テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『少し昔のある話』
Rsli
昔あるところに、
触れた者の運命を縛る呪いが残る村があった。
その呪いは、姿も音も持たない。
ただ一つの形で、人々の間に伝えられていた。
「夜に“本当の名前”を呼ばれた者は、
その相手から一生、離れられなくなる」
恐ろしい呪いだった。
だから人々は、夜になると互いを名前で呼ばなかった。
――ただ一人を除いて。
名を、らいとという。
彼は軽やかで、怖いものを信じなかった。
夜の闇の中でも、平気で人の名を呼んでしまう少年だった。
そして、もう一人。
その呪いを受け継ぐ役目を持つ青年がいた。
名を、ロゼという。
彼は呪いを知り尽くし、
夜になると村を巡って、人々の名を守っていた。
人々は囁いた。
「あの青年に名を呼ばれてはいけない」
「縛られるからだ」
ある夜、らいとは星を見上げながら、
無意識にその名を口にしてしまった。
「……ロゼ」
その瞬間、空気が凍りついた。
背後に、静かな気配。
「……今、呼んだ?」
振り向いたらいとは、初めて気づく。
――ああ、
――これは、戻れない夜だ。
「ごめん、知らんやった……」
ロゼは怒らなかった。
ただ、静かに目を伏せて言った。
「呪いは、かけた人じゃなく呼ばれた人に、重く残る」
「……じゃあ、ロゼが……」
「うん。君から、離れられなくなる」
夜は深く、長かった。
それでもロゼは逃げなかった。
らいとも、逃げなかった。
二人は並んで夜を越えた。
夜明け前、ロゼは小さく笑った。
「不思議だね。
呪いのはずなのに――苦しくない」
らいとは、少し泣きそうな顔で言った。
「……それ、呪いやなくて
約束やろ」
その日から、呪いの言い伝えは変わった。
「夜に本当の名前を呼ばれてはいけない」ではなく
「本当に離れたくない相手だけ、呼びなさい」
この話を、ある人はこう呼ぶ。
「名を縛る呪い」
またある人は、こうも言う。
「呪いを選んだ恋」
そして、古い書の最後には
こんな一文が残っている。
” 呪いとは、愛に名前を与えたものに過ぎない。”
真実を知るのは、
夜と、星と、
ロゼとらいと――二人だけ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!