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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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――なんて美しいのだろう。

それは一瞬の出来事だった。

風が吹き、さらさらとした銀髪がなびき、空を見上げた瞳は、深い青。

空を映しているからか、瞳の青さが、なおさら濃く見えたのかもしれない。


「……シュ様、アレシュ様!」

「うん? ああ、悪い。今、『目』を飛ばしていた」

「また風の神の力を悪用してたんですか?」

「悪用? 違う。敵国の偵察だ」


風の神の加護を受ける俺は、風の神の化身である鷹の両眼を借りることができる。

上空から見えるものなら、なんでも覗けてしまうというわけだ。


「ヴァルトル、戻れ」


空から戻った鷹――ヴァルトルが大きな翼を広げ、鋭い爪を伸ばし、革の|手甲《てっこう》をつけた腕に止まる。

本来、風の神の化身に名はない。

名がないと不便だったため、名前を与えて呼んでいる。


「それで、なにか収穫はありましたか?」

「美少女がいた」

「やっぱり覗き見じゃないですかっ!」

「人聞きが悪い。情報収集していたところに、たまたま遭遇しただけだ」


俺を護衛する騎士のカミル。

その目は冷たかったが、パーティーの招待を受けたのは、敵国を偵察するためだ。

表向きは友好、裏では情報収集。

せっかく第二皇女の誕生パーティーに、招待されて、堂々と敵国へ入れるのだから、この機会を逃すわけがない。


「わかってますよ。ドルトルージェの王子にして、風の神の化身を従えし、尊き我が主君」


俺と風の神の化身ヴァルトルに、カミルは敬意を払い一礼する。


「さっき空から見た銀髪に青い瞳をした美少女は、誰なんだろうな」

「銀髪の美少女ですか? ロザリエ第二皇女ではないですね。金髪に青い瞳らしいですから……って、しっかり見てるじゃないですかっ!」


カミルは怒り、赤い髪をぴょんっと跳ねさせた。

そこまで怒らなくてもいいと思うんだが、ここは敵国であることも関係しているのかもしれない。

俺の周りにいる護衛たちもカミル同様、ピリピリしている。


「第一皇女か? だが、おかしいな。公式には病弱で部屋から一歩も出られない皇女だと、言われていたはずだが」


農園らしき……いや、あれは庭だ。

皇女が農作業などするわけがない。

だが、俺の目の錯覚でなければ、楽しそうに畑仕事をしていた気がする。


「帝国では、庭を畑にするのが流行しているのか? いや、それよりも第一皇女は、どこからどう見ても、健康そのものだったぞ?」

「どうなんでしょうかね。レグヴラーナ帝国に関して、我々は情報が少なすぎます。帝国は我が国を警戒していて、簡単に入国できないですからね」


レグヴラーナ帝国は野心を隠さない。

大陸で最も広い領土を有しているレグヴラーナ帝国。

だが、我が国ドルトルージェ王国にだけは、戦争を仕掛けても勝利したことがない。

よって、南方へ領土を広げるには、我が国が壁となり、邪魔なのである。

光の女神だけを信仰するレグヴラーナこそが、正義だとして。


「他にも神がいるってのに、心が狭い国だ。そもそも神の気配すら、気づけないくせによく……」

「アレシュ様。ここで帝国の悪口を言うのは、やめてくださいよ。こっちは数の上では、不利な状況なんですから」

「わかってる。今日は第二皇女の誕生祝いで、招待されたんだ。ケンカを売る気はない」

「仲良くしようという話ではないと思いますが……」

「だろうな」


こっちにも思惑があるように、向こうは向こうで思惑がある。

カミルの視線の先にいたのは、レグヴラーナ帝国の皇子ラドヴァンだった。

黒髪に青い目をし、本心を心の奥に隠す冷たい印象の男。

黒い服に深い青のマント、銀の装飾品をつけ、金と赤を主としたものを身に着けた皇帝陛下より、自分が目立たぬよう気を配っている。

ラドヴァンは俺と同じ年齢で、父親の補佐官を務める真面目な王子だ。

お互い他国の社交の場で、何度か会ったことがある。


「アレシュ様と正反対ですね」


