今日は久々に放課後何も無かったので、エマちゃんと夕飯の買い物をして帰って夕飯を一緒に作った。
イザナくんはお仕事で遅くなるそうで、真一郎くんは初代メンバーで飲み会らしい。万作さんも近所の寄り合いでゆうはんは要らないとのことなので、今日は3人分。
だったのだが、マイキーくんが帰り道でタケミっちくんを見つけたのでバイク乗ってくると出て行ってしまった…。
夕飯が一人分余ってしまった…。エマちゃんにドラケンくんに声掛けてみれば?と言ってみたら、エマちゃんのメールに「行く」と秒でに返信がきた。嬉しそうにそわそわしながら夕飯を作るエマちゃんが可愛いすぎて、見てるこっちも顔がニヤける。
これは…私はお邪魔にならないように、席を外した方がいいのかな?なんて考えていると、その気配を察したのか「一緒に食べるんだからね」とエマちゃんに先回りして阻止されてしまった…。
ドラケンくんが来て、仲良く3人で食卓を囲んだ。
ドラケンくんの食べっぷりと甲斐甲斐しくおかわりをよそうエマちゃんを見てるだけで、お腹いっぱいです♡
二人のやり取りを見ているだけで満足だし燃費の良い私の体はそんなに量を食べられないのだが、世話焼きの2人にしっかりと食べさせられた。お腹いっぱい…苦しい…。
ご飯を食べたらお邪魔虫は部屋に引っ込もうと思っていたのに、苦しくて動けないので居間で一緒にTVを見ながら食休み。
3人でお茶を飲みながら、TVなんて久々に見るなーとぼんやり眺めていた。
小さい子が一人でおつかいに行く定番の番組が流れていたので、ボーッと見ていると、ふと疑問が浮かんだ。
「ねぇ、イザナくんとかマイキーくんって…一人でおつかいできるの?」
「いや…マイキーはともかくイザナにぃはもう18だよ?」
「前に牛乳切れてイザナくんに買ってきてってお願いしたら……しばらくして、鶴蝶くんが牛乳持って玄関に立ってたんだよんね」
「「え?」」
「イザナくんに聞いたら鶴蝶は下僕だから…って。鶴蝶くんはちゃんと牛乳とレシートを渡してくれたから、諭吉渡してお釣りは取っといてって言って、翌月のイザナくんの給料から差し引いといたんだけど」
「あーそれイザナにぃが給与明細見ながら、牛乳代ってなんだ?って言ってたやつだwww」
「そういえばマイキーも、マヨネーズ買ってきてって頼んで、ちょうどお金おろし忘れてたからピッタリくらいだけ渡して買って来てもらったんだけど……お弁当用の小袋のマヨネーズ1個だけ買ってきたことあった」
「あー……あの時か、たい焼き買ってお金足りなくなって、これもマヨネーズだから大丈夫って言ってた時のやつか…」
「二人ともお遣い出来てないよね……勝手なイメージだけどイヌピーくんも出来なさそう」
「いや、イヌピーはバイク屋でお遣い頼んだりもしてるけど、ちゃんと言われたもの買ってくるぞ。ただ毎回………色々貰ってくるんだよな」
「貢がれ体質ってことか……一番貢いでる人を知ってるけど、その他にも色んなとこで貢がれてたんだ」
「あー、それわかってるからか真一郎くんも俺じゃなくわざわざイヌピーに行かせてるっぽいしな」
「真にぃ……」
「ねぇ……イザナくんとマイキーくんの初めてのお遣い…見てみたくない??」
3人の笑みと共に『佐野兄弟はじめてのおつかい』プロジェクトが立ち上がった瞬間だった。
▽
本人達には内密に諸々の準備が進められた。さすがにTV番組でやってる位のレベルだと簡単すぎるので、難易度をあげておく必要がある。
それぞれに関係者を企画に巻き込んでプロジェクトは驚くべき速度で進められた。
灰谷兄弟は面白そうと二つ返事で協力を申し出てくれて、仕事よりも進んで動いてくれた。
………でも、蘭ちゃんも一人で買い物できるの?
