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花月夜れん
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「う……う〜ん……」
全身が鉛のように重い。身体を動かそうとすると、全身がズキズキと痛む。ぼんやりとする意識の中、ゆっくりと瞼を開ける。
「……気が付きましたか?」
目の前には白い修道衣に身を包んだ、綺麗なオレンジ色の髪をした女性がこちらを優しく覗き込んでいた。
辛うじて動く眼球を動かし、周りを見回す。すでに日が暮れているのだろう。暗い森の中に、焚き火を囲んでいる数人の大人の人が見えた。
ぼんやりとした視界の中、徐々に意識が戻ってくる。
「……お父……さんと……母……さん」
「!?」
自分の言葉が聞こえたのか、辛そうな顔をする目の前の女性。
「今はまだ……ゆっくり休んでください……」
そう言われて頭を撫でられると、意識が徐々に遠のいていき、再び深い眠りに落ちていった。
⸻
数時間前
バチバチ!
髪の毛が電気で逆立ち、バチバチと放電を続けているエラリスの身体。その後ろではライナが鼻息を荒くして立っていた。
ズバッ!
ガシッ!
白い炎に包まれて倒れている鵺の尾を斬り、フィニスは捕まっていた少年を抱き抱えると、そのままアルテアの元へ駆け寄っていった。
「アルテア!」
「はい!」
すぐさま自分の膝に少年を寝かせ、回復魔法をかけるアルテア。しばらくしたのち、真剣な表情ではあるものの、安堵のため息をついた。
「恐らく、あの尻尾の毒蛇による毒が回っているだけでしょう……身体が麻痺していますが、命に別状はないかと思われます」
その言葉を聞いて、全員が安堵の息をつく。また、エラリスの放電も止まり、後ろにいるライナも落ち着きを取り戻していた。
「エラリス……さっきの凄かったわね」
見たこともないくらい高密度の魔法に、ニティアは驚いた様子でエラリスに尋ねた。
「アイツが死ぬほどムカついてライナを呼び出したんだけど。私の感情とライナの感情が重なった感じなのかな?私もよく分からないけどすごい力がみなぎる感じがしたの」
『わ……私もあの魔物が見ていて不快だったもので……ついエラリスさんの(バチバチっ!)に便乗してしまいました……。ひ!ひぃ……!か……勝手にイライラして(バチチッ!)ません!!』
「怒ってないよ。ありがとうね」
ビクビクしているライナの顔を優しく撫でるエラリス。
「魔変症の影響で逆に魔力の扱いが上手くなったとか……?今度私もなってみようかしら」
冗談混じりに笑いながら話すニティアに、ライナが反応する。
『エラリスさん……魔変症になったんですか……?あ!いえ、答えたくなかったら(バチバチっ)です、すみません!』
「うん。重症だったらしいけど、もう大丈夫だよ」
『!?』
驚いた表情のライナ。
『えっと……今の調子は……?』
「全然疲れてないかな。絶好調」
『そうですか……』
いつもオドオドしているライナが妙に落ち着いている。しれっとライナの身体に手を伸ばそうとするニティア。
バチバチっ!
『ひっ!!すみません!何でもないです!!最後は大変でしょうが、頑張ってください!!』
触る寸前のところでライナは放電をし、慌てるように消えていってしまった。
「あ……」
撫でられずに意気消沈しているニティア。
そんなやりとりをしている中、少し離れたところから突如ルシオが声を上げた。
「もう日も暮れる。火はカエデが起こしてくれたし、今日はここで休もう。それに……」
そう言って開けた場所の一点に視線を向ける。
そこにあるのは、鵺の食事として放置されていた、2人の亡骸。
「ええ。先ほどまで生きていた方はまだしも……もう片方の方に関してはこの状態で運ぶわけにもいきません……忍びないですが、ここで埋葬いたしましょう」
カエデの言葉に、全員が視線を1箇所に集め、小さく頷くしかなかった。
回復魔法を少年に当て続けているアルテアが辛そうな表情で続ける。
「目を覚ましたこの子に……この光景を見せたくありませんからね……」
⸻
「ん……」
木漏れ日が差し込み、薄暗い森の中を照らし始める。眩しい光が顔を照らし、目を閉じていても感じる眩しさに、少年はゆっくりと目を開いた。
「おはようございます」
微かに覚えのある女性が目の前に座っていた。
「お、気が付いたか?腹減ってないか?」
2本の剣を腰にぶら下げた男の人が声をかけて来る。
「……」
あたりには知らない大人達。少年は訳もわからず、咄嗟に自分の身体にかけられていた布を握りしめ、身を縮める。
「身体は……痺れていたり、痛い所はありませんか……?」
優しい声の女の人の声を聞き、自然と少年はある言葉を口にしていた。
「お母さん……」
自分の無意識の言葉に、記憶が少しずつ戻ってくる。夕凪港からアマテラスまで帰る林道の中……突如現れる魔物……自分と母親を逃すため、立ち向かい引き裂かれる父親……逃げなさい!と叫びながら噛みつかれている母親……
「お父さんとお母さんは……!?」
「「!!?」」
大きな声に、一斉に視線が集まる。
「ごめんなさい……。私たちが助けに来た時には……もう……」
目の前の女の人が目に涙を浮かべて俯いている。先ほど声をかけてくれた男の人。その人の視線の先を目で追う。
視線の先には、2本の木が十字に組まれて立てられていた。そして、その十字架にぶら下げられていたのは、見覚えのある両親の装飾品。
足が自然と、その十字架の前まで動き出す。
そしてその場で座り込む少年。
地面に落ちている小さな木の枝を1本拾うと……
スラスラと文字を空中に書き始めた。
「これって……!?」
後ろから聞こえる女の人の声。しかし、気にせずに空中に文字を書き続ける。
文字を書き終えた瞬間、その文字がひとつに集まり、2つの火の玉が生成された。
「カエデと同じ……」
生成された2つの炎は、小さな鳥のような形へと姿を変え、そのまま空高く飛び上がる。
その空を見上げた少年は、空の彼方へ飛び去る火の鳥を見送った後、そのままふらりと倒れ込んでしまった。
コメント
1件
うわあぁぁぁ😭💦 この展開つらすぎる…!! 目覚めたばかりの少年が両親の死を知って、無言で術式を紡ぐシーン、涙が止まらなかった…。小さな火の鳥が空に舞い上がるのがせつなすぎてエモすぎるよ…。あの紅い術式、きっと最後の親孝行だったんだね。術式使える子なの!?って驚きもあったけど、それ以上に胸がぎゅーってなった話でした…。(200字)