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#STARGLOW
佐野いちご
313
(🐿視点)
律儀にセットされたアラームが、
朝の始まりを告げてくる。
スマホに手を伸ばして、そのけたたましい音を止めると、画面に表示された日付を確認して、一人で小さく、落胆するように溜息をついた。
……あんなに待ち遠しかった記念日は、
何があるでもなく、ただ静かに通り過ぎて。
また、今日から、
詰まりに詰まったスケジュールをこなす、
いつもの日々が始まっていく。
記念日が終わったら、
……たっくんの事を、諦める。
そう、決めていた心が揺らぐ前に、
現場へ向かうタクシーの中で、
そっとスマホを取り出した。
そこに表示された、
‘記念日’と書かれたスケジュール。
……少しだけ、
それを見つめた後、
深く息を吐き出して、
消去ボタンを、タップした。
***
「おー、おはよーさん。」
「おはよ、カイリュウ、」
楽屋のドアを開けると、ちょうど出ようとしていたカイリュウとばったり出くわした。
にこ、と小さく口角を上げながらちらりと俺を見た後、部屋から出て行くカイリュウ。
“辛くなったら、…誰でもええから、ちゃんと俺たちに吐き出すんやで。”
そう言ってくれて以来、カイリュウは何を聞くでもなく、今までと変わらない態度で接してくれている。
その言葉を心に留めながら、楽屋へと入っていく。
「おはよ、リュウキ。」
「セイちゃんおはよ、」
「リュウキおはよ〜」
「おはよ、ナオくん」
メイクに向かうセイちゃん、ナオくんとすれ違いざまに挨拶を交わしながら、相変わらず距離の近い2人の背中を眺めて、少しだけ羨ましくなる。
足を進めて、奥のソファーに向かうと、そこにゲームをしているたっくんの姿を見つけて、少しだけ緊張が走った。
「…おはよ、リュウキ。」
「、おはよ…っ、たっくん。」
俺に気付いたたっくんが顔を上げて、できるだけいつも通りにと、おはようと返事をした。
「あ、リュウキもゲームする?」
「っ…あ〜、うん。」
返事ぎこちなかったかな、なんて少し気になりながらも、空いているたっくんの隣に目を落とす。
前なら、何も考えずにそこに座ってた。
……でも、もう、
その場所は、俺の為にあるものじゃない。
「…リュウキ、?」
「っ、…あ、ラン兄も呼ぼうや、ラン兄〜、」
たっくんの声に動揺して、目が泳いだ先にちょうどラン兄の姿を見つけ、巻き込むように声を掛けると、そのまま近付いてくる。
「ん、?」
「ラン兄、3人でゲームやろ。」
「おー、ええよ」
返事をしながら、たっくんの向かい側のソファーにラン兄が座ると、その流れでラン兄の隣に腰を下ろした。
ふと、たっくんからの視線を感じたような気がして、ちらりと顔を見るも、すでに視線はゲームに落とされていた。
俺がゲームを鞄から取り出していると、たっくんがラン兄に話しかける。
「ラン、前一緒にやってたゲーム、俺クリアしたよ」
「は?!まじで?どうやったんよ?!」
「ふふっ、教えたら面白くないじゃん。笑」
「うわ〜、悔しっ。…絶対クリアしよ。笑」
なんでもない会話、俺には関係のない話。
…なのに、2人の笑い声に、無性に胸が苦しくなる。