近所の商店街に協力をお願いしに行った時のことだった。
肉屋の前を通るとフワァ〜といい匂いがして、蘭ちゃんの脚が止まった。商店街なんて来たことがなかったようで、キョロキョロと周りを見回す蘭ちゃんに、肉屋で揚げたてのコロッケとかメンチカツが売られていることを告げると、「メンチカツ食いたい」とフラフラと一人で行ってしまった。竜胆くんはカロリーコントロール中なので我慢とのことで私とエマちゃんと一緒にその様子を見ていた。
カウンター越しに肉屋のおっちゃんと話している蘭ちゃんの姿が商店街に全く馴染んでなくて、それだけで面白い絵面だった。
しばらく様子を見ていると、肉屋のおっちゃんが首を横に振った。
おや?と注視すると、蘭ちゃんが支払いしようと差し出したのは手に持っていたのは黒いカードだった。蘭ちゃんも意味がわからないと首を傾げている。
……商店街のしがない肉屋で100円かそこらのメンチカツを買うのに、ブラックカードって…そりゃ使えないでしょ。
呆れている弟と私を置いて、隣にいたエマちゃんが小走りに蘭ちゃんの元に駆け寄ると、財布から小銭を取り出して肉屋のおっちゃんに手渡した。
常連のエマちゃんの登場におっちゃんは楽しそうに少し会話をして、程なくエマちゃんとメンチカツを手にもった蘭ちゃんが戻ってきた。
「俺、女の子に奢られんの初めてだわ…」
手元のメンチカツを見ながら呟いた蘭ちゃんに、「アツアツが美味しいので、遠慮なく」と笑みを浮かべて何事もなかったようにメンチカツを勧めるエマちゃんは男前だった。
普段なら女の子をエスコートする側なのに、女の子にスマートにご馳走になっている兄の姿に「さすが大将の妹だわ」と竜胆も呟いた。
後日お礼とエマちゃん宛に高級ブランド物が山のように届いたのは、わらしべ長者という別の話なので置いておこう…。
▽
〜〜はじめてのおつかい イザナくん(18)〜〜
イザナくんのおつかい決行当日、佐野家のキッチンでいつものように夕飯の準備をするエプロン姿のエマちゃん。その隣にはイザナくんが立っていた。
「ニィ、今日の夕飯は肉じゃがにしようと思うんだけど、お肉とじゃがいも買って来てくれる?」
「万次郎とか誰もいないのか?」
「マイキーもキリちゃんもまだ帰って来てないし、お願い!!」
仕掛け人のエマちゃんはやや強引に財布とエコバックを持して送り出す。
イザナくんは玄関を出ると、すぐに携帯を取り出してどこかに電話をかけ出した。
佐野家から商店街、スーパーまでの道中には何台ものカメラを設置し、それらの映像は佐野家の家の近くに停めたロケバスで確認できるように手配した。ちなみにロケバス待機組はキリコ、九井、鶴蝶。エマちゃんは自宅でモニターを見ている。
そして鶴蝶の携帯はブルブルと震え続けている。
何度コールしても応答する様子はなく、モニターの中のイザナくんがチッと舌打ちすると、鶴蝶の携帯は震えがとまった。
その後も仕掛け人達の携帯が順に鳴り出すが、誰も応答しない。
モニターには不機嫌全開の表情で携帯をポケットに仕舞うイザナくんがアップで映し出された。
「…キリコ、本当に電話出なくてよかったのか?」
「鶴蝶くん、電話出たらイザナくんの申し出断れる?」
「…無理だな。これはイザナの為…なんだよな…それなら…俺は後で何をされても……イザナの為に今は我慢する」
イザナくんが後で何かしないようにしっかりフォローしとかないとな…。
そう思いながら再びモニターに視線を戻すと、エコバックを手に引っ掛けたイザナくんが不貞腐れた様子でスーパーに向かっていた。
スーパーに到着すると、入り口でカゴを手にしてウロウロと歩き回って、肉売り場に無事到着する。
肉売り場を何度も往復するが、なかなか手に取ろうとしない。
そう、さすがに子供向けではないので少し難易度を上げているのである!!
