校も同様である。桜夜塚の人口減少にあたり、七千沢同様マンモス校となった。現在。七千沢高等学校と矢賀江倉高等学校では、連携し同時期に文化祭の準備をしている。外部にチラシを配り、少しでも桜夜塚に興味を持ってもらい、廃校を免れよう。という計らいだ。その他にも、人口減少の改善。廃屋や病院のさらなる普及。警察署の増加により軽犯罪の減少などを学校側は意図していた。
「……やっぱ行くしかないでしょ…!廃墟探索!!!!」
七千沢高等学校”気まぐれ部”では、部活内での文化祭の出し物を模索していた。全員が案を出し合い、万丈一致で決まったのは、お化け屋敷であった。全員の意見が一致し、話し合いは順調に進行していたように思えたが……。
「嫌です。」
縁は千則の意見に反対していた。
「ええぇ!!!なんで!?」
「いや逆になにお化け屋敷のインスピレーションを貰う為に廃墟探索って……」
悠介は自身の頭の後ろで腕を組んだ。
「えー俺もいいと思うんだけどなー!どんな風にデコればお客さんがチビるかを縁で研究しないと…」
「悠介悪ふざけは辞めて」
「あっれれ〜?もしかして縁ちゃん怖いの〜?」
明がそこに追い打ちをかけるかのように煽った。
「そ…そ、そんな分けないでしょう!?ただ単に行く意義を感じないだけです!!」
「ふっ…嘘はつかなくて良いぞ縁ちゃん!この前みたいに夜中1人でトイレ行けな……」
「あああああああ分かりましたよ!!!行きます行きますから先輩はちょっと黙ってて下さい!」
「「「っしゃあああ!!」」」
明と千則と悠介は同時にいえーい!と言った感じでハイタッチをした。それを見て縁は「卑怯ですよ……」と口をとんがらせた。
千則はでは、と言った感じに合図した。
「じゃあ早速〜?」
「「「しゅっぱー……」」」
「出発しますよえぇ!!してやりますよ廃墟探索なんか全く怖く無いんですからね!!!!!」
「……ちょろいな」
「ゆかりんちょろいですね」
「ちょろいね」
桜夜塚町の現存している廃墟は、山に近い場所から廃墟化していった。その為、廃墟は山奥に密集していた。桜夜塚の山は角楼山かくろうやま、日下山ひさげやま、和妻山わづまやまの大きく3つに分けられていた。が、実際はこのように区別されそれぞれの山と認知されるはずだったが、その大きさ、広大さ故に、山の全貌やどこからが別の山などの区域を知っている者は極僅かである。気まぐれ部は3つの山のうちの1つ。日下山に訪れていた。川に囲まれ農作物を育てるには絶好の場所に思えたが、場所が場所故に、他の町との交流の妨げになっていた。廃村の責任を負いたくない山の所有者は、山を手放し、土地の所有者が存在しないほとんど孤立した山となっていた。しかし、桜夜塚との交流を希望している外界の人との交流の為、ある程度ではあるが、山道は整備されていた。その為、気まぐれ部は軽々と足を進めていた。2人を除いて。
「ぜぇ…はぁ…はぁ…ぜぇ……」
「ぜぇ……死…ぜぇ…ぜぇ……」
「ちょっとゆかりん!先輩!疲れるの早すぎ!」
角楼山の門を潜ってからはや5分。逢魔が時が刻一刻と迫る17時35分。縁と明は死にかけていた。
「まあ俺らは運動部兼部してるしな…」
「これだから…ぜぇ……陽キャは……」
「先輩も…ちゅうに…陽キャ…ですよ……はぁ…」
「もおおしょうがないな〜」
千則は縁と明の手首を掴み、引っ張りながら山道を走りだした。悠介は隣で楽しそうにその光景を見ながら駆けていた。
「…!?ちょ…千則ちゃん…死……」
「明先輩。」
「ぜぇ…ぜぇ……んぁ??」
「今までありがとうございました」
「うぇ!?」
縁は微笑みながら前へ倒れ、千則は手に引力を感じた。縁が力尽きた。
「縁ちゃあああああん!!」
「縁いいいいいいい!!!!」
それでも千則は前へ前へと突き進む。
「ちょ千則ちゃんストップ!!!縁ちゃんが死ぬ!!戦闘漫画の敵キャラ引きずるシーンみたいになってるって!!」
「へ?」
明の声に千則が静止し振り返る。縁が腹臥位状態で地面に顔を埋めていた。
「ゆ、ゆ、ゆかりいいいいいいん!!!!!誰が…一体誰がこんな非道な事を……!!」
「「お前だよ」」
「よいしょっと…ふぅ…やっと着いたあぁぁ……」
千則が背負っていた縁を下ろし、安堵する。
「流石に疲れたな…階段も地味に長かったし…休憩終わって登り初めてから15分くらいか?」
悠介が空を見て、汗を拭う。山道は途中で途切れて目的地とは別方向へ伸びていた。その為、文字通り山の中を歩くしか無かった。建物の外壁に寄っかかっていた縁はふぅ、と息を吐き、半ギレ半笑いで千則に向かって呟いた。
「千則帰りもよろしくね」
「えぇえええ!!!ごめんってば!!!もう足パンパンだから許してえええ!」
結局、縁を引きずった千則は、縁の顔や体に付いた土や雑草を取り払った後、悠介と明に責任を問われ、背負って廃墟まで向かう事となった。
そして全員が薄暗い廃墟に到達したと思えたが…。
「……ょ…ちょ…貴様ら…ぜぇ…ぜぇ…我を置いてく…ぜぇ……なんて…ぜぇ…いい度胸……ぜぇ…」
木の枝を松葉杖のようにし、四肢を震わせながら明が階段から顔を出した。
「あ、明先輩だ」
悠介がその情景にフォローを入れる。
「……ぜぇ…ぜぇ……はあぁぁぁ……疲れたぁ……」
「お疲れ様です!着きましたよ!」
「こ…ここが…?」
千則に促され、明が顔を上げると、とてつもなく大きな廃墟……屋敷が建っていた。
「そうです!ここが幽霊が出ると噂の廃墟!角楼屋敷!」
千則が明の目前で大きく手を広げ自慢げに言った。と同時に。
──────カーーン……。
「「「…!!?」」」
角楼屋敷の屋根部分から僅かに顔を出していた人間1人を覆えそうな程の大きな鐘の音が山全体に響き渡った。
「鐘……?」
「え、廃墟…だよね……?」
「あぁ…そのはずだ」
悠介と千則は顔を見合せて不安を共有する。
途端。明の金切り声が山に響いた。
「千則ちゃん!!悠介くん!!た、助けて!!