“前一緒にやってたゲーム”
……ラン兄との思い出は忘れてないのに、なんで、…なんて、たっくんの言葉に、そんな事を考えてしまう。
諦めるって、決めたのに。
…やっぱりまだ、心は追いつけないままで。
そんな気持ちを誤魔化しながら、必死にゲームに集中しようとする。
「まって、またたっくん勝ち?もー!」
「ランはいつになったら俺に勝てんの?笑」
「ラン兄まじで弱!」
「あーもう。俺ちょっとトイレ行ってくる、」
そう言ってラン兄が席を立った途端、たっくんと2人きりになったことに内心焦っていると、たっくんの声が前から小さく聞こえてきた。
「……リュウキ、」
「…ん、?」
「…なんか、今日大人しいね?」
「え…、」
顔を上げると、俺を見ていた様子のたっくんと目が合った。
じっと見つめてくるその目に、気持ちを見透かされそうで、また画面に目を落とした。
「…っ、朝やけん、テンション低いだけ。」
「いつも朝から元気じゃん。」
「…そうやっけ、」
「うん。…なんかあった、?」
「……っ、」
俺の事を、…ちゃんと、見てくれてる。
そんな発言に、胸がじわりと、熱くなって、
……今まで大好きだった、
たっくんの何気ない優しさに、苦しくなる。
「……俺にも言えない、?」
「っ、…え…?」
少し悲しそうな声色に、思わずたっくんを見ると、心配そうな顔で俺を見つめていた。
……”俺にも”。
その意味に、
…どうしたって、期待をしてしまって。
たっくんを見つめ返すと、…ふと、首元のネックレスに視線がいった。
俺とお揃いで買った、ネックレス。
それに気付いた瞬間に、つい声が漏れてしまう。
「…っ…、それ…、」
「え、?」
俺の視線に気付いたたっくんが、自分のネックレスを見ると、俺の首元に目をやった。
「…あれ…、リュウキも同じの持ってたっけ、」
「っ……、」
あぁ、……やっぱり忘れとるよね、
当たり前やん、…俺との記憶、ないんやけん。
……それでも、口が勝手に、
期待を捨てきれずに動いてしまう。
「…、あー、うん…っ、…たっくんが付けとるの見て、いいなー俺も買う!って言ったの覚えとらんっ、?」
わざと、そう、明るい口振りで嘘をついた。
本当は、思い出してほしくて。
違うよ、お揃いで買ったんでしょって、
笑って言ってほしくて。
「…そうだっけ…、…ごめん、覚えてない、」
「……っ、、そっか。…まー、…俺が勝手に買ったけん…っ、」
たっくんの言葉に、
唇が震えていくのを感じて、
ラン兄が戻ってきたのが見えた瞬間に、
俺もトイレ、と席を立って、楽屋を出た。
***
楽屋を出て、廊下を歩きながら、自販機の前で立ち止まる。
“…あれ…、リュウキも同じの持ってたっけ、”
さっきの言葉が頭を過ぎって、
震えていく手で、ネックレスをぎゅっと握った。
“いいなー俺も買う!って言ったの覚えとらんっ、?”
咄嗟についた自分の嘘と、本当の事が、少しだけ重なる。
……本当は、俺が欲しいって言って、買ったあのネックレス。
“たっくんこれめっちゃかっこよくない?”
“うん、かっこいいね”
“……ねぇ、たっくん。…お揃い欲しい。”
“えっ、?…っ、、ふふ…っ、”
“え、だめ…?”
“ううん?…かわいいなって思って。”
“いやこれはかっこいいやろ、ゴールドやし!”
