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ただ見つめ合うだけの時間がどのくらい経っただろう。
ふっとお兄ちゃんが視線をそらして体を離した。
「今日は色々あって疲れただろ?俺が夕飯作るから、楓は先にお風呂に入っておいでよ」
「え……あ、うん、わかった。ありがとう」
私の返事を聞くと、お兄ちゃんは視線を合わせることなく立ち上がり、台所へと歩いて行った。
ぽちゃん
水音がお風呂場に響く。お兄ちゃんに言われた通り、私は先にお風呂に入っていた。
あんなに熱い眼差しを向けてきたのに、視線をそらしてからは何事もなかったかのように台所へ行ってしまった。
あの煮えたぎるような纏わりつくような、どうしようもないほどの熱い視線は一体何だったの?聞きたいのに、見当違いな返事だったらと思うと怖くて聞けない。
それに、もしも思っていた通りの返事だったとしたら……。
考えただけで頭が沸騰してしまいそう。私はどうしようもなくなって湯船にぶくぶくと沈んでいった。
その後も、お兄ちゃんはいつもと変わらなかった。一緒に夕飯を食べて一緒に片付けをして、私がテレビを見ている間にお兄ちゃんがお風呂に入って、あがってきたらお茶を飲みながら他愛もない話をする。いつもと変わらない風景。
そうして寝る時間になり、お互いに自分の部屋まで歩き出した。私は自分の部屋の前で立ち止まると、振り返って、お兄ちゃんを見る。
「……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
いつもと何も変わらない。私はお兄ちゃんのおやすみを聞いて、自分の部屋へ入ろうとした。
その時、後ろからドアノブを握る手を掴まれた。背中にお兄ちゃんの温もりを感じる……!どうしよう、一気に顔が熱くなったから、きっと顔が赤くなってしまっている。
「お兄ちゃん……?」
振り返りたいのにドキドキしすぎて振り返れない。なんとか振り絞って声を出すと、私の声にハッとしてお兄ちゃんの手が離れる。
「ごめん……!」
お兄ちゃんの体が離れて、背中が急に涼しくなった。なんだか寂しくて振り返りお兄ちゃんを見上げる。お兄ちゃんは本人もよくわかっていないような、でも何かをこらえるような複雑な表情をしている。
「どうしたの?」
心配になってそう聞くと、お兄ちゃんは一瞬目を大きく開いて、すぐに弱々しく微笑んで首を振る。それから、お兄ちゃんの手が私の頬に優しく触れる。
お兄ちゃんの瞳は、また煮えたぎるような熱い瞳だった。でも、その瞳の奥の炎は何かに耐えるようにゆらゆらと揺れている。
お兄ちゃんの顔が近づいてきて、私の額にちゅっと小さくキスをした。
「おやすみ。良い夢を」
そう言ってお兄ちゃんは自分の部屋へ入っていく。私も、自分の部屋へ入ったけれど、ドアを閉めるとその場にうずくまった。
一体、お兄ちゃんは何を考えているんだろう!?
急に後ろから手を掴んだと思ったら、まるでなんでそんなことしてしまったのだろうという顔をするし、でも見つめ合った時のような熱い瞳でまた見てくるし。
それなのに、今度は額へのキスだった。
お兄ちゃんの一挙一動に心臓が振り回される。今日はもう、ドキドキして寝られないかもしれない。