エマちゃんからの指令は『肉じゃが用のお肉』というだけで、肉の種類や量はあえて伝えていないのだ。
「へ?肉って種類あんの?フィレとかサーロインとかってこと?」
現地で仕掛け人役をやってる蘭ちゃんがインカム越しに問いかけてくる。
フィレとかサーロインって…普段からいい肉しか食べてないんだろうな。買い物もきっと高級スーパー……いや、蘭ちゃんが料理するとか想像できないや。
「それは部位の話でそもそも牛肉か豚肉かとか。肉じゃがの肉って関東だと豚肉なんですが、関西とかは牛肉なんですよね」
「そうなの?豚だけだと思ってた。牛肉の肉じゃがとかあんだ。」
蘭ちゃんの質問に答えると、インカム越しに竜胆くんも割って入ってきた。こちらは料理する人の話し方だな。竜胆君は筋肉育成の為に色々拘ってるって言ってたしな。
「ちなみに佐野家は通常は豚肉です。イザにぃも何度も食べてるはずなんですけどね」
今度は家でモニターを確認しているエマちゃんが答えてくれた。
裏方であれこれ話している間に、イザナくんは肉売り場から移動してしまっていた。カゴはまだに空っぽなのにどこに向かうかと見守っていると、惣菜売り場で肉じゃがのパックを手に取った。
全員がそれは……と思ったのだが、イザナくんは何かを確認するとパックを戻して肉売り場に引き返した。
豚肉の前に立っていることから、きっと惣菜の原材料を確認したのだろう。
さすがイザナくん!!賢い!!
…でもまだ終わりではない。豚肉といっても部位や切り方など多数の種類から選ばなければいけない。
店員さんには協力を依頼済みなので、店員さんに聞けばちゃんと佐野家に必要な量を渡してもらえる手はずになっている。プライドエベレストのイザナくんが店員さんに聞けるのか?ちなみに高圧的な態度で接して来た時は、答えなくて良いと伝えている。もちろんその後は全力で逃げるようにとも…。
商品の補充を装いながら店員がイザナくんに近付くが、中々声を掛けない。不自然な位にずっと近くで作業し続けているのに……と見ているこちらがイライラし始めた、その時。
「おい」
「あっ、何かお探しですか?」
「肉じゃがの肉とじゃがいもだ。すぐに持ってこい」
すでに声が震えている店員にカゴを押し付けるように渡した。
店員はカゴをその場に残したまま、「す、す、すいません!!!」と走ってバッグヤードに逃げ去ってしまった。
「………イザナくん」
イザナくんの対応にロケバスの中からため息が漏れ出た。店員は無事逃げられたので、それは良かったんだけど……。
あんな対応をとられたら、イザナ君は……。
スーパー内に待機している灰谷兄弟に緊急事態の可能性を告げる。
知育菓子に夢中になっていた灰谷兄弟は、キリコからの報告を聞いて急いで肉売り場に向かう。
「竜胆、現着!!」
「蘭ちゃんも到着♪」
「イザナくんはどんな様子?暴れ出しそうなら、何とか止めてね。死ななければ私が治してあげるから、他のお客さんとかに迷惑だけはかけないようにしてね」
「キリコ、俺らの扱い酷くね〜二人がかりでも大将止めるのとか………って、大将暴れてねぇけど?」
「「「え???」」」
「んー……眉間に皺寄せて肉選んでる」
イザナくんが…キレずに買い物を続けてる!?