“ふははっ、違うよ、…リュウキがかわいいの。”
そう言って、…俺を、愛おしそうに見ていた。
俺が好きだからって、合わせてゴールドを選んでくれて。
……そんな、幸せだった瞬間を、
自分の中だけで抱えていくことが、
どんどんと辛くなっていく。
“…そうだっけ…、…ごめん、覚えてない、”
「…〜…っ、」
もう、…これを付けてる、意味もない。
ぎゅっとネックレスを掴んでいた手を襟足に回して、留め具に触れた瞬間に、ぐっ、と誰かに手を掴まれた。
「……ちょっと待って、」
「っ、え、?」
振り返ると、俺の手を掴んでいたのは、エイキだった。
「…っ、エイキ…、なん…っ、?」
「…リュウキ、一旦手離そ。…な、?」
そう言って、俺の手を誘導するように、ネックレスから離して下へと下ろす。
「ちょっと座ろ?」
そのまま、俺を近くの休憩所に引っ張るエイキ。言われるがままに、ベンチに並んで腰掛けると、エイキが俺を見て口を開く。
「……ごめん、…さっきの会話聞いとった。」
「、え…、?」
「俺メイクしてたから、リュウキは気付いてなかったかもやけどさ、聞こえてた。…そのネックレス、たっくんとお揃いやんな…?」
「…、なんで、知っとるん…、」
「……だって、前にたっくんから自慢されたもん。」
「……え、、?」
「リュウキに、お揃い欲しいって言われて、一緒に買ったって。…めっちゃ、嬉しそうにさ、」
「っ……、、」
ネックレスを買った時、初めて2人で一緒に付けた時の、たっくんの嬉しそうだった顔が、頭に浮かぶ。
嬉しかったのに、
…今は思い出すと苦しくて、
エイキの言葉に、思わず俯いた。
「……リュウキが辛いのは分かってるけど、…俺は、そう言ってたたっくんの事、忘れてほしくないから。」
「っ、…忘れとうのは、…たっくんの方やんか…っ、」
「、え…?」
思わず、やり場の無かった気持ちをエイキにぶつけてしまって、口を噤んで、言葉を選び直す。
「っ、…ううん、ごめん。……俺、もう諦めるって決めたけん、…ありがとね、エイキ。」
たっくんが、俺の事を想ってくれていたことも、忘れたくて忘れたわけじゃないことも分かってる。
……でも、これ以上、
たっくんを想い続けたって、
虚しくなるだけで、何も生まれない。
「……、リュウキ。…ごめん、ちょっと酷な事言うな。」
「、なん…、」
「……このままさ、…もし、たっくんが他の人を好きになっても、同じ事言える?」
「っ……、、え…、」
「…酷い事言ってごめん。…でも、ちゃんと自分の気持ち、大事にしてな。」
そう言って、また楽屋に戻っていくエイキ。
耳に入ってきた言葉が、頭じゃなくて、
……胸に、直接、突き刺さっていた。
***
(🍓視点)
リュウキが楽屋に来て、
……その顔を見た瞬間から、
元気が無いことはすぐに分かった。
元気で、明るくて、可愛くて。
そんなトレードマークのような溌剌さが、
最近のリュウキからは、抜け落ちている。
……きっと、あの日。
俺がリュウキを助けたときから、
何か、責任のようなものを感じているのだろう。
無事だと、俺がみんなに伝えた時、
安堵した表情が広がっていく中、
リュウキだけが、泣きそうな顔をしていた。
“俺のせいで”なんて、自分を責めて。
そんな気持ちにさせたくなくて、
“泣くの初めて見た”なんて、
少しからかうように、笑ってみせた。
それでも、浮かない顔をしていたリュウキの事が心配で、それから自然と、目で追うことが増えていた。
俺のコレオを振り入れしていた合間、
ふいにリュウキと目が合って、
……やっぱり、俺の様子を窺っているのかなと、心配になって近付いた。
何気なくコレオの感想を求めると、言おうとした言葉を、一度止めたリュウキ。
何かを気遣っているのか、
そう気になっていると、
……”めっちゃ好き”なんて、
俺を真っ直ぐに見つめて呟いた。
その、少し揺れた瞳に、
…なぜか、じわりと胸が熱くなって。
褒められた嬉しさ以上のものを、
感じた気がして。
俺に向けられたその眼差しが、
……ずっと、心に残り続けていた。
“たっくん、これ見て。おもろくない?”
