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「あれ? 空は?」
「ん? くうちゃん宿しか予約してへんから自由席やで?」
はんちゃんは、そんなの当たり前だと言わんばかりにニコニコしながら、窓際のいい席に座っている。
別に、気ぃつかわんとはんちゃんも一緒に自由席に座ったって良かったのに。
「……もとちゃんの指定席って、何番?」
まだ緊張の取れない元が、隣から控えめに聞いてくる。
手元のチケットを確認すると、俺はど真ん中のパーティ席やった。
「あ……俺、おしっこ近いから端でいい?」
意味が分かってへん元と、自分のチケットを入れ替える。
本当は、通路側は歩いてる人とトランクケースにぶつかられるからあんまり好きやない。
でも。今日の全ては、俺の肩にかかってるからな。
「……今のうちに、はんちゃん独り占めしとき。優しいから、ベタベタ触る事以外は全部許してくれるで」
耳打ちしてニッと笑うと、元が少しだけ表情を緩めた。
どうやら空も、あえて空気を読んでくれたのかもしれん。
いつものノリなら、絶対俺の席を奪いに来てたはずやから。
「……はんちゃん、これ。もとちゃんが買ってくれた」
元が嬉しそうにはんちゃんの隣に座って、さっき買ったデザートを差し出している。
はんちゃんは「ありがとぉ!」と、今日一番のキラキラした笑顔を浮かべた。
それを見て、元もようやく緊張がほぐれたみたいや。よかった。
「えっ、二つも食べてええの!?」
はんちゃんが目を輝かせて聞くから、「「ええよ~」」と、元と二人でハモってしまった。
思わず目が合って、吹き出す。
人のものになっても、好きなもんは好き。
別にそれでええと思う。好きな相手に迷惑をかけへんのやったら。
「もとちゃん、着いたら遊びに行く場所、水族館で良かった? 泊まりたい旅館を先に選んだから、後付けになっちゃってんけど」
「うん、ええよ。イルカショーあるんやろ? 俺、子供の時以来やわ。めっちゃ楽しみ」
「上重もイルカショー見たいって! 俺、絶対もとちゃんと上重は気が合うと思っててんなぁ」
二つ目のデザートをペロリと平らげたはんちゃんが、「ご馳走様でした」とはにかむ。
……今の話、なんやったっけ。
可愛すぎて全部頭から飛んでいったわ。
「……そう、あと、部屋に露天風呂付き旅館も俺の希望」
元が、普段はんちゃんに喋りかけているようなトーンで俺に話しかけてきた。
ハッとして気まずそうにしたけど、俺にとってはチャンスや。
「え、それは俺が合流するって分かってた時点で、二人で決めたんやんな? 内容によっては、深刻さが変わってくるで?」
「もー! もとちゃんはすぐ下ネタに持っていくんやから!」
「……でも確か。……二人の時点で、その話は出てた……よな?」
元まで乗っかってきて、はんちゃんが顔を赤くする。
「ちょっと待って! ほら、上重までそんなこと言う!やっぱり二人ともそっくりやん!」
あはは、と三人で顔を見合わせて笑う。
よし。この調子や。
このまま、最高の旅行になりそうな予感がした。
「はんちゃん、しぃー。ここ、公共の場やから」
「だって、上重が!」
急に真面目な顔をして、指を口元にやる元。
真っ赤な顔をしたはんちゃんが、慌てて自分の口を手で塞いで怒っている。
職場でも、こんな感じなんかな。
どこに行っても、はんちゃんはこうやって面白がられてる気がする。
天性の「可愛がられ屋さん」やな。
「……ちょっとトイレ行ってくるわ。元、はんちゃんが興奮せんように見張っといて」
「ん、おけー」
さっき買ったおにぎりを頬張りながら、元が俺に指でサインを送る。
今のうちに二人の時間を作ってやった方が、後々、元の情緒も安定するやろ。
トイレに立つついでに、俺は自由席車両へと向かった。
体がデカくて姿勢がいいから、空の姿はすぐに分かった。
「意外と自由席って空いてるねんな?」
「…………ん?」
どさりと隣に座ると、空が目を見開いて俺をじっと見てくる。
「え……もとちゃん、いつからおったん?」
「いや、ちゃんと待ち合わせ場所で合流したやろ」
「……え、俺、はんちゃんと二人で旅行に来たはずやのに……!? はんちゃんがおらん!!」
大袈裟にキョロキョロしだした空を、「落ち着け」となだめて椅子に座らせる。
こないだの引きこもり事件のこともあるから、これが演技なのか本気なのか、ちょっと心配になるわ。
「……お前。俺のハニーちゃんは?」
「人の目がある場所やから大丈夫やって。この後は二人きりにさせんから、安心して」
俺がそう宥めると、空はふっと視線を落とした。
「……まあ、はんちゃんのこと信じてるから大丈夫かな、とは思ってんけど。でもさ、相手も男なわけやん? 力ずくでいかれたら、はんちゃんにはどうしようもないし」
「確かにな。俺ら、まだあいつのこと何も知らんしな」
「……そう。はんちゃんにいい顔しか見せてへんのは確実やん?」
空の声が、少しだけ低くなる。
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