招待客に丁寧な挨拶をするラドヴァンを見て、カミルがそんな感想を述べた。


「ドルトルージェ王国第一王子アレシュ殿下。ようこそ、レグヴラーナ帝国へ」


嘘くさい笑顔を浮かべ、ラドヴァンが近づいてくる。

俺も笑顔を見せるが、お互い腹の中では殴り合いの戦闘状態。


「殿下とは堅苦しい。同じ年齢だ。アレシュと呼んでもらって構わない」

「それは失礼。アレシュ#殿下__・__#」


ラドヴァンは俺と仲良くする気はなさそうだ。

空気が重くなったところで、明るい声が響いた。


「ラドヴァンお兄様!」


ふわふわした金髪に青い目、色白な少女――確か第二皇女ロザリエも体が弱いと言われていた。

光の女神の恩恵を受けなければ、死んでいたとかなんとか。


「ロザリエ。誕生日のパーティーを楽しむのはいいが、あまりはしゃぐと熱が出るぞ。それから、こちらがドルトルージェ王国のアレシュ殿下だ」

「まあ……。この方が?」


俺を見て、なにか挨拶するのかと思えば、なにも言わない。

俺から挨拶しろという無言の圧を感じる。

カミルが俺に代わり、挨拶をする。


「……レグヴラーナ帝国第二皇女殿下。十五歳になられたとか。今後の活躍が期待されますね」

「ええ。私の結婚相手になりたい人はたくさんいるの。アレシュ様もその中の一人に加えて差し上げるわ」

「は……? いや……」

「でも、ごめんなさい。私、ドルトルージェ王国には嫁げませんの。皇帝陛下であるお父様のお気に入りでしょう? 期待させてしまったかしら?」


――期待とはなんの期待だ?


そもそも、俺の結婚相手にしようなどと、少しも考えていない。

俺もカミルも話の通じなさそうな相手を前に、思わず、無言になってしまった。


「あら? 鳥を連れていらっしゃるの? ドルトルージェ王国では、動物をパーティーの場に連れ歩くのが普通ですの? そんな野蛮な国の方と結婚なんて、お父様がお許しにならないわ」


一方的に話し続ける第二皇女を眺めること数分。

カミルが俺の顔を見る。

俺もカミルに視線をやる。

俺たちの感想としては――


『なんだ? この皇女……』


――である。

しかも、やたら馴れ馴れしい。


「お話し中、失礼いたします。アレシュ様は純粋に、皇女殿下の誕生祝いのためだけに訪れました。アレシュ様に結婚などという意図は微塵もございません」


カミルが誤解されないよう訂正する。

気分を害したのか、ロザリエ皇女はムッとした顔をした。

俺の苦笑、隣のカミルの引きつった笑み、それらに気づく様子はない。

ロザリエ皇女はよほど自分に自信があるらしい。


「ロザリエ。他の者たちが、話したくて待っているぞ」


俺たちの微妙な空気を察したのは、ラドヴァンだ。

妹への態度に違和感を抱いた。


――次期皇帝のラドヴァンが気遣うほど、ロザリエ皇女の立場は強いのか?


皇帝陛下のお気に入りだと聞いてはいたが、不自然なまでに、ラドヴァンは従者のように付き添っている。


「アレシュ様。後から、ダンスを誘っていただけるかしら? 体が弱いから、少ししか踊れないけれど、アレシュ様は特別よ」


断られることをまったく考えていない。

こちらの返事も待たずに、笑いながらロザリエ皇女は去っていった。

ラドヴァンのほうは、ロザリエ皇女のそばにいて、招待客への非礼をフォローして回っている。


「なんというか、その……。強烈な皇女ですね」

「ああ。カミル、後は任せる」

「えっ!?」

「俺があの皇女とダンスを踊るところを見たいか?」

「いえ。それで、アレシュ様はなにをしに?」


カミルに笑い、声をひそめた。


「決まっている。敵国レグヴラーナの情報収集だ」


そのために、このパーティーの招待を受けた。

敵の本拠地に、堂々と入れる機会は少ない。

この機会に皇宮内を把握しておこうというわけだ。


「承知しました。お気を付けて」


人の良さそうな笑みを浮かべたカミルは、俺と背格好が似た男を呼び、俺の上着を渡す。

俺はレグヴラーナ帝国の兵士の服装に着替えた。

そして、ヴァルトルを夜空へ放つ。


――俺の |本番《パーティー》はこれからだ。

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