感動でお母さん泣いちゃう…!!なんて思ってたら、横で鶴蝶くんが号泣してた。
「イザナァァァ……大人になったんだなぁぁ………」
鶴蝶くんにティッシュを箱で差し出していると、イザナくんの方に動きがあったようだ。
インカム越しに灰谷兄弟からの報告が入る。
「「た、大将がナンパしてる……」」
急いでモニターを切り替えると、肉売り場に来たお客さんに話しかけるイザナくんの姿があった。
音声までは聞こえないが、恰幅の良いおばちゃんに何かを伝えている。おばちゃんは棚から肉のパックを選ぶとイザナ君のカゴに入れた。
それだけで終わらずにさっき逃げ去った店員を呼び出して、何やら交渉すると店員はビビり散らかしながらカゴの中のパックにシールを貼り付けた。
「大将がおばちゃんに肉じゃがの肉はどれがいいか聞いてた…」
「おばちゃんが店員に圧掛けて割引シール貼らせてた…」
インカムから聞こえる灰谷兄弟の報告で状況は理解できるのだが……そのおばちゃんは仕掛け人ではない。事情もしらないおばちゃんに声をかけるイザナくん………うん、私の知ってるイザナくんじゃない。知らない子かもしれない。いや、違う。今、この瞬間にイザナくんは成長しているってことだ!!
鶴蝶くんは涙だけでなく、鼻水も溢れさせるほど感動していた。箱ティッシュを使い切って、ココくんが新しい箱を差し出している。
おばちゃんにじゃがいもも選んでもらって、レジでポイントまでしっかり付けるように言われて、イザナくんのはじめてのおつかいは無事終了となった。
帰宅したイザナくんは号泣する鶴蝶くんに抱きつかれて、困惑していたのでネタバラシをした。
さすがに怒り出すかもと思ったが、鶴蝶くんもエマちゃんも灰谷兄弟も嬉しそうな笑顔を向けてくるので怒りよりも照れくささの方が勝ってしまったようで………顔を隠しながら自室に引っ込んでしまった。
ちらっと見えた照れ顔はめちゃくちゃ可愛いかった。
エマちゃんが腕によりをかけた肉じゃがはとても美味しかったし、灰谷兄弟と鶴蝶くんも是非食べたいとのことで皆で食卓を囲んだ。
さて、イザナくんの成長が見れたが…マイキーくんはどうだろうか。
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手塚桐子(てづか きりこ)
佐野家に居候することになって、イザナとマイキーの生活力の無さに気付いた。
撮影したデータは編集して、万作さんに提供した。
ちなみにカメラやロケバスなどの出資は全てキリコのポケットマネー。
「いくらかかったかって?…イザナ君の成長はプライスレスだから!!」
イザナ
今回のターゲット。最初は面倒くさいので下僕に行かせようと思ったのに、誰も電話に出なかったので仕方なくスーパーに行った。
店員にもブチ切れそうだったが、自分が買い物しないとエマやキリコの夕食が無くなると思い、我慢して買い物を続けた。
おばちゃんに声をかけたのはベテランの気配を感じ取ったから。今後も進んでおつかいに行ってくれるようになったとか。
エマ
佐野家の家事を担うしっかり者の長女。
イザナが買ってきた肉とじゃがいもはいつも以上に丁寧に料理したし、いつもよりも美味しかった。
万作爺ちゃん&真一郎
後日キリコが編集したデータを見て、イザナの成長に感動して泣く。
真一郎は隠し事が出来無さそうなので、協力者メンバーからは除外されたと聞いてまた泣いた。
マイキー
次のターゲット。
こないだ前回の話の最後に❤️を書いてないことに気付きました。
遅くなってごめんなさい
next❤️1013
コメント
2件
遅くなってしまってすみません!!! 今回も面白かったです!!! イザナ成長したんだね… 次も楽しみにしています!!!