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現代アメ日帝です!
視点無し
2月14日、バレンタインデー。
ピンクや赤の広告と一緒に、着飾ったスイーツたちがすまし顔でケーキ屋のショーウィンドウに並んでいる。
街全体がそわそわして見えるのは、日帝自身が浮き足立っているせいだろうか。
リュックに入れた小さな紙袋が潰れていないか心配になりながら、いつもの待ち合わせ場所に向かう。
入っているのは水色と紫のマカロン。よく見かけるスイーツなのに、作ってみるととても難しくて何度もやり直した。
敢えて手に持たないようにしたのは、やっぱり気恥ずかしかったからだ。
バレンタインの日に気になる人と会う。
ただでさえ緊張してしまうシチュエーションなのに、いかにもな紙袋を提げて登場するなんて考えただけでも頬に血が上る。
日帝「いつもと同じ…いつも通りだ、カフェ行って、お喋りして、サッと渡すだけ…」
落ち着くつもりで呟いた独り言なのに、余計に心臓がばくばくしてきた。
どうしよう、やっぱりダメかも。
弱気になる心をよそに、足だけはどんどん進んでいく。
通りを通り過ぎ、人々が足早に行き交う駅前の広場へ。
雑踏の中ちらりと見えた黒のコートに、思わず息を呑む。
駅舎の柱に寄りかかってぼんやりと辺りを眺める青年。トレードマークのサングラスはあまり見えない。
待ち合わせの相手-アメリカだ。
右手に持った携帯電話を時折眺める姿は、彫りの深い顔立ちと相まって物凄く絵になっている。
写真を撮ったらそのまま雑誌の表紙にでもなってしまいそうだ。
既に恥ずかしさが限界寸前の日帝は彼の正面から近づく勇気なんてなく、わざわざ回り込んで斜め後ろから声をかけた。
日帝「すまない。待ったか?アメリカ」
アメリカ「日帝ちゃん!いや、全然!」
尻尾があったら振っていそうなほど嬉しそうに笑いかけてくるアメリカに、彼女は思わず目を逸らす。
今まで何度も会っているどころか、奇妙な冒険を共に乗り越えてきたのに、今日ばかりは顔を見るのも一苦労だった。
日帝「そっか、なら良かった。寒いからあんまり待たせたら悪-」
視線をさ迷わせながら喋っていた日帝は、定助が左手に持っているものに気づいて言葉を止めた。
小ぶりで角張った紙袋。
中には白い箱が入っている。
火照っていた頬から血の気が引いていく。
どうしてこの可能性を考えつかなかったんだろう?
優しくて勇敢で、おまけに見目の良い彼が、女の子たちの視線を集めない訳がない。
「本命」の一つや二つや三つ、貰っていたって何もおかしくない。なのに私ったら、浮かれて待ち合わせなんかして。すごい勘違いしてたんじゃあないの?
日帝(糞……っ、泣きそう…)
大きく息をついて何とか堪える。
アメリカ「日帝ちゃん大丈夫?具合でも悪い?」
彼女の一瞬の動揺に目ざとく気づき、アメリカは少し身をかがめて覗き込んできた。
日帝「大丈夫だ、なんでもない。その、私-」
アメリカ「そう?無理はしないでね」
心配そうな二色の瞳や長い睫毛にどぎまぎしながら何とか取り繕う。会う前のふわふわした気恥ずかしさはとっくに消え失せていた。
今すぐ逃げ出したい。
そんな気持ちを察知して、ポケットの中のスマホがブブ、と鳴った。日本からのメールがきている。
しかし出るわけにはいかない。
用事を思い出したから-そんな言葉が喉元まで出かかった時だった。
アメリカ「これ、日帝ちゃんに」
突然視界を埋めたのは、先程から彼女の心を掻き乱している元凶である紙袋。
大日本帝国は、2秒ほどかけて、何が起きているか理解した。
アメリカが提げていた紙袋は自分に渡すためのものだったのである。
状況を理解した瞬間、短時間に乱高下した情緒は限界を迎え-彼女は口を半開きにしたままフリーズした。