移動車の中で、ふいにリュウキがそう話し掛けてきて、俺を笑わせようとしてくれたのか、スマホで動画を見せてくれた。
俺がくすりと笑うと、嬉しそうな顔になって。
その顔を見たら、俺も嬉しくなって。
……自然と、リュウキに身体を寄せていた。
手が触れてしまってから、
自分が近付き過ぎたことに気付いて、
すぐに謝って、手を離した。
“…ううん。俺も、…ごめん。”
そうリュウキが謝ってきたとき、
先に謝ったのは俺なのに、
……なぜか、胸がチクリと痛んで。
いつも、ずっと隣にいたのに、
あの時初めて、リュウキの事を、
遠くに感じていた。
手を、離さないでいられたらいいのに、なんて、
……なぜか、その距離感に寂しくなって、
リュウキの事ばかりを、ずっと考えて。
元気がない姿を見たら、心配になって。
……手を、離した時の距離を、
少しだけ、取り戻すように、
仕事で落ち込んでいたリュウキの頭に、
そっと触れた。
触れた瞬間に、胸がぎゅっと掴まれるような、
……なんだか、もどかしい気持ちになって。
何かを我慢しているような顔をしたリュウキに、無理をして欲しくなくて、”ゆっくり休みなね”、と声を掛けた。
……それから、リュウキは少しずつ、
俺から距離を取っているような気がしていた。
“…リュウキ、?”
“っ、…あ、ラン兄も呼ぼうや、ラン兄〜、”
呼べば返事をしてくれるし、話もしてくれる。
…けど、前のように2人にならないし、隣に来ることがなくなった。
少し前までは、気付いたら俺の隣にいて、
俺も、気付けばリュウキの隣にいた。
リュウキとはそんな関係性で、今までは一番一緒にいたし、メンバーといる時も、なぜかリュウキが気になって視線をやっていた。
……きっと、あの事故の時も、
俺は無意識にリュウキを見ていたから、
助けることが出来たはずで。
あの時の事を、もしかして申し訳なく思っているのかと、最初はそれが気になって、リュウキを目で追っていた。
……でも、それがなんとなく、他のメンバーとは違う感情である事はわかっていたし、ずっと前からそうだった気もしていて。
“……たっくん、て、さ、…っ…、付き合ってる人とか、…おるんやっけ”
リュウキがいきなり聞いてきた、
あの言葉も、ずっと気になっていた。
なんで、あんなこと聞いてきたんだろう、
……もし、
もし、リュウキが。
リュウキも、そういう気持ちだったら。
なんて、
……そんな事まで、考えるようになって。
でも、リュウキはきっと、
俺と距離を置こうとしている。
それを、…会話や目線でひしひしと感じて、
これは思い過ごしだと、幻想だと、
無理矢理に、気持ちを膨らませずにいた。
***
仕事が終わって事務所に戻ると、部屋にはエイキだけが残っていた。
「エイキ、お疲れ。」
「あ、たっくん、お疲れ。」
「みんな帰ったの?あとエイキだけ?」
「あー、ううん。…リュウキもいるよ、」
「え、?」
「さっきトイレ行くの見かけたから。…じゃあ、俺帰るね、たっくんまた明日な?バイバイ、」
「あ、うん…っ、バイバイ、」
ソファーに座ってスマホを見ていたのに、急に鞄を持って立ち上がると、バイバイ、と部屋を出て行くエイキ。
“…リュウキもいるよ、”
その言葉に、帰ろうとした足を止めて、
エイキが座っていたところに腰を下ろした。
少し待っていると、ガチャ、と部屋のドアが開いて、顔を上げると、入ってきたリュウキと目が合った。
「っ、…たっくん、…おったんや…っ、」
「さっき帰ってきた。お疲れ、リュウキ」
「うん、おつかれ…っ、」
そそくさと鞄を取りに行って、ドアに向かおうとするリュウキに、立ち上がって声を掛けた。
「リュウキ、帰るの?」
「あぁ、うん…っ、ばいばい、また明日ね」
「俺、今日車だから、送ってくよ」
「え…っ、?……っ、や、…大丈夫、ありがと、」
そう言って、すぐに俺に背を向けた姿に、胸がちくっと傷んで、咄嗟に近付くと、腕を掴んでしまった。
