老人ホームの静かな中庭。
サトコは小さな盆栽の手入れに、毎日欠かさず時間を割いていた。
彼女は元中学校の教師だった。
年老いてここに移り住み、教え子たちのことを思い出しながら盆栽に向き合う日々。
「こんなに小さな枝一本にも、人生があるのね」
盆栽は答えないけれど、その枝ぶりは日に日に力強くなっているように見えた。
サトコは時折、昔の教室を思い出していた。
生徒たちの笑い声や、教壇に立った自分の姿。
若かった頃の情熱も、今では静かに盆栽に託している。
ある日、庭で若い職員が話しかけてきた。
「先生、教え子のみなさん、きっと今も先生のことを大切に思っていますよ」
サトコは微笑んで盆栽に話しかけた。
「教え子たちも、きっと自分の花を咲かせているわね」
盆栽の葉が、そよ風に揺れた。
その夜、ベッドでサトコは静かに目を閉じた。
小さな盆栽の姿が、彼女の心に温かい光を灯していた。
人生は長い。
けれどどんな時も、花を咲かせるチャンスはあるのだと、
盆栽は教えてくれていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!