TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

長野の佐久市で発生した異常個体、それに伴う崩壊現象。近くを活動拠点にしていた俺は集結した仲間達と共にその対処に向かった。


「クソ、本当に数が多いな……」


異界から溢れた魔物。その数は観測されているだけで五百を超えている。対する俺達ハンターの数は百程度。その内、この異界の難易度である五級を超えているのは七割程度か。


「ぐぁッ!?」


「大丈夫かッ!?」


隣で戦っていた仲間が傷を受けた。後ろに控えていた仲間がそいつを引っ張り、代わりに前に出る。


「ッ、ハァッ!」


交代の間の一瞬の隙、それをカバーするのは当然俺の役目だ。俊敏な動きで懐に入り込もうとしたコボルトを蹴飛ばしながら、錆びついた斧を振り上げるオーガの腕を斬った。


「ガァァッ!!」


「クソ、邪魔だッ!」


腕を斬られ、斧を取り落としたオーガはそれでも怯まず、全身で俺に体当たりを仕掛けて来た。俺は一歩だけ後ろに下がりながら、剣をオーガの胸に突き刺した。心臓を潰した。オーガはよろめき、地面に倒れた。


「ッ、そろそろだ! 後退ッ!」


「了解ッ、全員後退ッ!」


積み重なっていく魔物の死体。その中で戦えば不利になるのはこっちだ。地面にある程度の魔物が溜まって来たのを確認し、少し後退する。


「やばいッ、ぐッ」


「おいッ、クソッ! 助けらんねぇッ!」


後退の際に生じた乱れ、一人だけ動きが遅れてしまった仲間の男がコボルトに飛び掛かられ、地面に倒れてしまった。しかし、既に後退は完了してしまっていて、アイツを助けられる奴は居ない。あっという間に男は群れに呑まれてしまう。


「駄目だ、遂に死者が出ちまっ……なッ!?」


倒れた男。もう魔物に囲まれて見えなくなったその場所から、闇が溢れた。ドーム状に膨れ上がった闇は男を守るように広がり、魔物を弾き飛ばした。


「闇……魔術か?」


「アレは影だ。しかも、魔術だぞ。異能じゃない」


後方の魔術士がそう言ったのが聞こえた。だが、反応している余裕も無い。俺は既に眼前に迫っていたさっきとは別のオーガの拳を最低限の動きだけで回避し、首筋を剣で切り裂いた。


「ッ!? 何の魔術だよアレ……」


ドーム状の闇が波打つように揺れ、それは解れるように無数の触手に形を変え、鋭く尖った先端で近くの魔物の体を貫きつつ、倒れていた男をこちらに投げ飛ばした。


「やべェッ、よそ見してたらッ!?」


視線を一瞬外していたのがマズかった。俺の懐に潜り込んだコボルトが俺の足にしがみつき、動きを阻害している。


「ッ、クソッ、やめろッ!!」


さっき首筋を切り裂いたオーガ。それでもまだ死んでいないソイツは、俺への恨みを込めて拳を振り下ろした。


「……何だ、これ」


俺の脳天を砕く筈だった拳。それは、俺の影から生えた無数の闇色の棘で貫かれ、空中で動きを止めていた。


「まさか、さっきと同じ……?」


呆けている暇は無い。俺は剣を動けないオーガの胸に突き刺した。


「誰かは知らんが、助かった」


棘が消えていく中、カラスの鳴き声が聞こえたような気がした。









魔術の気配。群れの奥だ。


「……あぁ、アレも良くないな」


魔物の群れの後方でゆらりゆらりと浮いている大きな目玉の魔物。その体から伸びる無数の触手は不規則に揺れている。

あの魔物はフロートアイ。魔術を操る魔物で、今も無数の魔法陣を自身の周囲に浮かべている。更に厄介な性質として、この魔物と目を合わせた者は魔術の発動が阻害される。


「ッ、クソ、魔術がやばいッ! 落ちてくるぞッ、誰か止められないのかッ!? 障壁はッ!?」


「避けろッ! 障壁は無理だッ、眼が合っちまったッ!」


炎を纏う大岩がハンターの集団に落ちてくる。このまま行けば前衛に小さくない被害が及ぶな。


「弾いておくか」


俺は空中に飛び上がり、その大岩をフロートアイの方に蹴り返した。より速度を上げて飛来する大岩にフロートアイは反応出来ず、グチャグチャに潰れた。


「ッ、ナイスだッ!!」

「今の誰だ……? 魔術の気配は感じなかったぞ?」

「誰でも良いッ、前だけ見ろッ!!」


俺はそのまま地を蹴って飛び上がり、戦場を上から俯瞰する。そこそこ大きな群れだな。


「……なるほどな」


クリムゾンオーガがあと六体、フロートアイが八体、こいつらは先に片付けておこう。


「一つ」


赤いオーガの体が真っ二つに割れる。


「二つ、三つ、四つ……五つ、六つ」


戦場を飛び回り、六体のクリムゾンオーガを連続で割っていく。


「次は、目玉だ」


残るは八体のフロートアイ。好き放題に魔術を飛ばしていたようだが、問答無用で真っ二つに割っていく。


「さて、異常個体はどこだ?」


厄介そうな奴は粗方片付けた。残すところは異界崩壊の原因である異常個体だけだ。しかし、さっきから見つかっていない。


「……付近には居ないのか?」


この感じ、明らかに近くには居ない。


「魔力による感知……流石に人が多すぎるな」


どれだけの範囲で感知できるか分からない上に、これをしてしまえば俺の存在が露呈する確率はかなり高い。


「……そもそも、遠くに居るなんてあるのか?」


異常個体が群れを率いている魔物だとすれば、近くに居ないのは不自然だ。俺が気配を察知できない程遠くに居るとは思えないし、隠れているとしたら群れが対処されようとしているこの現状を放置するとも思えない。


「待てよ、七里はどこだ?」


連絡してきた時間からして、アイツは既に着いている筈だ。元準一級のハンターの七里がこの状況でどこにも居ない? 有り得ない。


「……少し、試すか」


俺は目を閉じ、瞼の上に手を翳した。すると視界が変化し、俺の目が魔力だけを捉えるようになる。


「魔力だけを見ても……分からないな」


無限の距離を見れる訳ではないとはいえ、かなり遠くまで確認できる筈の魔力視でも異常個体らしきものは見つけられなかった。


「だが、何だ……? 妙な空間があるな」


魔物の群れから少し離れた場所、空気中の魔力が妙に歪んでいる場所がある。


「ここは……あぁ、そういうことか」


この歪み。近付いて調べれば直ぐに分かった。空間が不安定で、特有の揺れが発生している。


「そこに居るのか」


俺はその空間の中で魔術を行使した。


「『門にして鍵《アウターロード》』」


五芒星の印が宙に浮かび、それは扉のように開いた。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

11

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