「まって…っ、」
「っ、…え、なにっ、?」
「一緒に帰ろう、」
「……、いいって…っ、」
「リュウキ。」
ぐっ、と、リュウキの腕を掴む手に、無意識に力が入って、そこに視線が注がれる。
下唇を噛んで、少し眉間に皺を寄せながらも、リュウキが口を開いた。
「……っ、…わかった…、」
戸惑いながらも返ってきたその返事に、半ば強引だったけど、内心安堵する。
少しでも、リュウキが考えていることを知られたらと思いながら、車へと向かった。
***
(🐿視点)
“一緒に帰ろう、”
そう、腕を強く掴まれて、
……名前を、切実そうな顔で呼ばれて、
なんで、たっくんがこんな事をしているのかも分からないまま、
期待、したくないと思っていたのに、
たっくんに真っ直ぐに見つめられて、
…思わず、”わかった”と、口にしてしまっていた。
「……ごめんね、無理矢理乗せちゃって、」
「、…ううん。…ありがと、送ってくれて、」
……たっくんの、香水の匂いがする。
この匂いを嗅ぐと、
どうしても、色んな感情が、
心に沸いてしまう。
大好きだった匂いなのに、
、今は、…ただただ、
息を吸う度に、苦しい。
車に揺られながら、そんな事を考えていた。
「……リュウキ、今日はどうだった?仕事、」
「、え?…あ、仕事、?」
「うん。…ほら、こないだ、ちょっと落ち込んでたから。…今日は大丈夫だったかなって」
「…っ、…うん。大丈夫、ありがと…っ、」
「そう。ならよかった、」
たっくんの、メンバーとしての優しさが、
痛いほどに、身に染みる。
……きっと、俺が喋らなかったら、
口数が少ないことを、
たっくんは心配してくれるんだろうな。
そう思いながらも、なかなか口を開けないでいると、たっくんがまた話しかけてくる。
「…そうだ、オフは何してた、?」
「っ、……、え…、」
不意に放たれたその言葉に、身体が固まった。
何も、悪気のない言葉。
分かってる。
記念日だったなんて、たっくんは知らない。
俺が、…どういう気持ちで過ごしたかなんて、
知るわけがない。
……けど、
だけど。
それだけは、
……たっくんに、聞いてほしくなかった。
「……、リュウキ…、?」
「……、っ、、」
「…、どうしたの、…、ちょっと停めるね」
何も言えないでいると、俺の様子に気付いて、たっくんが車を近くの駐車場に停めた。
「…リュウキ、…どうしたの、」
「……っ、」
「…なんかあったの、?言ってよ、」
……たっくんが、
“一緒に帰ろう”って言ってくれて、
本音では、嬉しかった。
でも、…車に乗るのは、怖かった。
だってここには、
たっくんとの思い出が、
たくさん、…たくさん、詰まってるから。
「………煙草、」
「え、?」
「煙草、吸わんの…、」
「……なんで、?」
「……車停めたら、絶対吸っとったけん、」
「、え……、?」
香水の匂いも、
くだらないやり取りをして笑った事も、
たっくんの煙草タイムで、
少しだけ話が中断しちゃう事も、
……でも、
助手席から見る、
煙草を吸う横顔が、
大好きだった事も。
「…っ?、……リュウキは吸わないから、嫌でしょ…?」
「っ……、」
あぁ、全部、
……全部、…、ぜんぶ、
本当に、
わすれちゃったんだ。
身体がどんどん、
震えていくのを、
服を掴んで、必死に抑えた。
「……っ、なんで…、」
「…リュウキ、?」
たっくんが、
何も知らないような声で、
俺を呼ぶ度に、
心が、すり減っていく。
なんで、
なんで、一人で、
そんなに遠くに行っちゃうの、
ずっと、隣におったのに。
毎日、おやすみって、言ってくれたやん
俺の頭、撫でてくれたやん、
お揃いだって、嬉しそうにして、
……記念日だって、
ずっと、”楽しみだね”、って、
言い合って、
愛おしそうな顔で、
……他の、人とは、違う顔で、
俺に、
“好きだ”って、
言ってくれたやん。
“……このままさ、…もし、たっくんが他の人を好きになっても、同じ事言える?”
