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幸い、松田にはまだ私の病気のことは知られていないようだった。
松田には悪いが、仕事はもう辞めるつもりだ。
理由は病気だなんて言いたくない。最後まで惨めに思われるのは御免だから、適当な口実を作って辞めよう。
どうせ上司も同僚も、私が辞めたところで気にも留めないだろう。むしろ、内心では喜ぶかもしれない。
ただ——松田のことが気がかりだった。
あんなクソみたいな会社に、松田を置き去りにして自分だけ逃げるなんて、マネージャーとしても人間としても最低だ。
最低限、私が松田にしてあげられることは、この会社から解放してやること。
まずは、松田がまだ芸能活動を続けたいと思っているかを確認し、その答え次第で動こう。
クソみたいな会社でも、そこに所属する芸能人に罪はないのだから。
松田の件が片付いたら、ようやく私の短い人生が始まる。
旅行でもしてみようか……と思ったが、旅先で倒れて野垂れ死ぬのは、迷惑をかけるだけだ。
どうせなら、できるだけ人に迷惑をかけずに死にたい。
おそらく、一番迷惑をかけないのは病院で死ぬことだろう。
家族もいない私には、家で世話してくれる人も、最期を看取ってくれる人もいない。
孤独死をすれば、発見が遅れ、悲惨な結末になるのは目に見えている。
だから、病院で死ぬのが一番妥当なのだ。
趣味も生きがいもなく、薄給ながらも貯金だけは溜まっていた。
皮肉なことに、その金が役立つのは、今になってからだ。乾いた笑いがこぼれる。