縁ちゃんが……!!!」
「「…!?」」
縁は笑みを浮かべながら燃え尽きたように真っ白になっていた。
「さっきの鐘のショックで気絶してる!!」
「ゆかりいいいいい!!」
「ゆかりぃぃぃぃん!!!」
角楼屋敷の外装はその大きさからホワイトハウスを連想させた。古びており錆色によく似た赤褐色で、朽ち果てていた。内装は言わずもがな。廃墟を具現化していた。
「うぅ…思った以上に暗い…」
「まあ流石に電気は通ってないみたいよな…」
真っ先に屋敷の扉を潜った千則は少し曇った表情で呟いた。勿論、廃墟の為、電気が通っているはずも無い。全員が扉をくぐり中に入ると、
扉が閉まる音と同時に真っ暗になった。また、扉が閉まる音に合わせるように悠介がリュックサックから懐中電灯を取り出してつけた。すると残りの3人がつられる様に自身のバックやリュックから各々違う模様、色の懐中電灯を取り出し同時につけた。
「よし。これだけ明るければ大丈夫だね」
「…先輩、やっぱ帰りません?不法侵入ですよ」
「その辺は大丈夫だよ、私が事前に申請しといたから。それにうちの学校はその辺は緩いしね」
「ならいいんですが…」
縁が少し不安げな表情で呟いた。それをフォローするかのように千則が声を上げる。
「ま!安心してよゆかりん!いくら怖くてもみんなでいれば怖くない!!それに扉だって開けてればいつでも…」
「べ、別にこんなの怖くなんかないわよ!!それに私は皆がど〜しても!ど〜しても!と言うから着いてきただけで…?どうしたの千則」
「……カナイ…」
「…?」
「扉が…開かなくなってる……」
「「「……」」」
「「ええええぇぇえぇええええ!!!!!」」
「いやああああああああああああああ」
明と悠介が驚愕の声、縁が悲鳴をあげた途端。
────キィ……。
「あ、開いた」
「「「……ん?」」」
「あ!何か引っかかってたみたい!なんだろうこれ…”アーダルベルトの鍵”?これで先に進め……」
「千則ちゃん逃げて!!」
「へ?」
明の唐突な言葉に慌てた千則が振り返り皆がいる方へ懐中電灯を向ける。
そこには。なんかすっごく殺意に満ち溢れている目をした縁が懐中電灯をこちらに向けていた。
「殺す気かああああああああぁぁぁ!!!!」
懐中電灯を振り回し荒ぶる縁。そこに悠介が仲介役としてストップをかけようとしたが…。
「縁待っ……あっ。」
縁が悠介の懐中電灯を奪い二刀流で千則を追いかけ回し始めた。
「あちゃー…こりゃ止められないねぇ……」
「こんな場所で元気で良いのか悪いのか……」
「ちょ、ちょっと助けてよ2人とも!!」
縁が千則に覆いかぶさり鬼の形相でライトの光を両目にダイレクトアタックしている。それをガン無視する2人。その瞬間。
──────キィ…パタン。
「「……ん?」」
先程千則が開けた扉が再び閉まっていた。悠介と明が同時に反応して明が先に事態を把握する為扉の取っ手に手を伸ばした。
「まあ逆風とかでしょ!また開けて紐かなんかで固定すれば閉まらな…く……」
扉の取っ手を回す。
──────ガチャ…ガン。
「「「……ガチャ?」」」
ガチャガチャ。ガチャガチャガチャガチャ。引いてみる。ガン!ガンガンガンガンガン。押してみる。扉は微動だにしない。
「……?明先輩…扉開けないんですか?」
「…開かない…ですね……」
「「「ん?」」」
「扉……開きません…。」
「ま、またまた〜先輩冗談は辞めてよー!またそうやって私たちを脅かそうとし…て……」
ガチャ。ガチャガチャガチャガチャ。ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!千則が嘘…と呟きながら扉を無理やり開けようとする。無論。扉が開く事はなかった。
「………開かない…」
「…嘘……嘘だよな…」
「……」
「まじかよ…本当に閉じ込められたのか……?」
千則が状況を理解する事が出来ず、再び確認をしようと扉の取っ手に再び手を伸ばしたその瞬間。背後から絶叫にも似た金切り声が聞こえた。
千則、悠介、明が同時に背後の縁にライトを当てる。暗闇の中で、何かを指差す縁がライトで照らされていた。
「…!?どうしたの縁ちゃ……」
明が心配の声をかけようとして……刹那。その場にいた全員が縁の指差す方向にライトを向けた。そこには。
暗闇とフードで身を包み屋敷の中央階段の上から明達を見下ろしている、正体不明の黒い人影だった。