「……っ、ひ…ぅ、、」
「っ、リュウキ…、?」
……言えない。
言えないよ、俺、
たっくん、
俺、やだよ。
「っ、ふ、…っぅ、、やだよ、…たっくん、っ、やだ…っ、やだ、忘れないでよ、、っ、、」
「っ、リュウキ、?どうしたの…っ、」
たっくんの優しさも、
愛おしそうな顔も、
気持ちも、
全部、……ぜんぶ、
全部。
やだ、…やだよ、
俺のであってよ、
お願いだから、
どこにも行かないでよ、
「やだよ…っ、思い出してよ、、っ、おねが…っ、おねがい……っ、〜っ、ひ、…っ、ぅ、」
「…っ、…、りゅうき…っ、、?」
何度も、忘れようとしたって、
ねぇ、全然、諦められんよ、
たっくんが、全部忘れちゃってもさ、
俺はひとつだって、離せないままだよ、
たっくん。
俺はたっくんが、大好きだよ、
今も、今までもずっと。
俺にとっての特別は、
たっくんしか、おらんけん。
だから、
俺、たっくんの事を、
ずっと、好きでもいいかな、
……ずっと、この先も、
いつまでだって、俺は覚えてるから、
だからお願い、たっくん、
俺と、ずっと。
……そばに、いてよ、たっくん。
「…っ、ぅぐっ、…やだっ、…たっくんっ、…ぉれっ、たっぐ、がっ、ぃなきゃっ、…ゃだっ、やだよっ、……ぉねがい、っ、…おもぃだしてよ、っ、〜、ひっ、ぅ、う、〜〜…っ、、」
「っ、りゅ、うき……、、」
気持ちが、ぜんぶ、
何もかも、抑えきれなくなって。
たっくんへの気持ちしか、見えなくなって。
感情が、視界が、
涙でぐちゃぐちゃになって、
たっくんの顔を、見ることができなかった。
***
(🍓視点)
リュウキが突然、
大粒の涙を、ぼろぼろと零し始めた。
辛そうに、苦しそうに、
“忘れないで”
“思い出して”
絞り出すように、そう言いながら、
俺の名前を呼んでいる。
リュウキの言葉と、
自分の頭の中が、
上手く噛み合わなくて、
ただ、悲しそうに泣いているリュウキの姿を、
胸が張り裂けそうなくらい、
見ているのが、辛くなって。
「……っ、りゅうき、……、」
……きっと、なにか、
俺のせいで、泣いている。
それだけは、伝わって。
ずっと、近くにいたのに、
……ちゃんと、見ていたはずなのに、
どうして、泣いてる理由が分からない?
どうして、分かってあげられない?
そんな自分に、苛立って、
……無力で、情けなくて。
どうか、泣かないで。
そう願うことしかできなくて、
リュウキの頬に手を伸ばして、
涙を、指で拭おうとした。
「っ、た、ぐ、…っ、」
頬に触れると、
涙をいっぱい溜めた目が、
少しだけ、俺を見つめて。
……、なぜか、その瞬間に、
頭の中に、リュウキが泣いている顔が、
ぱっ、と、思い浮かんだ。
今とは違う、
……もっと、別の、
泣いているのに、
……どこか、嬉しそうな、
リュウキの顔。
“ふふ…っ、リュウキが泣くの初めて見た、”
“、……、え…?”
