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メアリーはニコニコだし、シロはフリフリだし。（ボス部屋の前です）
さあ、どうすんのよ俺？
「…………」
否！ 流されてはいか～ん。
――その前にメシだ。
俺たちは昼食をとることにした。
今日はたまたま市場でコッペパンを見つけたので、そのコッペパンにナイフで切れ目を入れ串焼き肉と葉野菜を一緒にはさんで食べてみることにした。
もちろんシロも同じものを作ってあげている。仲間外れはいけない。
俺とメアリーは手に持って、シロはいつものようにフライパンに入れて食べている。
なかなか美味しい。美味しいのだが……。
やっぱり、塩だけではちょっとさびしいかな。
（ケチャップかマヨネーズが欲しくなるよなぁ）
だけどトマトは見たことないし、お酢なんか作ってないだろう。
いや、ビネガーがあればワンチャンあるのか。
ただ、そのビネガーで作ったマヨネーズが旨いかどうか？
カボスみたいな酸っぱいみかんの方がいけるんじゃね？
「…………！」
あっ、いかんいかん。
今はそんなことを考えている場合ではなかった。
ボスへの挑戦をどうやって諦めさせるかだよな。
う～ん、お昼寝中にこっそり家に帰るのも、ひとつの手なんだけど……。
しばらく口をきいてくれなくなるかもな～。
おおっ寝たか。
今日もはりきってモンスターを倒してたからなぁ。
どれ、――鑑定！
メアリー・クルーガー Lv.10
年齢 6
状態 通常
ＨＰ 39⁄40
ＭＰ 51⁄33 （+20）
筋力 24
防御 17
魔防 21
敏捷 32 （+5）
器用 19
知力 22
【スキル】 魔法適性（光・風・水・聖） 魔力操作（4） 槍術（1）
【魔法】 光魔法（2） 水魔法（3） 聖魔法（1） 風魔法（3） 身体強化（1）
【称号】 大公の庶子、シロの妹、ゲンの家族、兎の天敵、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
槍が良く振れてると思ったらスキルが生えていたか。
カニサイ先生の稽古でもがんばっていたからな。
う～ん伸びてる。伸びてるけどまだ届いてないよなぁ。
あらためてボス戦を考えていく。
魔法も有効だけど今回は数が多いからね。メアリーのMPだと広域魔法で2発というところか。
――やっぱり厳しい。
ゴブリンライダーまでは何とかいけるだろうが、そのあとにゴブリンキングが控えているしな。
体力が尽きちゃうだろう。
そのように考え込んでいると、いつの間にかシロが目の前にお座りしていた。
「ん…………」
俺はシロの頭を撫でながら、
「シロはどう思う。やっぱメアリーには無理だよなぁ」
『いける、あそぶ、まもる、ふよ、けっかい、うれしい』
「…………！？」
おおっ、なるほど付与か！ その手があったか。
防御結界を付与してやるんだな。
それならあるいは……。
う～ん、しかしなぁ。
『いけるよ！』とでも言うかのように、シロはなんども頷いている。
そうか……、じゃあやらせてみるか。
ダメなら次があるわけだしな。よ～し！
俺が決意を固めていると、ちょうどメアリーが起きてきた。
目をこすりながらよたよたと近寄ってきて、ポスンと俺の膝の上にすわる。
――かわいい。
こうして頭を撫でているとさっきの決意もゆるんでしまうよなぁ。
俺たちはボス戦に向けて最終的なブリーフィングに入った。
まずは『勝つ』イメージからだ。
その上でどのように展開させていくか。
ゴブリンライダーをいかにまとめて倒すのか。
………………
大まかな戦略は練れたはずだ。
思い通りにいくとは限らないが、これも経験だ。力尽きるまでやってみればいい。
シロに結界魔法を付与してもらったメアリー。
俺たちに手を振ると巨大な鉄扉の前にちょこんと立った。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ！
扉が奥へ開いていき、いよいよ戦闘開始である。
ボス部屋に入ったメアリーはひとりでトコトコ中を進んでいく。
ゴブリンライダー共は半円状の突撃体制のまま動かない。
（今回も完全なる舐めプである）
相手が動かないのならエアハンマーより殺傷力の高いカッター系での殲滅がいいだろう。
敵との相対距離が15ｍ程に迫った時。
メアリーは『ガオーの手ポーズ』をとり目の前にいるゴブリンライダーに向けた。
「デビルカッター！」 （おぃ！
次の瞬間、小さい手から繰り出される三日月型の刃 (やいば) がゴブリンとブラックウルフを切り裂いていく。
（おおっ、さすがは正義のヒーローの必殺技。イメージがしっかりしてる分、威力が半端ないな）
中心付近にいた5対のゴブリンライダーはその場で崩れおちた。
そのサイドにいた2対も手傷を負ったのか動きが鈍い。
「グギャ――――――ッ！」
奥にいたゴブリンキングが奇声を発すると、あわてたように動きだす3騎のゴブリンライダー。
てんでバラバラに突っ込んでくる。
それを見ていたメアリーは短槍を両手で持ち僅かに腰をおとす。
瞬時に動ける態勢をとって待ち受けているのだ。
（ホントに6歳？ 疑いたくなるほど落ち着いてるよなぁ）
まず左側から1騎のゴブリンライダーが向かってくる。
