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_______チーペペ(8才)・9月
「さぁ、皆で頑張って作りましょう!」
担任の先生の一言で、調理実習室は一気に騒がしくなる。
僕もその騒がしさの1ピースだ。
「はい!僕、材料取りに行ってくる!」
真っ先に手を挙げて、1番面白そうと思った役に名乗り出る。
今日の調理実習で作るものは『ショートケーキ』と『野菜スープ』。
どんな組み合わせだよ!って大人なら思うかもしれないけど、小学四年生の僕らには「美味しいものが食べられる」って考えしか頭にはなかった。
「じゃあ俺は座ってる」
「ずっる!そんなのずるじゃん!」
クラスの中ではあまり目立たない優(まさる)は、何故か僕の前では偉そうな態度ばかり取る。
別にそれが嫌ってわけじゃないし、そんな優にツッコミを入れるのがいつもの流れだった。
「ずるじゃないし〜」
「優はいっつもずるばっかじゃん!」
「ずるって言った方がずるなんだって!」
「それ、バカのやつだから違うし!」
「もー!遊んでないでちゃんとやってよー」
授業には全然関係無い話をし始めた僕と優に痺れを切らして、女子の中で1番背の低いマチ子(まちこ)はムッとした顔で注意する。
授業の話に戻そうとするマチ子に乗っかって、大人しい性格の莉奈(りな)が手を挙げた。
「あ、私、カップとか取りに行くよ!」
「じゃあ、莉奈は食器係ね!」
「良いの選んでくるね。行ってきます!」
「頼んだ〜」
「僕も材料取ってくる」
「早くしないと大きいの取られちゃうよ!」
「分かってるって!」
食器を取りに行った莉奈を見送って、僕も椅子から立ち上がった。
材料に大きな差は無いかもしれないけど、やっぱり大きければその分沢山食べられる。
幸いどの班もまだ役決めの最中らしく、材料選びに来たのは僕が一番乗りだった。
_______
「美味しい!」
「どう見てもうちの班が1番上手に出来てる!」
「他の班の味見してこようかなぁ」
調理実習は無事に大成功。
野菜スープの味は凄く丁度良いし、ケーキも凄く美味しく出来た。
ま、ケーキはスポンジに生クリームと苺を盛り付けるだけだったんだけどね。
莉奈とマチ子は女子二人でお喋りしながらケーキを食べていて、優はフラフラと空いたお皿を持って他の班へおこぼれを貰いに歩いて行った。
「お皿持って行こ〜」
空になった食器を流しに持って行こうと、椅子から立ち上がりながら呟く。
莉奈とマチ子に伝えようと呟いたんだけど、二人はお喋りに夢中で全然聞いていない様子だった。
ちょっと寂しい気もしたけど「まぁいいや」と食器を手に取る。
「おい、チーズ」
「んー?」
背後から聞こえた僕を呼ぶ声に、曖昧な返事をしながら振り返る。
そこにはクラスで1位、2位を争うイケメン真弥斗(まやと)が居た。
「何?どーしたの?」
「お前さ、甘いもん好きだったよな」
僕より少し背の高い真弥斗は、ダルそうに楽な姿勢で立っていた。
その手にはケーキの乗ったお皿があり「食べながら歩いて行儀悪いな…」と少し呆れる。
真弥斗とは名簿順の席が前後だから、テストとかになるといっつも二人で喋っては先生に怒られている。
そんな何気無い会話の中で、僕が甘い物好きだって話をしたような…してないような。
「うん。好きだよ?」
「ならコレやるよ」
「え?」
少しぶっきらぼうに差し出されたのはケーキの乗ったお皿。
なるほど、食べ歩いてたんじゃなくて僕に渡す為に持っていたのか。
いや、それにしたって…
「…食べかけじゃん」
「甘すぎていらないからやる」
食べかけのケーキを「やる」なんて偉そうに渡す真弥斗。
普通なら「何コイツ…」と腹を立てるかもしれない。
けど、僕は真弥斗のことが好きだった。
「な、何それー!何で僕のとこ持ってくるんだよー!」
「別に、チーズなら食べるって思っただけだし。皿、食べたら片付けよろしく」
「う、うん…ありがと」
それだけ言うと、真弥斗はすぐに自分の班に戻ってしまった。
僕の心臓はドキドキとうるさいくらいに鳴っている。
ま、真弥斗がケーキくれた!
同じ班の子だっているのに、わざわざ離れてる僕の所まで持ってきてくれた!
僕が甘い物好きだって覚えててくれたからかな?
それとも僕のこと、少し特別だと思ってくれてるのかな?
そ、そんな事より!
これって…これって、真弥斗と関節キスじゃない!?
頭の中は大パニック。
それを皆にバレない様に、僕は淡々と真弥斗から貰ったケーキを食べた。
味はさっきのケーキと全く変わらない。
なのに、真弥斗から貰ったケーキの方が凄く、凄く美味しかった。
【美味しいケーキ】
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