、……、俺、あれが、
……初めてじゃ、ない。
「……、4回目だ、」
「、…っ…え…、?」
「……4回目だ…、リュウキが、…泣くとこ、見たの…、」
「っ、…た、っ、くん、…、?」
頭の中で、いきなり、
リュウキの色んな顔が、蘇って。
「……、初めて、…見たって、言ったけど、…あれは、…3回目、」
「、っ、…たっく、っ、」
俺に、向けられたその顔が、
……なんだかとても、
愛おしくて、堪らなくて。
「こないだも、泣いてた…、…煙草、吸って……、」
「っ、、…っ…もう、いっかい、は…、…っ、?」
あぁ…、
そうか、
……そうだ、
俺は、ずっと、
………ずっと、リュウキに、
この気持ちを、持っていたんだ。
「……俺が、…、…好きだって、言ったとき…っ、」
「っ、〜…っ、う、…うぁっ、たっ、ぐ、、うあぁあ…っ、〜〜っっ、、」
リュウキが、笑っていると嬉しい。
リュウキが、苦しそうだと、辛くなって。
……リュウキが、離れていくのが、寂しかった。
この気持ちが、
俺にとって、
リュウキが、特別な存在だと、
ずっと、ずっとそうだったんだと、
……リュウキと、たくさんの時間を、
過ごしてきたんだと、
全部が、一気に、
胸の中に広がって、
じんわりと、熱くなって、
泣きじゃくるリュウキを、
ぎゅっと、力強く抱き締めた。
「っ、、…っ、ごめん……っ、…ごめんっ、、りゅうき、…っ、ごめんね……っ、」
「っ、たっぐ、…っ、ぅ、っ、ぉもいだした、の、っ、?…ぜんぶ、っ、?」
「…っ、、うん…思い出した、全部、っ、……ごめん、りゅうき、本当に…っ、俺……、ごめん…、、っ、」
泣いた理由も、
……どれだけリュウキを、苦しめたかも、
全部が、胸に突き刺さって、
リュウキの気持ちを考えると、
涙がどんどん、頬を伝っていく。
「っ、う、…ょかっ、…よかっ、だ、ぁっ、…っ、たっぐ、っ、たっくん……っ、」
「…っ、うん……、ごめん…っ、ごめんね、りゅうき、……っ、」
腕の中で、俺を責めるでもなく、
ただ、”よかった”と漏らすリュウキが、
……狂おしいほど、
愛おしくて、切なくなる。
「っ、た、くん、、っ、」
「、ん…、?」
「っ、…もう、…っ、すきって、いっても、い、…っ、?」
「……っ、、好き。好きだよリュウキ、大好きだよ……っ、」
「〜っ、ぅ、うぅ…っ、すき……っ、たっぐ、う、〜っ、、おれっ、…たっくん、が、すきっ、…だいすき、、っ、」
「…っ、〜、…、うん…っ、俺も…、りゅうきが大好きだよ…、っ、」
確かめ合うように、
“好きだ”と、伝え合って、
俺が初めて伝えたときよりも、
リュウキは泣いていて。
……あの時とは違って、
俺も、一緒に泣いていて。
しばらく、そのまま泣き続けて、
失いかけた時間を取り戻すみたいに、
ずっと、お互いを、抱きしめていた。
***
(🐿視点)
たっくんが、全てを思い出して、
……子供みたいに、腕の中で泣きじゃくった。
ひとしきり泣いて、
たっくんの温もりと、匂いと、
ひとつも離れることのない距離が、
嬉しくて、…たまらなく、幸せで。
しばらく、お互いにそんな余韻に浸っていると、ふと、たっくんが俺の髪に触れながら、小さく声を漏らした。
「……リュウキ、ごめん……記念日、…過ぎちゃったね、」
申し訳なさそうに、悲しそうにそう言ったたっくんに、胸をぎゅっと掴まれる。
……たっくんが、俺を好きで、
俺のそばに、いてくれる。
それだけで、……俺は、もう。
「、…記念日なんて、…どうでも、いいけん……っ、」
「、え…、?」
「…、たっくんが、おってくれたら、、俺はもう、それだけで幸せやけん……っ、」
「っ、、りゅうき……、、」
「やけん…、ずっと、ここにおってね、」
「…っ、うん、いるよ。そばにいる、」
「うん……っ、うん。たっくん、、」
たっくんの、言葉ひとつひとつが、
