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藤堂と恋人になってから、伊織の世界は一変した。伊織自身は相変わらず控えめだったが、隣に藤堂がいることで、彼自身が以前よりも自信を持ち始めているように見えた。以前は隠れていた彼の穏やかで優しい雰囲気が、周囲にも伝わり始めたのかもしれない。そして、その変化は、意外な形で現れた。
ある日の昼休み、伊織が一人で図書室の本を棚に戻していると、同じクラスの地味な女子生徒、佐藤が遠慮がちに近づいてきた。
「あの……伊織くん」
「あ、佐藤さん。どうしたの?」
伊織は驚いた。佐藤とはほとんど話したことがない。
「あのね、伊織くんが読んでたこの本(伊織が藤堂と話していたファンタジー小説)……貸してもらえるかな? 最近、なんか伊織くん、楽しそうに話してるから、気になっちゃって……」
「あ、うん。もちろん。面白いから、ぜひ読んでみて」
伊織が笑顔で本を手渡すと、佐藤は顔を赤くして「ありがとう」とお礼を言った。
その様子を、図書室の入口付近で目撃していた人物がいた。藤堂蓮だ。彼は昼休みになると、すぐに伊織の様子を見に来るのが日課になっていた。
藤堂は、二人のやり取りを見ていただけで、すぐに伊織の元へ歩み寄った。その顔は、いつもの余裕のある笑顔ではなく、わずかに険しい表情をしていた。
「おい、伊織」
「藤堂くん! どうしたの? 今日は来ないのかと……」
「来たさ。来てよかった」
藤堂は佐藤を一瞥すると、伊織の肩を引き寄せ、耳元で囁いた。
「伊織、今の子、誰? あいつ、お前のこと見てた目が、ちょっと違ったぞ」
「え? 佐藤さんだよ。クラスの。俺が読んでる本を借りたいって」
「本を借りるだけ? あんなに顔赤くして?」
藤堂の声には、わずかに苛立ちが混じっていた。伊織は、藤堂の独占欲のようなものを感じ取り、戸惑った。
「そ、そんなことないよ。ただの本の貸し借りだよ」
「……伊織、お前、最近ちょっと変わったな」
藤堂は、伊織の細い腰に腕を回し、他の生徒に見せつけるかのように引き寄せた。
「なんか、今まで影に隠れてた魅力が、ちょっとずつ漏れ出てるぞ。俺だけの秘密だったのに」
伊織は、藤堂の突然の行動にドキドキしながらも、彼の視線が佐藤たちを牽制していることに気づいた。
「ちょ、藤堂くん、ここは図書室だよ。人が見てる」
「見てろよ。俺のだって、わからせてやらないと」
その日の放課後、二人はいつものように図書室の隅で並んで座っていた。藤堂は、伊織が以前貸した本に付箋を貼っているのを見て、ふと腕を伸ばし、伊織の頭を自分の肩に引き寄せた。
「藤堂くん?」
「ああ、悪い。ちょっと疲れた」
藤堂はそう言ったが、伊織は彼の声に隠された別の感情を感じ取った。
「なあ、伊織。お前さ、他の奴に優しくしすぎなんだよ」
「え、でも、佐藤さんだって困ってたから……」
「困ってても、本を貸すなんて行為は、脈ありだと思われても仕方ないだろ。お前のその優しさが、キラキラした光みたいに、変な虫を引き寄せるんだ」
「変な虫って……」
藤堂は伊織のメガネをそっと外し、自分の胸ポケットにしまった。視界がぼやけた伊織は、さらに藤堂に身を寄せる。
「いいか、伊織。お前は、俺のだろ?」
藤堂は、伊織の耳元で囁いた。その声は、甘く、そして支配的だった。
「俺だけの、誰にも触れさせない、可愛い伊織。お前のその優しい光は、俺だけを照らしていればいい」
藤堂の独占的な言葉に、伊織の胸は締め付けられるような喜びで満たされた。他の誰かに優しくすることよりも、藤堂に深く愛され、求められることの方が、今の伊織にとっては何よりも大切だった。
「うん……僕は、藤堂くんの」
伊織がそう答えると、藤堂は満足げに微笑み、伊織の唇にキスをした。
「よし。これでいい。お前の周りから、ちょっと邪魔なヤツは、全部俺が追い払ってやるから。お前は俺の隣で、ただ可愛いままでいてくれればいい」
その日以来、伊織が他の誰かと少しでも親しげに話していると、必ず藤堂が影から現れ、伊織の手を握ったり、肩を抱いたりして、「マーキング」をするようになった。伊織は少し恥ずかしいけれど、藤堂の強すぎる独占欲が、自分への深い愛情の証だと知っていたから、その甘い束縛を受け入れることに決めたのだった。