これに対してメアリーは素早い動きで正面に立つと、すれ違いざまブラックウルフの前足を掬うように薙いだ。
前足を失ったブラックウルフはつんのめるように崩れ、上に乗っていたゴブリンは大きく前方に投げ出された。
グシャっと地面に叩きつけられたゴブリン。
これはかなりのダメージだろう。
魔石に変わっていないので生きてはいるんだろうが、立ち上がる気配はない。
そして残った2騎のゴブリンライダーも瞬く間に倒されていった。
傷を負って戦線を離れているモンスターもいるが、奴らはもはや脅威ではない。
すると、いよいよゴブリンキングとの闘いとなる。
ゴブリンキングの方はというと……、(またしても) 十字槍を頭上でまわしている。
（この光景、何度も見ていると飽きてくるよなぁ）
さて、この2ｍはあるゴブリンキングにメアリーはどう挑んでいくのかな。
もう1回、大きい魔法を放てるぐらいにはMPを残しているはず。
だけど魔法は撃たないようだ。
メアリーはゴブリンキングの正面に立つと、槍を半身正眼に構える。
身体からは気勢があがる。身体強化だ。
これを目にしたヤツも槍をまわすのは止め、しっかりと構えてきた。
それと同時にメアリーは左手一本でヤツの鳩尾を抉りにいくが辛うじて弾かれる。
（速い！ なんて動きをするんだ。これでは瞬きすら出来ないぞ！）
メアリーが放った短槍の穂がヤツの左肩に突き刺さる。
この電光石火ともいえる素早い攻撃にヤツは怯んでしまった。
するとメアリーはこの隙を逃さず次々に槍を打ち込んでいく。
狙いはもっぱらヤツの膝だ。
ゴブリンキングも防戦しているのだが槍の速さと正確さが違う。
それに一発大きいのは狙わず、ヤツが放つ槍を右へ左へと躱しながら小刻みに削っていくのだ。
これでは、もう為す術がないだろう。ヤツの両膝はすでに血塗れだ。
やがて崩れ落ちるように両膝を突いたゴブリンキング。
――勝負は決した。
大振りになった槍を軽く躱し、
膝立ちになったお陰で狙いやすくなった喉元をメアリーは丁寧に刺し貫いた。
しばらく藻掻いていたヤツも、やがて動かなくなり前のめりに沈んでいく。
――ボンッ！
そして大きな音とともに魔石へと変わった。
あとは油断なく残りのモンスターを掃討して、
ここにメアリーは10階層のボス戦において単独制覇を果たした。
出口の扉が静かに開いていく。
俺は感動のあまり動けないでいた。
いつもの調子でまわりの魔石を集め終えたメアリーが俺の元に戻ってくる。
涙を流しながら佇んでいる俺をみて、心配そうに手をつないでくれた。
「どうしたの～？」
「ごめんなぁ～。かっこいいメアリーを見ていたら嬉しくなって泣いちゃったよぉ」
首を傾げてくるメアリーに俺は正直な気持ちを伝えた。
するとメアリーはニッコリ笑って、
「ゲンパパ行こっ！ シロ兄が待ってるよ」
小さな手でグイグイ俺を引っ張っていく。
ああ――――っ、これほど『ビデオカメラ』が欲しいと思ったことはない。
そっと心に刻んでおくか……。
メアリーを抱えて転移台座の玉 (ぎょく) に触れさせた。
これでみんな10階層を突破だ。
この先俺たちは一緒に攻略していける。
こんなに嬉しい事はない……。
昼過ぎてからはボス戦だけだったので時間は十分にある。
そこで俺たちはダンジョンリビングに行ってみることにした。
（サラ。ダンジョンリビングへやってくれ）
［はいマスター。了解しました］
次の瞬間、俺たちは何もない草原の真ん中に立っていた。
（おおいサラ。なんで草原なんだよ？）
［はい。これはマスターがまだ何も設定されていないためです］
（なるほど設定か……。で、どーすればいいんだ）
［はい、マスターが想像されたものを出来る限り再現いたします］
想像するだけで近いものを作ってくれるのだろうか？
（それじゃあ、こんなのはどうだ。 太陽はこう・海はこう・白い砂浜・夫婦岩・そして海の家だぁ）
（それにそうそう、海の家には調理があって、鉄板焼きグリル・ビールサーバーは無理だろうからエールの樽を置いて盥には氷だ。かき氷機・手漕ぎボート・浮き輪・ビーチボール。そしてシャワー室があって、隣はジャグジーバスなら最高！）
（そんなところだが出来るのか？）
［はい、お任せください。………………いかがでしょうか］
おお――――っ。なんかそれらしく出来てるよなぁ。
細部はおいおい詰めていくとしよう。風呂の温度とかもあるしな。
ああ、でも思ったよりゆったりできそうな空間になったかな。
しかし、なんだよココ。
海の家やジャグジーバスはともかく、ここの周りの自然はどう見てもホンモノだよな。
そして海はしっかり海水だった。
この世界にも海はあるようで、それを参考にしているらしい。
ジャグジーは普通のお湯だったな。
できたら温泉がいいので、今度ダンジョンの近くを掘ってもらうとするか。
シロとメアリーは楽しそうに砂浜を駆けまわっている。
海に入ろうとメアリーが全裸 (はだか) になっていたので、
これだけは着ておけと、貫頭衣を頭からかぶせた。
慎みは大事だぞぉ。
しかしまあ、砂浜を走る犬と少女って絵になっていいよね。
さ――て、おやつにクレープと冷たいアイスティーでも作りますかね。
俺を泣かせるほど頑張ってくれたメアリーのために。
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