身体に染み渡って、
たっくんの事が好きだと、
何度も何度も、実感させられて。
……離れていた分、
たっくんの事が、恋しくなる。
「……、たっくん、」
「ん、?なぁに…?」
「……そっち、いきたい、」
「え…、?…ふふっ、うん。…いいよ、おいで?」
狭苦しい車内の、
……もっと狭い運転席で、
たっくんに引っ付くように、
膝に乗って、ぎゅ、っとしがみつくと、
首元に顔をうずめた。
少し前まで苦しかった、
たっくんの香水の匂いが、
甘く、鼻を掠めて、
……狂おしいほど、
たっくんの事を、求めたくなる。
「りゅうき、」
「…、ん……、」
「くすぐったい。笑」
「……、たっくん、」
「ん、?」
「……すき。」
「、ふふ。…うん、俺もすきだよ、」
「……、今日、…一緒に寝たい、」
「うん、…寝ようね、」
「っ、……たっくん、」
「ん…?」
「ちゅー、して…っ、」
「っ、…、」
ねだるように、目を見つめると、
ちゅ、と軽く唇を重ねられて、
……すぐに、頭に手が回って。
深いキスをされた後、
たっくんが俺を見つめて、ふふ、と笑う。
「…こんな甘えん坊だったっけ、りゅうき、?笑」
「………/…、これは、忘れてもいいけん…っ、」
ちょっと恥ずかしかったけど、
……甘えたい気持ちの方が大きくて、
また顔をうずめるように、身体を寄せた。
「ふふっ、……絶対忘れない。」
ぎゅっ、と、
俺を力強く包み込んで、
噛み締めるように言った
たっくんのその言葉が、
胸の中で、…熱く、響いていた。
end.
🍓が🐿との恋人としての記憶だけを無くすお話。
ちょこみんとさん、リクエストありがとうございました…!!🙇♀️
短編の尺で、上手く表現できるかな…?
と、少し不安ではありましたが、
できるだけ、頑張ってみました…!
どうでしょうか、、😂
期待に応えられていなかったら、
すみません😭
(ほんで結局3部構成)(ギリギリ)
タイトルは、私の大好きなバンドの曲名を、
そのまま使わせてもらいました。
(気付いてくださった方、同じく好きな方がいらっしゃって嬉しかったです!)
この曲を聴いてたら、
なんだか、このお話に合いそうだな…と思いまして…、勝手にすみません、、😂🙏
この曲の、
「だからずっと この先も 君と生きてく日々の全てが記念日」
という歌詞が大好きで。
🐿も、最終的には、
そういう気持ちになるんじゃないかな、と思って、 この曲に沿って書いてみました。
聴きながら読んでいただけると、
結構、主題歌感すごいかなと思うので、笑
よかったら、聴いていただけると嬉しいです🥹
素敵なリクエストをありがとうございました…!🥹
次は、甘々を書きます!笑
コメント
23件
ほんとに最高でした🥹💖しっかり曲聴きながら読みました!全体的に歌詞と合いすぎててほんとに天才です‼️泣いてる時に思い出したのは2人だけの思い出があるからってのがめっちゃよかったです号泣しました😭甘々楽しみにしてます✨️
大好きな曲を大好きな人にこう表現して書いていただけてることほんとに嬉しくて堪らないです😭😭😭 記憶を取り戻すきっかけがリュウキくんの涙ってとこがもう……😭😭😭 (語彙力) 号泣しました😭😭😭😭 それと私もその歌詞大好きなので素敵な書き方で物語表現されていてほんまに最高でした😭😭😭😭💖 過去一レベルで泣いたし大好きですぅぅぅぅ😭😭 何回も読み直します🔥🔥🔥
1つ聴いてMAZZELのタクリュキかカイランかエイトムのどれかのケミで書いてみて欲しいのがあって、VAMPSっていうバンドの「VAMPIRE'S LOVE(日本語Ver.)」って言う曲があるんだけど、ヴァンパイアがある人に恋をする、結構切ない感じで歌詞的には片想いな感じかなぁ?🤔、結末はみちちゃんにお待たせしたい🥹 人生初リクエストをみちちゃんにお願いしたいなこれは🥺︎🫶